企画断念から半年で実現、観光協会の猛烈プッシュ

観光協会では、駅メロ用にエレカシの曲の中でも特にヒットした『俺たちの明日』『今宵の月のように』を選び、所属事務所に打診、快諾を得てJR東日本と交渉に入る。「コンサート企画の断念から半年あまりで実現させました。スピードは早かった」(杉山さん)。

宣伝にあたっては、エレカシの写真を使うと費用がかかってしまうため、赤羽在住の漫画家、清野とおるさんにメンバー四人のイラストを描いてもらった。清野さんは赤羽を舞台にしたヒット作『東京都北区赤羽』を持つ。JR赤羽駅西口にたたずむメンバー四人と、満月の夜の河川敷で水門を眺める宮本さんの後ろ姿を描いた二種類を手掛けた。

藤澤志穂子『駅メロものがたり』(交通新聞社新書)
藤澤志穂子『駅メロものがたり』(交通新聞社新書)

清野さんはX(旧ツイッター)で「エレカシだぁ~い好きなので、背景もカラーも心を込めて一人で描きました。狂いそうになりました」(2018年11月8日)と、楽しみながら描いたことをつぶやいている。イラストは、駅のメロディ開始にあたって横断幕やステッカーにも使われ赤羽を盛り上げた。

宮本さんは発車メロディを誇りに感じているようだ。「ぼくは赤羽に行くといつだってほっとします。それは、赤羽はぼくの故郷(ふるさと)だからです。そんな故郷、赤羽駅の発車メロディにぼくらの曲が使われる、これはもう信じられないような、でも、誇らしく、うれしくなんかとてもあったかい気持ちになります。本当にありがとうございます」とコメントを出した(『オリコン・ニュース』2018年11月8日付)。

荒川河川敷ライブをまだあきらめていない

東京北区観光協会では、エレカシの荒川河川敷でのライブを「いつか必ず実現させる」ことを目標としている。

その“前哨戦”という願いを込めた北区花火会が2022(令和4)年10月22日、コロナ禍を経て3年ぶりに開催され、エレカシの音楽をバックに大きな花火が打ち上げられ、ひときわ大きな歓声を集めた。「宮本さんはじめメンバーの皆さんに、赤羽の観光大使になってもらえたら」(杉山さん)と夢は膨らむ。

その期待を込めてか、デビュー前のメンバーが練習していたという音楽教室では、メンバーの直筆サインが並んでいる。清野さんのポスターも、今も赤羽駅のそばや、街のそこかしこで目にすることができる。

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