500リットルのタンクを5つ設置
その後、山﨑氏は同じように4度にわたってOEMで500本のビールを仕入れて販売を行ったところ、いずれもすべて1日で完売した。売上金は分配され、利用者が得た日当は3万円にもなった。何より、彼らの顔には自信が溢れていた。
山﨑氏はこの経験から、自社でクラフトビールを醸造し販売してみようと決意した。勝算が見えたのだ。そして銀行から融資を受けて、建物を改築して醸造所を建て、500リットルのビールを造ることができるタンクを5つ設置した。
2018年、こうしてクラフトビール醸造所「ディレイラブリューワークス」が完成したのである。
山﨑氏は言う。
「これまでうちでは、32種類のビールを造ってきました。フルーティーな種類や、キレのある種類など様々です。レギュラーの商品は7、8種類ですが、それ以外は季節ものなど個性のあるものをバラバラに造るようにしています。タンクでビールを造るには1カ月かかるので、最大でも月に5種類が限度なのです」
約80名の就労先を生み出した
酒税法では、発泡酒は年間に6000リットル以上を造らなければならないが、タンクが5つあれば十分だ。
ビール造りはワインとは異なって、麦芽など必要な原材料は外部からすべて買い付けることができる。原材料の組み合わせによって味を決めれば、その後の工程はさほど複雑ではないし、製造期間は1カ月ほどと短い。
ビール造りは専門の知識を持った職員がやるにしても、それ以外の仕事――ラベル貼り、配送、販売といった仕事は障害のある高齢者にも任せることができる。
さらに山﨑氏はビール造りだけでなく、西成区内にカフェやパブをオープンさせてそこで自社のビールを販売したり、酒造の過程で出たものを肥料として利用する事業をはじめたりした。
これによって、シクロは約80名の就労先を生み出すことができるようになったのである。
山﨑氏はつづける。
「この地区のおっちゃんたちはみんな酒好きで、それにかかわって稼ぐことにプライドを持っています。だからこそ、酒造りとか、酒の販売を心から楽しんでやってくれるし、それで賃金を得ることが自信につながる。この事業に携わったことで、人生が変わったという声もたくさん聞きます」