安定した睡眠時間を夜間に取りにくい人はどうすればいいか。大手企業をはじめさまざまなビジネスパーソンのスリープコーチを務める角谷リョウさんは「決まった時間にまとまった睡眠が取れない人には、短い睡眠を1日に何度も取る多分割睡眠戦略がおすすめ」という――。

※本稿は、角谷リョウ『一日の休息を最高の成果に変える睡眠戦略 世界のビジネスエリートが取り入れる「7つの眠り方」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

目覚まし時計
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ダ・ヴィンチも取っていた多分割睡眠

今回ご紹介するのは、夜まとまった睡眠を取るのではなく、短い睡眠を1日に何度も取ることで代替する多分割睡眠戦略です。

古くは万物の天才と呼ばれたレオナルド・ダ・ヴィンチが4時間ごとに15分という多分割睡眠を取っていたことで知られているほか、最近ではサッカー界のスーパースター、クリスティアーノ・ロナウド選手が「90分の睡眠を1日5回」という睡眠を行っているとして話題になりました。

この戦略をうまく使えば、たとえば乳児に授乳している親やトラックドライバー、長時間船に乗る漁師さんなど、決まった時間にまとまった睡眠を取れない方でも、脳の機能が低下してボーッとするようなことがなく、高いパフォーマンスを保って生き生きと活動することができます。

「子どものせいでなかなか眠れない」といったストレスからも解放されるので、精神衛生上もいい効果が期待できます。

睡眠戦略は副作用に注意

ただこの戦略は、すべての方に、「ぜひやってみてください」とおすすめするものではありません。

理論的には、本書の第1章でご紹介した短眠戦略をさらに突きつめた形になるので、長く続けると性格が攻撃的になったり、より強い刺激を求めるようになったりといった副作用も懸念されます。

また、インターネットで「分割睡眠」や「多相たそう睡眠」と検索すると、「20分×1日6回」といった極端な眠り方が上位に表示されます。

このような眠り方は効果や安全性が科学的に確認されておらず、健康への悪影響も懸念されます。

本稿では私なりにアレンジした、比較的使いやすく安全性の高い多分割睡眠のやり方をご紹介したいと思います。

多分割睡眠はどんな人に向いているか

多分割睡眠は、次のような人に適しています。

〈短期的には〉
● 0歳児に授乳中で夜何回も起こされる
● クライアントの都合で生活リズムが定まらないトラックドライバー
● 船上で待機と作業を繰り返す漁師
● 消防士や新聞記者などの職業でまとまった睡眠が取れない
● 夜間も海外からの連絡などに継続的に対応する必要がある
● 選挙中の候補者など極限状態まで多忙なとき

〈長期的には〉
● 1日の中で好調、不調な時間帯が明確にある

※長期的にこの戦略を採ることはおすすめしません

保険会社営業事務・赤木さん(仮名/30代女性)の多分割睡眠戦略

保険会社で働く赤木さんは30代で出産し、産休育休入り。赤ちゃんの睡眠が不規則で十分な睡眠が取れず、うつ状態になりかけたことから、多分割睡眠を採り入れました。

赤ちゃんは午後7~10時ごろにまとめて眠ることが多かったので、赤木さんもこの時間帯にメインの睡眠を取ることに。あとは、赤ちゃんが寝ている間に25分間の仮眠を1日に4、5回取るようになりました。

ベビーベッドで眠る赤ちゃん
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すると睡眠不足が解消し、すっきりとした状態で過ごせるように。メンタルも大幅に改善しました。

生後6カ月ごろからは少しずつ赤ちゃんを夜寝かせる生活にシフト。できた時間を使ってマーケティングやプログラミングの勉強を始め、資格も取得しました。

動画を使って体を動かすこともでき、育休前よりもパワーアップした状態で無事に復職できました。

「単相性睡眠」と「多相性睡眠」の違い

現代人は、夜間に6~8時間の睡眠をまとめて取るというスタイルが主流です。

この眠り方は「単相性睡眠」と呼ばれます。

一方、犬や猫を含む哺乳類の多くは、短い眠りを1日の間に何度も繰り返して取ります。

このような眠り方を「多相性睡眠」と呼び、こちらが生物本来の眠り方だと考えられています。

私たち人間も生まれたときは全員が多相性睡眠で、赤ちゃんの間は昼夜の区別なく寝て、数時間おきに目を覚ましますが、やがて夜の睡眠が長くなり、単相性睡眠へと移行していきます。

一説には、単相性睡眠は18世紀後半に起きた産業革命以降、労働者が日中に効率よく働けるようになったことで、都市部から徐々に定着したといわれています。

それ以前の人々は夜の睡眠を中心にしつつも、疲労回復のためのお昼寝や仮眠も織り交ぜる緩やかな多相性睡眠を取っていた可能性があります。単相性睡眠は現代では主流の眠り方ですが、歴史は意外にも浅いと言えそうです。

「日本人は多相性睡眠気味」?

適度な多分割睡眠は生物にとって自然な眠りに近く、現代人の私たちが受ける印象ほど奇妙で特殊な眠り方ではない、ということが分かっていただけたと思います。

角谷リョウ『一日の休息を最高の成果に変える睡眠戦略 世界のビジネスエリートが取り入れる「7つの眠り方」』(PHP研究所)
角谷リョウ『一日の休息を最高の成果に変える睡眠戦略 世界のビジネスエリートが取り入れる「7つの眠り方」』(PHP研究所)

ちなみに、欧米の論文や記事で、「日本人は住宅事情が悪いので家で十分に眠れず、電車の中や会議中に眠ることが認められている。彼らは今も多相性睡眠だ」といった論考を目にすることがあります。

「東洋人=原始的」というステレオタイプが透けて見えて、かなり失礼な言い方だとは思いますが、「日本人は多相性睡眠気味」という考察には、なんとなくうなずいてしまう部分があるのも確かです。

やはり、欧米人から見ると日本人は今なお働き過ぎで、夜十分に眠ることもできていないと見られているのでしょう。

1日のどこかで3時間寝ればOK

授乳や職業上の制約などで、「細切れの睡眠がつらい」と感じている方は大変多くいらっしゃいます。

このような方は、実際に十分な睡眠が取れていない面もある一方で、もしかすると「睡眠は夜まとめて取るもの」という現代人の常識にとらわれ、「自分は夜まとめて眠れていないから、つらい」という錯覚が混じっている可能性があります。

本書の第1章でご紹介した短眠戦略は、夜の睡眠を5時間に減らし、日中に25分間の仮眠を取ることで、フルパワーで長時間働くというものでした。

ここで紹介する多分割睡眠は、この応用編です。

まず、主となる睡眠は3時間。

この睡眠は夜でなくても問題ありません。1日のどこかで、3時間のまとまった睡眠ができればOKと考えてください。

この3時間で深いノンレム睡眠を取り、脳と体の疲れを解消します。

寝ている人の脳のイメージ
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あとは15分程度の短い仮眠を必要に応じて数回取れば、眠気やパフォーマンス低下を感じることなく、活動を続けることが可能です。

多分割睡眠は、すべての方におすすめする戦略ではないとお伝えしましたが、否応なく多分割睡眠に近い眠り方をいられている方はたくさんいらっしゃいます。

そんなみなさんに、「夜まとめて寝る」から、「1日のどこかで3時間寝る」へと、意識を変えていただきたいのです。

常識を取り払い、新しいルールを決めるだけで、睡眠へのストレスが少しは解消するのではないでしょうか。