2013年7月30日(火)

仕事の7割はつまらなくても、面白くできる

しごとの未来地図

PRESIDENT 2013年8月12日号

著者
中原 淳 なかはら・じゅん
東京大学大学総合教育研究センター准教授

中原 淳1975年、北海道生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員などを経て、2006年より現職。著書に『職場学習論』『経営学習論』『プレイフル・ラーニング』(共著)など。

執筆記事一覧

東京大学大学総合教育研究センター准教授 中原 淳 構成=井上佐保子 写真=PIXTA
1
nextpage

「直接経験」が貴重になる時代へ

かなり前のことになりますが、若いビジネスパーソンからキャリアに関するご相談を受けたことがあります。彼曰く「今、かかわっているプロジェクトはしんどく、自分の将来のキャリアも不安だ。ここは、手っ取り早く取得できる資格をとって、転機をはかりたいのだが……」。

私は、少し考えたあとでこう言いました。「それは論理矛盾です」。さて、ここで私はなぜ「論理矛盾」と言ったのでしょうか。

ヒントは、そもそも資格とは何かを考えること。端的に述べるならば、資格は「差別化のための記号」です。しかし、看護、医療といった高度な専門性を有する資格ならば話は別ですが、手っ取り早く取得できる資格は、ほかの誰にとっても取得が容易で、差別化の記号としては機能しない可能性があります。すなわち、この選択には、そもそも矛盾があるのです。

雇用が不安定、かつ、流動化している社会では、人は差別化の記号を求め、そこに自らの将来のキャリア発達を重ね合わせる傾向があります。資格のすべてに意味がないとは言いません。しかし、安易にそれに飛びつく前に考えるべきことがあります。このような社会にあって、私たちは何を求めればいいのでしょうか。

図を拡大
「直接経験」の差が10年後のキャリアを左右する!

そのひとつは「差異化可能なビジネス経験」にある、と私は考えています。模倣が容易な社会にあって、容易にコピー&ペーストできず、他者にも代替できない。さらに、本人が確かな能力を持っていることを第三者が想像できる。そうした経験の価値が飛躍的に高まっているように思います。

ビジネスの現場には、組織のオペレーションを下支えするような業務から、組織の変革に至る業務まで、様々な経験が存在します。しかし、経験によって得られる付加価値は異なります。経験の中には、それをこなす中で能力が向上したり、当人の能力の存在を指し示すのに都合のよい経験と、そうでもない経験があることは自明の事実です。

経験にスポットを当て、現代社会の特質を論じたのは、独自の現代社会論を展開する心理学者、エドワード・リードでした。リードは、著書『経験のための戦い』の中で、現代社会ではネットやバーチャルリアリティなどのメディアによってつくられる「間接経験」が肥大化し、「直接経験」が消失すること、そして、そのような時代にあっては、直接経験の持つ価値が飛躍的に高まっていることを指摘しています。

PickUp