部下を育成しゴールを示せるか

どういう人材が欲しいか、ということも大切なのですが、会社として、管理職として、人材をいかに教育し、伸ばしていくかという姿勢も不可欠なのです。だから、最初から「こういう人はいらない」といったことはあまり言いたくありません。

三菱電機社長 
山西健一郎氏

私も管理職になる前は、あまり教育、育成などということを意識していませんでした。会社は教育機関ではなく、プロフェッショナルの集団として給料をもらうのだから、当然アウトプットのみを出せばいいと。極端なことを言えば、教育・育成してもらいたかったら指導料を払え、くらいに思っていました。

けれど、それでは組織として最終目的地に辿りつくことができません。

私は主に生産技術部門を歩いてきましたが、2003年に、生産技術センター長に就任しました。こういった研究所で部下に仕事の目的は何かと問うたとき、研究そのものを追求していく、あるいは研究所という組織そのものをよくするものだと考えがちなのです。

しかし、それは最終ゴールではありません。企業として利益を出して、従業員、株主、顧客ひいては社会に還元していく、それこそが仕事の最終目的なのです。考えてみれば当然のことなのですが、現実には、自分が関わる狭い分野での能力を突き詰めていけばいいのだと考えてしまう社員は少なからずいるものです。

半導体生産の現場で使う、空気清浄度が一定に保たれた「クリーンルーム」という設備があります。生産のプロセスでは、ミクロン単位、コンマミクロン単位のゴミや異物を排除しなければなりません。そのゴミをいかに減らすかという技術の開発に長らく携わっていましたが、それなりの成果が出て、非常に生産性を向上させました。

しかし、この手の技術はある一定のレベルまでいくと、製品の不良率にほとんど影響がなくなってきます。ところが、異物排除を研究しているとそこばかりにこだわってしまい、組織全体がそちらに向かってどんどん動いてしまいました。

しかし、そもそもゴミを減らす目的は、デバイスの不良率を減らして製品の生産性を上げることなのです。それ以上、異物排除を徹底研究しても利益には貢献しません。そこで、半導体の設計、たとえば構造や配線パターンなどをどうつくるかで不良率を下げるように方向転換させました。目的に向かうことを根気よく指導した結果、不良率を大きく下げることに成功しました。

仕事の最終目的を常に意識しているかどうかで、生産性はまったく変わります。自分自身もそれを常に自覚しながら、上司として繰り返し指導していかないと結果は出せないのだと、ちょうど課長から部長になる時期に悟ったのです。