ワールドカップ出場を決めた夜
一瞬、目が合った。
ついどんぐりマナコに吸い込まれそうになる。その深淵なる目はすべてを見つめ、すべてを吸収しようとしているようだった。
「はじめまして」。名将はそう日本語であいさつし、握手を求めてきた。偉ぶったところはこれっぽっちもない。自然体。空気がやわらかいのだ。
アルベルト・ザッケローニ。イタリア北東部のエミリア・ロマーニャ州生まれの60歳。8月末でちょうど来日3年目となった。選手との信頼の絆は強まり、チームを来年のワールドカップ(W杯=ブラジル)に導いた。
指導スタイルは、強制ではなく、協調である。本人のコトバによれば「日本人として日本代表を率いているつもりで仕事に取り組んでいる」という。
「個人的には、就任したときから、チームの文化を変えるつもりはないし、自分のカラーを強制するようなスタイルは持っていません。自分のサッカー哲学を植え付けるところはあるでしょうが、できるだけ選手たちのことをわかろう、尊重していこうという姿勢を貫いています。自分の仕事は、まず選手たちのことを深く理解すること、選手たちに合ったスタイルをつくり上げるということですから」
あのW杯出場決定の夜から2カ月半(取材当時)。選手もサポーターも歓喜に酔った。
――あの日のことを覚えていますか?
「就任当初の大きな目標は2つでした。1つはW杯に出場すること、もう1つがW杯でいい戦いをすることです。その1つ目の目標を達成した喜びはありました。W杯に行けて当然という空気が流れていたんですけど、実際、選手たちが喜んでいる姿を見て、監督としてうれしくなりました。またサポーターたちの喜んでいる笑顔を見て、自分はとっても感激したのです」