年を重ねたら日常生活において何を意識するべきか。医師の和田秀樹さんは「60歳を超えたあたりから、思考や感情を司る前頭葉の萎縮により、だんだん怒りっぽくなってくる。怒りの感情に振り回されないようにするには、3秒の習慣を心がけるといい」という――。

※本稿は、和田秀樹『60歳でリセットすべき100のこと』(永岡書店)の一部を再編集したものです。

拳を握りしめてナーバスになる男
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「自分」がないような「いい人」ではつまらない

他人の目に自分がどう映っているのか気になってしまう。周囲の人たちに白い目で見られるのが怖い。そんなふうに世間体を気にする人は大勢います。「世間の目」とは、いったい誰の目なのでしょうか?

それは、特定の誰かではない集団の「監視の目」といえるでしょう。人と違うことをして、「みんなと同じ」枠からはみ出していないか。そんな厳しい目で見られていると思うと、自分を主張しない「いい人」でいようとするのかもしれません。

でも、「いい人」と話をしていても、正直つまらないと私なんかは思ってしまいます。

「この前食べたラーメン、おいしかったんだ」「いいね」、「あの人の言うことは間違っていると思うんだけど」「そうだね」……ではなく、「私はね」と少しは自分の意見を聞かせてほしいものです。

「いい人」は人に合わせようとしてばかりいて、「自分」がないように思えます。「いい人」が自分の好き嫌いをうやむやにしてしまうのも、世間がつくった同調圧力がはたらいているからでしょう。

60歳からは自分に素直になって生きていく

また、他人の目や評価を気にしている人は、自分以外の人にも「世間の目」を押しつけようとします。あなたも、そんな押しつけがましい人になっていませんか?

60歳にもなったら、もう人にどう思われてもいいと開き直ってしまいましょう。すると、これからは自分に素直になって生きていくことができます。自分が言いたいことを言えるようになって、人と話をするのもラクになるでしょう。

「世の人はわれをなにともいはばいへ わがなすことはわれのみそしる」(坂本龍馬/武士)――自分がやりたいことを、ほかの人に認めてもらう必要はないのです。

「キレる高齢者」「暴走老人」が増える理由

60歳を超えたあたりから、感情を制御するのが難しくなってきます。そのため、だんだん怒りっぽくなってきます。その原因は、思考や感情をつかさどる脳の前頭葉の萎縮にあります。

高齢になって急に怒り出す人が増えるのもそのせいで、「キレる高齢者」「暴走老人」と呼ばれてしまうのです。前頭葉は、脳の中でもっとも早く老化が始まります。その機能が落ちると、意欲や感情をコントロールする能力も衰えていくのです。

また、「感情」を持つことと「感情的」になることは違います。怒りの感情がわくのは自然なことで、感情的になるとその怒りを他人に向け、行動や言葉で相手を傷つけてしまいます。

感情的になっている時は感情に振り回されている状態で、怒りで判断が狂い、人に手をあげたり、暴言を吐いたりしてしまうのです。

手錠をかけられた老人の腕
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怒りの感情に振り回されないようにするには、怒りを「小出し」にするといいでしょう。小出しにするコツは、怒りを感じた瞬間に3秒だけ怒ること。

怒りの感情をぶちまけるのではなく、ちょっとだけぼやいたり、嫌味や皮肉を言ったりして言葉にするのです。その際は、怒った顔や不機嫌な態度にならないようにしましょう。

感情爆発する前に、怒りを文章に起こす

また、怒りの感情を文章に起こすのもおすすめです。文字にする時にいったん冷静になって、自分の感情を分析できるからです。こまめに怒っていれば、突然、大爆発してしまう恐れもなくなります。

怒りは誰もが持っている感情です。怒りを抑え込んだり、怒りをなくしたりしようとせずに、上手に怒れるようになりましょう。

「怒気怒声を発するは其徳望を失する原由也」(五代ごだい友厚ともあつ/実業家)――怒りにまかせて感情をぶちまけたり、どなったりすると、徳望を失うことになるのです。

「人と比べない」ことはできないから心の中で優位に立つ

定年を迎えて人間関係が変わっても、60歳になって精神的に安定してきたとしても、人と自分を比べずに生きていくことは難しいでしょう。

長年、競争社会の中で生きてきて、人と自分を比べることで成長してきた部分もあるでしょうから、比べてしまうのは仕方がないことなのです。自分ではどうしようもないことは、ポジティブにとらえるようにしましょう。

人は自然と劣等感や嫉妬心を抱くもので、誰しも心のどこかで人と自分を比べています。それなら、「比べ方」を変えてみるのもひとつの手です。

陽気な男と不機嫌な女性
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和田秀樹『60歳でリセットすべき100のこと』(永岡書店)
和田秀樹『60歳でリセットすべき100のこと』(永岡書店)

例えば、「Aさんは華があって目立つ人」。それに比べて「私は地味で目立たない人」ではなく、「Aさんは何をしても注目を集める人」だけれど、「私はわりと悪目立ちしない人」と考えてみる。目立って得をすることもあれば、損をすることもあります。

逆もしかり、目立たないと損をするばかりではないということ。マイナス思考に陥って自信をなくしてしまうより、自分が優位になるように比べたっていいと思うのです。

心の中で優位に立つことは、人をおとしめることではありません。優位に立とうとすると競争意識がはたらき、劣等感や嫉妬心が自分を高める原動力になるでしょう。

友人や家族に「他己分析」をうまく活用する

また、自分では短所だと思えるところも、他人から見たら長所になることもあります。どうしても自分を認められないなら、気の置けない友人や家族に「他己分析」をしてもらうといいでしょう。

人と比べても自分のよい面を見てあげるようにすれば、これから生きやすくなるでしょう。

「六十にして耳したがう」(論語)――60歳になると他人の意見に反発を感じずに、素直に耳を傾けられるようになること。「他己分析」をうまく役立てられそうですね。