自分の体の癖や疲れやすいところはどこなのか。整体師の片山洋次郎さんは「人は普段から本能的に、自身の体癖に合ったしぐさやリラックスの仕方をしている。なかでも寝相には、その人の体癖が素直に表れる」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、片山洋次郎『姿勢をゆるめる 疲れない身体と心の整え方』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。 

腕で目を覆ってベッドで眠ろうとする女性
写真=iStock.com/MergeIdea
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姿勢バランスの「癖」が個性の素になる

身体の動き方や姿勢バランスの取り方、疲れ方、心の動きなどのパターンは、人それぞれ違います。姿勢の要となる腰や骨盤の動きの「癖」を10のパターンに整理して、姿勢バランスの取り方の偏りから人それぞれの感受性や嗜癖をつかむ考え方が「体癖」です(整体界の手塚治虫とも言うべき野口晴哉がまとめた「体癖」が基礎になっています)。

体癖の違いによって、普段何げなくやっているしぐさや癖も、気持ちいいと感じる姿勢や場所・環境も変わってきます。自分の体癖に合った生活の仕方や身体の調整法を知ることが重要なのです。

といっても、体癖を特定するのは難しいですし、一人の人に複数のタイプが混じっているのがふつうなので、人それぞれの体癖を「鑑定」するのは、専門家でも簡単とは言えません。観る側の体癖的感性によっても違って見えるからです。

数値化できるような客観的指標というよりは、人それぞれの身体から率直に生まれる嗜好や感受性が体癖ですから、生活や人生経験の中で繰り返し現れるパターンに気づければ、それが自分の体癖だと言っていいでしょう。

しかし人の身体はよくできていて、普段から本能的に、自身の体癖に合ったしぐさやリラックスの仕方をしているものです。そうやって、無意識のうちに自分で自分の身体を微調整しながら、緊張を解こうとしているのです。

体癖は寝相に表れる

なかでも寝相には、その人の体癖が素直に表れるので、寝相からひもとくと体癖がある程度は推測できます。

寝相とは、睡眠時にその人がもっとも呼吸が深くなりやすい体勢、つまり、もっとも楽な姿勢です。意識を失っている睡眠中は、脳による強制労働から身体が解放され、寝相そのものが最高のボディワークとして機能しているのです。寝相には、姿勢の疲れの回復を促す機能があります。

日中の活動で疲れがたまると、姿勢の一部がこわばってきます。睡眠中に、こわばった部分がゆるみやすい体勢をとって、深い呼吸に導くための特定の寝相になるのです。その深まった呼吸で、さらにこわばりをほぐして、疲れを能動的に回復しようとするわけです。

言い換えると、疲れて硬くなっているところをゆるめ、呼吸が深くなりやすい体勢が寝相と呼ばれているわけです。それは、人が本能的にとっている休息体勢と言えるでしょう。

整体の現場でも、身体の一部のこわばりがほぐれて固まっていたところがゆるむと、呼吸が深まる手応えがあります。睡眠中にも、それと同じことが起きているわけです。

疲れやすい部分は人によって違う

疲れやすい部分は、人(体癖)によって違います。また、活動や仕事の種類、体調によっても、必要とされる寝相は当然変わってきます。

四足歩行の動物たちが寝る姿勢には、さほどバリエーションはありません。しかし人は二足歩行をしているため、疲れ方や身体のこわばり方のパターンが、四足歩行の動物たちより複雑なものになっています。

睡眠中はまったく無意識ですから、誰もが特徴的な寝相になります。

寝相は、その人の活動によって生まれる姿勢の不具合を修復し、身心をリセットするための姿勢自身の働きと言えます。

ここで人のバリエーション豊富な寝相を眺めながら、どの部分の疲れやこわばりをほぐそうとする寝相なのか、また、どの体癖の寝相なのかを見ていきましょう。

自分自身が寝る時にとっている姿勢を思い浮かべながら読んでみてください。また、143ページの体癖一覧表を見て、普段の行動と照らし合わせるとリラックスしやすい姿勢や行動が見えてくるでしょう。

体癖一覧表
片山洋次郎『姿勢をゆるめる 疲れない身体と心の整え方』(河出書房新社)より

仰向けの姿勢で背中をチェック

その前に、布団に入った時に多くの人がとりそうな「正規版」イメージの寝相「仰向け」の姿勢について考えてみます。

「寝る」と言えば、まずこの仰向けの姿を思い浮かべるのではないでしょうか。仰向けに寝るのは、いかにもスタンダードな感じがします。

しかし実際に仰向けで寝て、背中の感触をチェックしてみると、こわばりや緊張を感じる場合が多いです。

実は、仰向けのままリラックスするのは、そう簡単ではなく、その前にいろいろな寝相をとって、身体の各部のこわばりをゆるめる必要があるわけです。そして、その結果として、仰向けの姿勢でも十分なリラックスが得られることが多いのです。

寝相から読みとく体癖

①横向きで寝る/左・右半身をゆるめる

横向きで寝るのも誰もがリラックスしやすい姿勢のひとつ。上になっている方の半身がゆるみやすくなります。たとえば左を下にして寝ていれば、右半身がリラックスしやすくなるわけですね。釈迦の涅槃図も横向きですから、シャバーサナ(死体のポーズ)の仰向けより、こちらの方がむしろリラックスのスタンダードと言えます。

起きている時に、首を横に傾けたり重心を左右のどちらかに寄せたりすると、立っていても座っていても重心がかからなくなった側がゆるみやすくなりますが、寝ている時も同じです(上半身が左右に傾く姿勢はリラックスの基本です)。

仰向けで首を傾け、胴体を少し横に曲げて寝る「バナナのポーズ」も、曲げた側と反対の半身がゆるみやすくなります。

またこの寝相は、みぞおちのまわりもゆるみます(ここは自律神経の働きが表れやすい場所なので、ストレスがかかるとキュッと縮み、ホッとリラックスするとゆるみます)。

みぞおちのやわらかさがポイント

みぞおち付近は、横隔膜が上下する運動エリアでもあります。ゆるんでいるほど横隔膜はのびのび動きやすくなり呼吸が深くなるわけです。特に睡眠中は、副交感神経が活発に働く最高のリラックスタイムですから、できるかぎりゆるんでおきたい部分です。

みぞおちまわりのやわらかさは、腸骨の動きのやわらかさと連動する姿勢の左右バランスの安定の要です。平衡感覚の安定もここにかかっています。硬くなっていると、めまいや、乗り物酔いのようなムカムカ感、足元の不安定感にもつながります。

体癖……左右(消化器)型(お腹―特に上部がバランスの要となる)
3種体癖:なで肩で体型に丸みがあり、側面から見ると背骨の弯曲が大きい(左右曲げやわらかい)。食べることで集中する。ストレスも食べて解消する
4種体癖:怒り肩で体型が角ばっていて、側面から見ても背骨が直線的(左右曲げ硬い)。ストレスがあると食欲がなくなる
②布団や抱き枕を抱いて寝る/呼吸器をゆるめる
左右型、前後型、ねじれ型の寝相
片山洋次郎『姿勢をゆるめる 疲れない身体と心の整え方』(河出書房新社)より

布団や抱き枕を抱える姿は横向きのコアラのようですが、腕や肩、胸などがリラックスしやすくなります。さらに、脚も使って抱え込むと、股関節から骨盤(特に、仙骨)がゆるみ、呼吸が深くなります。

疲れると肩をグルグル回したくなるタイプの人は、体質的に肩関節に力が入りやすく、胸の真ん中に硬さが残る疲れ方をしやすいため、ただ横向きに寝るだけでは胸がゆるみにくく、布団や抱き枕を抱えたくなるのです。

先ほどお話しした通り、近年の情報があふれる環境では、胸の中心部の膻中が意識や思考よりも先に、ハイスピードなスイッチング動作を繰り返します。パソコンやスマホに接する時間も長くなるばかりですから、頭以上に胸が疲れて硬くなりやすいのです。

ですから最近、さまざまな抱き枕が製品化され、よく売れているのも時代の必然でしょう。

胸をゆるませる別バージョンとして、胸の上に手を置くスタイルもあります。これは、多くの人がやったことがあるでしょう。これも胸をゆるめる寝相になります。

体癖……前後(呼吸器) 型(胸が仙骨の前後運動とともにバランスの要となる)
5種体癖:胸が反りやすい
6種体癖:胸がすぼみやすく「猫背」になりやすい

寝返りを打つ理由

③寝返りをよく打つ・寝相が悪い/ねじり運動でゆるめる

寝返りは、へそまわりを中心に、積極的に上半身と骨盤をねじることで、ねじれ(緊張)をゆるめる=「ねじりをもって、ねじれを制す」動きです。

片山洋次郎『姿勢をゆるめる 疲れない身体と心の整え方』(河出書房新社)
片山洋次郎『姿勢をゆるめる 疲れない身体と心の整え方』(河出書房新社)

右側に比べて左側がゆるみにくいことはすでにお話ししましたが、寝返りを打つことで、左右差によって生じる緊張をほぐしながら、ゆるみにくい左半身をゆるめ、疲れを回復しようとしているわけです。

疲れたり、湿度が高かったりすると、寝返りの回数が増えます。

子どもはよく寝返りを打ちますが、歳をとるほど寝返りを打ちにくくなります。また、加齢によってねじる範囲が小さくなり、寝返りの大きさや回数も減っていきます。これは、老化によって背骨の動きや肋骨の前面のやわらかい部分=肋軟骨が骨化して、胸全体が硬くなり、体幹をねじるやわらかさが失われていくためです。

上半身は仰向けのままで、ひざから下だけを交差させる寝相は、マイルドなねじりパターンです。多くの人が経験しているでしょう。

体癖……ねじれ(泌尿器) 型(脇腹の力がバランスの要となる)
7種体癖:上半身中心にねじる=上ねじれ(腕・脚が筋肉質)
8種体癖:骨盤中心にねじる=下ねじれ(手首・足首やわらかい)
④両手を頭上に上げ「バンザイ」の姿勢で寝る/首をゆるめる

バンザイで寝るのは、目や頭が疲れて前頭部がオーバーヒートし、目や頭の働きに関係する「首」に疲れがたまっている時の寝相です(頭や目が疲れている時は誰もがとる可能性がある体勢です)。

両手をバンザイの格好にすると、あごが自然に上がって首の力が抜けます。あごを引いて歯を食いしばる緊張姿勢とは逆の体勢です。

目を覚ましている間は、つねに思考を働かせたり気を使ったりしなければならないのであごを引く姿勢になり、首は緊張しています。しかし、ずっと緊張しているとこわばってしまうため、寝ている時にバンザイをして首をゆるめるのです。

片手を額にのせるのは、「バンザイ」の少しマイルドなパターンになります。

体癖……上下(頭脳)型(首がバランスの要となる)
1種体癖:首の後ろの筋肉が凝りやすい
2種体癖:首の横の筋肉が凝りやすい
寝付きが悪い、眠りが浅いロングスリーパー
夢をよく見る(=内容を覚えている)。夢の中で現実の問題を考え、解決することもある。

丸まって眠る人、大の字で眠る人

⑤(a)小さく丸まって深く眠る/骨盤を縮めてゆるめる
(b)「大の字」または片ひざを曲げたうつ伏せで寝る/骨盤を広げてゆるめる

猫が丸まって寝る体勢に似ています。身体を小さく丸めて寝ると呼吸がしづらくなる人の方が圧倒的に多く、この寝相の人は少数派だと思います。ただし誰でもひざを抱え込んで強制的に丸まる姿勢をとると、最初は呼吸しづらいですが、しばらく我慢していると下腹+骨盤で大きく呼吸するようになって呼吸が深くなり骨盤に弾力が生まれます。

上下型、開閉型の寝相
片山洋次郎『姿勢をゆるめる 疲れない身体と心の整え方』(河出書房新社)より

骨盤の横幅が狭いタイプ(ズボンがずり下がりやすいタイプ)の人(a)は丸まって寝るのが楽です。骨盤の動きに弾力が出て、骨盤と下腹の呼吸運動が楽に深くできるようになります。

睡眠の質も深く、地震が起きても目が覚めないほどで、冬眠に近い眠りの深さとも言えます。また、深い眠りで体温が下がるので夏でも布団をかぶって潜る傾向があります。このタイプの人は、深く短いショートスリーパーでもあり、ダラダラ長く眠るとかえって疲れる感じがします。

骨盤の開閉の動きが強い骨盤型には正反対の「開けっ広げ」タイプ(b)もあります。たとえばひと仕事終わり、ストレスから解放されてひと息ついた時、手足を投げ出してのびのびしたい気持ちになることは誰にもありそうですね。そんな気分の時には「大の字」になって寝たいものですが、この寝相は、骨盤(骨盤底)をゆるめる寝相です。

骨盤の横幅が広く、骨盤底を縮める傾向が体質的に強いタイプの人は、この寝相がデフォルトです。興奮度が高い時や疲れた時は、片ひざを曲げたうつ伏せで寝ます(強く縮んだ骨盤底をゆるめる) 。

体癖……開閉(骨盤)型(骨盤の開閉バランスが要となる)
9種体癖:骨盤の横幅が狭い
どこでも眠れるが狭い場所や隅っこが好き
10種体癖:骨盤の横幅が広い
どこでも眠れるがリビングのような広々とした場所