2013年9月16日(月)

聞き手の生活に密着させると、数字の効果は倍増する

達人に学ぶ「伝わる技術」 第19回

PRESIDENT Online スペシャル

著者
上野 陽子 うえの・ようこ
コミュニケーション・アナリスト

上野 陽子カナダ・オーストラリア留学後、ボストン大学コミュニケーション学部修士課程でジャーナリズム専攻、東北大学博士前期課程で人間社会情報科学専攻修了。通信社の国際金融情報部、出版社、海外通販会社役員などを経て現在に至る。著書に『スティーブ・ジョブズに学ぶ 英語プレゼン』(日経BP社)、『名作映画いいとこだけの英会話』(ダイヤモンド社)、『コトバのギフト~輝く女性の100名言』(講談社)、『1週間で英語がどんどん話せるようになる26のルール』(アスコム)、『Primeシリーズ1・ビジネス英語新人研修―女子のフレーズー』(ジャパンタイムズ)ほか多数。

執筆記事一覧

上野陽子=文
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聞き手にとっての「意味」が存在しているか?

宇宙に関する、こんな記述をみかけた。

「地球の円周はおよそ2万4千マイル、地球から月までの距離はおよそ25万マイル、太陽までは1億マイル、太陽に一番近い星ケンタウルス座アルファ星までの距離は25兆マイルである」(*1)

ロマンあふれる、宇宙のかなたに引きこまれそう数字ながら、私レベルがどんなに想像力をふくらませてみても、25兆マイルがどれほどの距離なのかは理解の粋を越えている。まさに雲をつかむような話ながら、それでも地球の円周というイメージをつかみやすい数字にはじまり、地球から月までの距離、太陽までの距離……と順に空間が広がっていくことで、だいぶ理解しやすくなっている。

「聞き手の日常の時間や距離に落とし込んで伝えること」で誰にでも理解はしやすくなると考えれば、たとえばここによく使われる<25兆マイル=光速で4年3ヵ月かかる距離>と加えたら、漠然とでもイメージがつかめそうだ(正直、光速自体も理解はできないけれど、なんとなくよく聞く言葉の単位にはなるだろう)。さらには、こんな説明が続いていた。

「われわれの銀河、つまり天の川は、相互の重力下で互いのまわりを軌道運動している約1000億の星の集まりで、直径は10万光年である。言い換えれば、光が天の川を端から端まで横切るのに10万年かかるということだ」

ここでも果てしない話ながら、ポイントは“言い換えれば”である。「光が横切るのに10万年かかる」の表現に言い換えられただけで、私たちの日常世界の時間として感じられるだろう。こうした聞き手の理解を越えた数字を提示するときに、出来る限り噛み砕き、日常レベルに落として説明をすることで、聞き手と話の空間を共有できるようになるものだ。

宇宙でもコンピューターのギガやテラでも、専門分野でない人間にとっては、遥か異空間の数字に聞こえるものである。ビジネスにおけるこうした数字のレトリックは以前にも少しふれたけれど、結局は「その数字が聞き手にとっていかに意味のあることなのか」「聞き手の生活でどんな値なのか」を突きつめていくことが、相手の理解を高め、行動を促すために重要になってくる。聞き手にとって意味のある数字になったとき、始めてその数字には力が生まれてくるわけだ。たとえば、こんな例を見てみよう。

「今、1日500万曲が売れているんだ。それって、毎時間の毎分の毎秒58曲ってことだ」(*2)

これは、スティーブ・ジョブズがiPodを発売した当時のキーノートスピーチでの発言である。1日500万曲もすごい数字ながら、1秒=58曲に置き換えたことで、今この瞬間に58曲売れている! と、よりその場で直観的にスゴサが感じやすくなるだろう。1分なら3480曲、10分なら3万4800曲、1時間で20万8800曲……こうして聞き手にもっとも訴えかけやすい単位を選べばいい。

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