重視すべきは国民総生産か、国民総所得か

産業競争力会議の締めくくりにあいさつする安倍晋三首相。(PANA=写真)

去る6月12日に、安倍晋三首相が議長を務める産業競争力会議はアベノミクスの「第3の矢」の内容を明らかにした。それは、94ページにものぼる報告書「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」とそれを進めるための「日本再興戦略 中短期工程表」に示されている。「スラスラわかる『アベノミクスの経済学』」(http://president.jp/articles/-/10529)を執筆したなかで、アベノミクスの「第1の矢(大胆な金融政策)」と「第2の矢(機動的な財政政策)」が経済(生産物市場)の需要サイドに作用する一方、「第3の矢(民間投資を喚起する成長戦略)」がその供給サイドに作用することによって、アベノミクスがめざすところの「成長による富の創出」に寄与しようとしていることを説明した。そして、これらの3本の矢が一緒になって初めて、日本経済の成長に寄与することを述べた。

現状では、「第1の矢(大胆な金融政策)」と「第2の矢(機動的な財政政策)」が先に放たれ、先行しているが、供給サイドの「第3の矢(民間投資を喚起する成長戦略)」が的を射ないかぎりは、需要サイドによる景気刺激策はその場限りのものとなり、確固たる経済成長には結びつかない。さらには、旧態依然として規制にがんじがらめにされている経済界は、「第3の矢(民間投資を喚起する成長戦略)」を待望している。そこで、本稿では、アベノミクスの「第3の矢」に焦点を当てて、アベノミクスを再考する。

アベノミクスで想定している経済成長は、国内総生産(GDP)の成長である。すなわち、生産する者が国内企業であろうと外国企業であろうと、それは問題ではなく、日本国内で生産された総額であるGDPにフォーカスしている。このGDPに対する概念として国民総所得(GNI)がある。これは、国内企業を含む国内居住者が、国内や国外で稼得した所得総額を意味する。日本国内に限定せずに、日本人が世界中で稼いだ所得である。