2022年秋、「PRESIDENT WOMANダイバーシティ担当者の会」が、名称を「人事・ダイバーシティの会」と変えて新たに活動を開始しました。そのキックオフイベントをオンラインにて開催。白河桃子さんや木下明子編集長による講演、グループディスカッションなどを通して、企業の人事・ダイバーシティ担当者が抱える課題の解決策を探りました。

女性活躍推進の目的を考える

人事・ダイバーシティの会」では、ダイバーシティや次世代人材育成に関わる課題を解決していくための研究会を立ち上げました。第一弾のテーマは「ダイバーシティ経営と、20代女性の育成」。企業はなぜダイバーシティを推進すべきなのか、そこに20代からの教育はどう貢献するのか――。

そうした点を考えるべく、今回の研究会は白河桃子さんによる「同質な組織のリスクから考えるダイバーシティ経営」と題した講演からスタート。白河さんはダイバーシティ達成に向けた4つのステップを示し、第1ステップとして「まずは何のための女性活躍なのか、目的を確認することが重要」と語りました。

「女性活躍を推進する目的には、女性活躍推進法の遵守、ESG投資家によるジェンダー投資の獲得、採用への好影響などが挙げられます。ここで注意しておきたいのは、女性活躍とジェンダー平等は根本的に違う思想だということです。前者は女性管理職比率などの向上を目指すものですが、後者は『日本の人口構成比は男女半々なのに、なぜ自社の会議の場には女性が少ないのか』といった考え方が出発点になります」

女性管理職比率だけを上げようとすると壁にぶつかってしまいがちですが、ジェンダー平等の観点から自社の状況を見つめると、なぜ男女半々でないのか、何がハードルになっているのかが見えてくると言います。

一般的なハードルとしては、働き方や家事育児時間における男女差といった構造的な問題や、「男性は/女性はこうあるべき」というアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)などが挙げられるそう。こうしたハードルを確定できれば、打つべき施策や最初に目指すべき目的もおのずと見えてきそうです。

プレジデント総合研究所顧問、講師でもある白河桃子氏
撮影=小林久井(近藤スタジオ)
プレジデント総合研究所顧問、講師でもある白河桃子氏

意思決定層が同質的な組織のリスクとは

第2ステップは、自社の現在地点を確認すること。「確認には外部の指標や診断テストなどを活用して」と白河さん。自社の現在地点は、男性と同じく滅私奉公的な働き方をする女性だけが活躍できる「バリキャリ期」か、女性を支援する「両立支援期」か、働き方改革で男女とも支援する「環境整備期」か、それとも男性の両立支援や女性管理職育成まで実施している「本気のダイバーシティ推進期」か。

こうした現在地点を把握できたら、第3ステップは「目的の修正・経営層の理解」。第1ステップで定めた目的を現在地点に沿って修正し、経営層の理解を得て実行に移す段階です。白河さんは「経営層の理解を得るには、女性活躍が自社の利益とどう合致するのかを言語化する必要もあります」とアドバイス。

「そして第4ステップは『すべての人の活躍のために』です。女性活躍から始めて、最終的にはすべての社員が活躍できる、すなわち真のダイバーシティ達成に至るまでのストーリーを描き出していただきたいと思います。達成できたら、そこで初めて同質性のリスクの回避やイノベーション創出に向けた環境整備が可能になります」

では、同質性のリスクとは何なのでしょうか。白河さんは、同質性は不祥事を起こす組織の特徴でもあると指摘します。内部からの批判や意義を許さない、逸脱する人を許さず合意するように働きかける、集団の外の世界が変化していることに気づかないといったことが起こりやすく、失言による炎上やハラスメントにもつながりやすいのだとか。

日本のジェンダー格差が大きい要因も「意思決定層の同質性」にあり、これはすでに経済的リスクにもなっているそうです。取締役会に女性がいない日本企業が、海外の機関投資家から女性を加えるよう要請された例もあるといいます。

「意思決定層の女性が3割を超えれば変化が生まれる」と白河さん。10人中1人や2人では、意見を意見として認めてもらえず周りに迎合せざるを得なくなりがちですが、これが3人になると初めてそれぞれの意見が可視化されるのだそう。白河さんはこう説明し、「3割は変化が起きる数字。このことをぜひ覚えておいてください」と呼びかけました。

木下明子編集長
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

なぜ20代からのキャリア教育が必要か

現状では、日本企業の経営層は年配の男性で占められていることがほとんどです。こうした同質性を変えていくための手段として、白河さんは「初めから女性を採用・登用する割合を決めておくクオータ制や、ステレオタイプな男女観を取り除くためのアンコンシャス・バイアス研修の導入を検討しては」と語ります。

特にステレオタイプには有害なものもあり、たとえば「子育ては女性の役割」という考え方が「だから女性は登用しないようにしよう」という差別行動につながっていくことも。女性だけでなく男性にも、「男は家族を養うべき」という考え方がプレッシャーになって苦しむケースが見られるそうです。

「無意識の偏見は誰もが持っているもの。自分の偏見に気づけば、それが行動を変えるきっかけになります。誰もが自分らしく生き、自分らしく働くために、企業の方々には有害なステレオタイプをなくす取り組みをぜひ始めていただきたいと思います」

自社を時代遅れの同質的な組織にしないためにも、ダイバーシティの推進は必須。白河さんの講演は、その必要性や達成までの道筋をわかりやすく解説するもので、参加者も新しい視点を得ることができたようでした。

続いて、木下明子編集長が「なぜ20代からのキャリア教育が必要なのか?」をテーマに講演。大企業の平均では、管理職予備軍である20代女性社員は約31%もいるのに、実際に管理職になるのは約6.8%であると指摘し、「女性管理職が増えないのは“リアルな管理職候補”が増えないから」と語りました。

多くの企業はさまざまな施策を打っており、30代を中心とする女性社員を管理職候補に育成しようとしています。プレジデント ウーマン編集部の調査でも、女性の昇進意欲は男性に比べて決して低くはありません。ただ、女性の昇進意欲がピークを迎えるのは50代という調査結果も。

ここで木下編集長は、女性社員の約2割が入社2年目で昇進意欲を失っていること、管理職になりたくない理由としてプライベートとの両立の困難さが挙がっていることなどをデータで示し、「女性は男性よりもライフイベントの責任を重く捉えている」と解説しました。

「こうした調査結果を見ると、管理職候補を増やすにあたって、ライフイベント期に入る30代からキャリア教育を行うのでは無理があります。20代を業務遂行者として過ごしてきた女性に対し、負荷がかかるライフイベント期にいきなり研修や施策を打っても実効性は低いでしょう。そこで私たちは、20代にこそキャリア教育が必要だという結論に至りました」

木下 明子編集長
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

次世代女性リーダーの育成に向けて

プレジデント総研では、20代の成長加速を重視した研修「次世代女性リーダー養成プログラム(仮称)」を開発。20代女性が意欲を維持しながら、管理職候補のレベルに近づいた状態で30代のライフイベント期に入ってもらう──。木下編集長は「その道筋をつくり、皆さんの後押しをしていきたい」と力を込めました。

「30歳ごろに管理職への心の準備ができていれば、その後もリアルな管理職候補としてライフイベント期を乗り越えていける可能性が高まります。『プレジデント ウーマン』ならではのオリジナルコンテンツを活用しながら、皆さんと一緒により効果的なプログラムにしていきたいと思います」

講演後には白河さんも参加して質疑応答が行われました。その後、参加者は数人ごとにブレークアウトルームに分かれてグループディスカッションを開始。自社の20代女性社員の傾向や、彼女たちにふさわしい研修内容などについて議論を重ねました。

ディスカッション後は、各グループで出た意見を代表者が発表。「女性比率自体が少なく、管理職を育成したくてもどこから手をつければいいのかわからない」「会社としては女性管理職を増やしたいが、研修がそうした価値観の押しつけになってはいけない。おのおのがいちばん輝けると思える選択肢をサポートする研修があればいいのでは」などの声が上がりました。

また、女性のライフサイクルについて「企業は大量採用した20代が同時期に出産する可能性も考えて、事前に人員を多めに確保するなどの対策も必要」という意見も出ました。

さらには今の20代の特徴として、「家庭と仕事を両立したいといった現状維持を望む傾向があり、上昇志向の人は少ない」という議論も。発表者は「ただ、それでは日本の衰退につながりかねない」とし、企業はグローバル教育やリモート勤務の拡大といった工夫も求められるのではと語りました。

グループディスカッションの様子
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

最後に木下編集長が「皆さんの声を聞いて、20代女性だけでなく20代男性向けのキャリア研修や家事育児分担セミナーなどがあってもいいのかなと感じました」と総括。続いて懇親会&交流会も行われました。

今回の研究会は、企業の人事・ダイバーシティ担当者にとって、多くの実践的な情報が得られる機会となりました。今後もプレジデント総研では、ダイバーシティや20代女性の教育に関する研究会を定期的に開催していくとのこと。女性活躍が「普通」になる日に向けて、新たな取り組みは続きます。