ダイエットはいつの時代も女性の関心の的。健康と美を両立できるダイエット法はあるのか。慶應女子高で保健を教えていた内科医の菅沼安嬉子さんは「ダイエット12カ条を実践し、78歳の今も162cm、52kgをキープしている」という――。

※本稿は、菅沼安嬉子『私が教えた 慶應女子高の保健授業 家庭で使える大人の教養医学』(世界文化社)の一部を再編集したものです。

バスルームに置かれた体重計とメジャー
写真=iStock.com/wragg
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生理を止める過度なダイエットにご注意を

若い女性にとってダイエットは関心の的です。痩せるなら生理が止まらないように上手にやってほしいものです。半年で10kg痩せて生理が止まり、女性ホルモン療法で15kg太ったけれど、まだ生理が来ないと悩んでいる患者さんがいました。こんなことになっては悲しいので、生理の止まらないダイエットの話をしましょう。

ダイエットはできることなら、卵巣機能が安定する20歳を過ぎてからの方がよいのですが、それまで待てない人は、1年に3~5kgの減量にして下さい。『10日で5kg無理なく痩せる』という広告がありますが、男性ならともかく若い女性は危険です。何のためにダイエットをするのかを忘れないように。骸骨が皮を被ったように痩せて、皮膚はカサカサで腰が曲がったようになっては仕方がありません。余分な脂肪だけ落として、肌が美しく魅力的な女性にならなくてはいけませんね。そして痩せすぎは絶対にだめですよ! 目標を決めて、健康を損なわないように注意しながらやって下さい。

押さえておきたい長続きするダイエットのコツ

ダイエットのやり方は、非常にたくさんあります。ダイエットを扱った本は本屋さんに溢れていますし、雑誌もダイエットの特集をすれば、かならず売れるそうです。しかし、あまり偏った特別の療法はしないことです。ダイエットは一生続けられるものでなくては、痩せてもすぐ戻ってしまいます。

2週間リンゴだけを1食に3個ずつ食べるとか、卵を1日9個にグレープフルーツだけとか、バナナダイエット、その他次々に新しいダイエット法が出ています。カロリーにして1日1000キロカロリー(kcal)にもなりませんから、たしかに痩せるでしょう。しかし、これを一生続けていたら栄養は偏ってしまいますし、会社では「あの人、変!」というレッテルを貼られてしまいます。お母さんになったら、子供の食生活もおかしくなってしまうでしょう。ダイエットは基本を押さえて、一般の食事から選択して食べるのが長続きするコツです。

タンパク質は100kcal食べると130kcal燃える

たんぱく質は100kcal分食べると、体内で代謝が活発になって130kcal分燃えてくれます。脂身の少ない赤身の肉、脂の少ない魚、卵、無脂肪牛乳、カッテージチーズはたくさん食べても大丈夫!

たんぱく質を多く摂ると、血清中のたんぱくが増えます。これは脳の空腹中枢を抑えて、暴走を防いでくれるのです。あまりにもお腹が空いてもう何でもいいから食べたいと、ムチャ食いした経験は誰にでもあるでしょう。ところがダイエットをしている最中にそれをやると、体が低カロリーに合わせて代謝を落としている時ですから、あっという間に2kgぐらい太ってしまうのです。

10代のまだ成長期の頃は、たんぱく質は筋肉、血管、内臓を作る大事な栄養素ですから、1日の必要量である男性50g、女性45gより多く摂ってほしいのです。ちなみに50gというのは、肉や魚、そのもの重さではありません。肉や魚には水分や脂も入っているからです。目安として毎食、100g分くらいの魚か肉を、それがない時は豆か豆腐を加えて下さい。コレステロール値の高くない人なら、固ゆで卵は、お腹の持ちがよいのでお勧めです。

食品中のたんぱく質量(目安)
図表提供=筆者

※初出時、図表1の数値に誤りがあったため、図表を差し替えました(2022年5月18日9時58分)

野菜は肉や魚の3倍食べよう

緑黄色野菜にも少しはカロリーがありますが、胃や腸で消化するのにその分くらいのエネルギーを必要とするので、カロリーはほとんどゼロと考えてよいでしょう。しかし、芋と名の付く野菜は、ご飯やパンと同じに考えて下さい。じゃが芋大1個、さつま芋中1個、里芋3~4個は、どれかを食べたら、ご飯を1杯減らして下さい。トウモロコシは穀類です。

ダイエットをする時、植物油はよいと思っている人が多いのですが、動物性脂肪はいけなくて植物性脂肪がよいのは動脈硬化での話です。ダイエットの時はカロリーが一緒なのでどちらも極力減らさなくてはなりません。マーガリンをつけたパン1枚は2枚分のカロリーに、卵を目玉焼きにするとカロリーは倍になると思って下さい。カロリー・ハーフのマーガリンならよいだろうと思っている人がいますが、マーガリンは軟らかいのでバターの3倍もつけてしまうことになり、かえって逆効果です。マヨネーズも小さじ3杯でご飯1杯分です。

フライパンの中には目玉焼きとベーコン、マッシュルームとミニトマト1つずつ
写真=iStock.com/Ilia Nesolenyi
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甘い物を脂肪と一緒に摂ると体脂肪がつきやすいという説があります。その説に従うと、甘い物を食べたくなったら、ケーキはだめで和菓子とお茶の方がよいでしょう。

しかし、全く脂肪をカットすると、脂溶性ビタミンA・D・Eの吸収が悪くなってお肌がカサカサになりますから、野菜炒めのサラダ油少量くらいはOKです。体に脂肪がつきにくいサラダ油も発売されています。長期的な副作用はわかりませんが、少し利用するのはよいでしょう。

ダイエット中も1日600mgのカルシウムを

カルシウムは30歳までにしっかり骨に蓄えないと、老年期に骨粗鬆症になって家の中で転んでも骨折してしまいます。

菅沼安嬉子『私が教えた 慶應女子高の保健授業 家庭で使える大人の教養医学』(世界文化社)
菅沼安嬉子『私が教えた 慶應女子高の保健授業 家庭で使える大人の教養医学』(世界文化社)

とくに10代のうちにカルシウムをしっかり摂って、重力に逆らった運動をするのが、骨を丈夫にするコツです。カルシウムの必要量は1日600mgとされています。たとえば牛乳コップ1杯(200mL)、ヨーグルト200mL、三角チーズ1切れがそれぞれ200mgです。どんなにダイエットをしている時でもこれ以下にしないようにして下さい。

小魚の骨でもよいのですが、乳製品のカルシウムの方が吸収がよいので、低脂肪とか無脂肪の牛乳やヨーグルトを選ぶとよいでしょう。

日光に当たりすぎは皮膚がんの心配がありますが、全く当たらないとビタミンDが活性化しないのでカルシウムの吸収が悪くなりますから、骨のために適当な日光浴も必要です。

骨内のカルシウム量からみた骨粗鬆症の病態
出典=林泰史「骨粗鬆症 治療へのアプローチ③骨粗鬆症の病態と症状」日医雑誌 第124巻第9号2000年

運動では痩せない! ダイエット成功のカギは食事との掛け合わせ

適度な運動はぜひやってほしいのですが、運動しているからと安心すると、ダイエットは失敗します。運動で消費するカロリーは思いのほか少ないのです。カステラを1切れ食べたら、どのくらいジョギングをしなくてはならないと思いますか。45分です。そんなに走ったら、また、アイスクリームやジュースが欲しくなってしまいます。運動は、体の余分な脂肪を落として筋肉を付け、均整のとれた体にするためのものです。食事と上手に組み合わせて下さい。

このような基本を身に付けると、時々はフランス料理のフルコースやケーキを食べても、太らない体になっていきます。ダイエットによい食事や生活スタイルは、動脈硬化になりにくく生活習慣病の予防やがんの予防にも一役買う、医学的に見ても理想的なものです。ダイエットのための12カ条は、がん予防の12カ条をもじって私が作ったものですが、痩せたいと思っている人は参考にして下さい。私は女子高生の頃、一日5食食べて60kgでした。今は12カ条を実践して、162cm、52kgです。

ダイエットのための12カ条
図表提供=筆者