継続的な幸せを手に入れるにはどうすればよいか。米国カリフォルニア大学リバーサイド校の心理学教授であるソニア・リュボミアスキーさんは「幸せにつながるポジティブな行動を頻繁にとって、習慣化することが大切だ。その行動を実践していくうちに、幸福度が大きく変化し、驚くほど自分が自由になっていることがわかる」という――。

※本稿は、ソニア・リュボミアスキー『新装版 幸せがずっと続く12の行動習慣』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

幸せをずっと続けるには「習慣」にすることが必要

幸せになり、そして幸せがずっと続くには相当な努力と決意が必要なことを、すでにあなたが理解してくれているといいのですが。こう聞くと、落ち込んだり、不安を感じてばかりだったり、緊張しっぱなしだったりして、幸せになるために必要な努力をするだけのエネルギーがあるかどうか心もとない人は、がっかりしてしまうかもしれません。

でも、よい知らせをお教えしましょう。始めのうち、努力はかなり必要ですが、ときが経ち、何度も繰り返すうちに新しい振る舞いや行動が「習慣」になると、努力はさほど必要ではなくなるのです。

「習慣」は誰にでもあります。よいものもあれば、悪いものもあるでしょう。多くの人は「習慣」という言葉を、たとえば指の爪を噛む、親指をしゃぶる、髪の毛をねじる、会話をさえぎるなど、いらいらする態度と結びつけがちです。一方、健康的な「よい習慣」として、たとえば、どこへ行くにもミネラル・ウォーターが入ったペットボトルを持参する、リサイクルをするなどがあるでしょう。

このような行動に共通するものは何でしょうか? これらは文字通り「習慣的」と呼ばれる行動ですから、実行するために決心する必要がないのです。意図的な行為でもありません。私は朝、目を覚ましたとたんにベッドからでて、ランニング用の服に着替えます。「起きてランニングに行くか? それとも、このままベッドのシーツの下にいようか?」といつもはというか、まあほとんどは考えません。実際のところ、起きて着替えるまで何の決心もしていないのです。

積み重なった「良い習慣を身につける」と書かれた木のブロック
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「習慣」は行動を繰り返すことで生まれる

「習慣」は、行動を繰り返すことから生まれます。研究者の理論によれば、ある行動を繰り返すたびに、その「行動」と、それが起きる「状況」との間に記憶のなかで関連性が育っていくそうです。私の朝のジョギングを例にすると、「状況」は、鳴っている目覚まし時計、寝室、ドアのそばに置いてあるランニング用の服や靴など。繰り返すことで、「状況」的な合図(鳴っている目覚まし時計)が習慣的な行動(ランニングシューズを履くこと)を反射的に促して、行動は決意して、選択するという手順から、無意識に行なわれる手順へと変わっていきます。

これを幸福になるための方法に活かすなら、ポジティブな行動(たとえば、家族との食事を楽しむとか、つらい時期でも人生に感謝するなど)をもっと頻繁にとって、その行動(楽しむとか感謝することなど)と、あなたのまわりのきっかけ(家族との食事や日々の些細な問題など)とのつながりをいっそう強めることです。そうすれば、次に家族と一緒の時間をすごすとき、愛する人がそばにいるだけで喜びを味わえるでしょう。もちろん、行動ときっかけとのつながりができるには時間がかかりますし、それなりのトレーニングを要します。想像がつくと思いますが、「習慣」にするには、時間も忍耐も必要なのです。

失敗例も成功例も山ほどあるが

減量であれ禁煙であれ、メディアの報道や研究結果をもとにした記事には、続かなかった失敗例が山ほどあります。

実際に行なわれた臨床試験では、自分の行動を変えようとした人がもとに戻る確率が驚くほど高いことが示されています。禁煙を試みた人の86%が結局はまた喫煙を始め、減量に挑戦した人の80%~98%にリバウンド経験がある(前の体重より増える場合も多い)そうです。

けれども、人生を変えることに成功して減量や禁煙をやり遂げた、あるいはあまり不平をいわなくなったという人を身近に知っているのではありませんか? では、減量や禁煙プログラムに関する研究における高い再実行率と、知人や友人のかなり高い成功率という2つの事実の折り合いをどうつければいいのでしょうか?

腰のサイズを測る若い女性
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よい習慣を身につけることで幸福度は大きく変化する

このパラドックスを解決しようとした、社会心理学者のスタンレー・シャクターの権威ある研究があります。シャクターはコロンビア大学の職員と自分の知人、そして夏の休暇をすごしたアマガンセットの海岸にいた見知らぬ人々と話し、太りすぎや喫煙の経験のある人がたくさんいることを知りました。つまり、現実の事例証拠から、多くの人が悪い習慣を捨てて、よい習慣を身につけることに成功したとわかったのです。

実際に、シャクターは海岸やオフィスでの広範囲にわたるインタビューによって、喫煙や肥満を自力で治した人が63%いたことを発見しました。

そこで彼は、一般的に知られている再実行率のデータが、「常習者の事例」(すなわち治療を受けに来た人々の例)の結果を表わしているため、偏ったものであることを結論づけました。自分で自分の習慣を直せる人は、治療を受けに来ません。さらに、禁煙のように何かを達成しようと試みるなかで、何度も挑戦した(そして失敗した)結果、ついに成功するのです。シャクターが発見した、63%の成功例の人々は何度も試みて、ようやく目標を達成しました。そして目標の体重になるころには、被験者にとって、その減量方法は「ほんとうの習慣」になっていたのでしょう。

物事の明るい面を見る、いまを楽しむ、許すことを学ぶ、人生の大切な目標に全力を尽くすなどの行動をすることで、あなたの幸福度に大きな変化が生まれます。そのような行動を「習慣」にするのは、間違いなくよい考え方でしょう。

どのような人でも「幸せになるための習慣」は身につく

生まれつき幸せな人、あるいは幸福を構成する高い設定値をもっている幸運な人には、もともとそんな幸せになるための「習慣」が備わっているらしいと知ったら、あなたは不公平に感じるかもしれません。

ソニア・リュボミアスキー『新装版 幸せがずっと続く12の行動習慣』(日本実業出版社)
ソニア・リュボミアスキー『新装版 幸せがずっと続く12の行動習慣』(日本実業出版社)

というのも、彼らは楽観的になろうとか、感謝の念をもとうとか、人を許そうと努力しなくても、そのような性質が第二の天性になっているからです。けれども、幸福になるための設定値が彼らほど高くない人でも、時間をかけて、決意を固めさえすれば、同じように「幸せになるための習慣」を身につけられるのです。

そして、幸福になるための理論を理解し、「幸せになるための行動習慣」を実践していくうちに、驚くほど自分が自由になっていることがわかるでしょう。「幸福」を構成する最も強力な要因が何かを知るだけでなく、「幸せがずっと続く」ほんとうの変化を手に入れるための、自分のなかにある力を知ることによって。