夕食のおかずが好きなものだったり、休日にプールで泳いだり、珍しくベイスターズの完封勝ちを見たりしたとき、私はこの上ない幸福を感じる。全く同感と賛同してくれる人は少ないだろう。
何を幸福と思うかは人によって違う。幸せ感は、本来とことんパーソナルなものだ。
しかし一方で、国や地域、年齢などのセグメントで幸福感の傾向をさぐることには意味がある。自分は幸せだと思う人の割合が高い国のあり方を検討すれば、自国の税制や経済政策を考える参考になるだろう。
本書は幸せの指標について豊富なデータを示しながら、わかりやすく解説している。
第3章「最高に幸せな国」で紹介されるデンマークは、多くの調査で幸福度世界1位とされることが多い。カギは高い福祉サービスにあるが、もちろん福祉はタダではなく、税負担の裏返しだ。高福祉高負担の国が数ある中、デンマークの幸福度が高いのは何故なのだろうか。3つに要約してみよう。
(1)ITを中心に経済が強い。(2)労働市場が整備されている。(3)職業間の所得格差が小さい。
気候に恵まれもともと農業が強く、近年はIT先進国として競争力を保っている。政府は企業を過度に保護しないが、手厚い失業保険や転職支援制度のおかげで、労働市場の流動性は高い。また職業間の所得格差が小さく、最も高い弁護士と最も低い販売店員の差は約2倍だ(日本やアメリカは3~4倍)。歴史的に平等、民主、連帯の強い意識を持ち、ふところ具合もまずまず、周囲には羨むほど極端な金持ちも見当たらない。加えて高福祉の安心感もあるため、高い税負担にも耐えられるのである。