最初の1歩は「第一線で働く女性を増やす」
【木下】御社の女性活躍戦略がスタートした経緯をお聞かせください。
【山田】当社は2005年から女性営業職の積極採用を開始しました。将来、自社が多様な力を生かして成長していくためには女性の活躍が必要だという経営陣の判断に基づいたものです。翌年には経営企画部に女性活躍推進グループを設置し、ダイバーシティ推進方針として「女性活躍の推進」「多様な人材の活躍」「多様な働き方、ワーク・ライフ・バランスの推進」の3つの柱を掲げました。
【木下】女性活躍推進では、具体的にどのようなことに取り組まれましたか?
【山田】主に4つの施策を進めました。第一は女性営業職のキャリアアップ支援で、定着と育成、店長への登用などに取り組みました。第二は女性技術職のキャリアアップ支援で、職域の拡大をはじめ現場監督やスペシャリストの育成に努めました。いずれも、現場の第一線で働く女性の数を増やすことを目的としたものです。そしてこの母数が増えてきたところで、第三の施策として女性管理職の育成を、第四の施策として上司の意識改革を開始しました。特に仕事と家庭の両立支援においては、本人だけでなく上司や職場の理解も大切になりますので、制度整備や研修などを繰り返し実施しています。
【木下】さまざまな面から多角的に取り組んでいらっしゃるのですね。そうした取り組みに対して、男性から反発や女性からの戸惑いの声などはなかったのでしょうか。
経営トップが旗振り役に
【山田】反発の声もありました。建設業界は伝統的に男性社会で、女性の割合が少ない業界です。当社も例外ではなく、女性活躍を本気で推進していくということを全社員に浸透させるのにはとても苦労しました。女性を増やすと言っても、全国に多くの支店があるため、支店ごとに見れば女性営業職は1名いるかいないか。現場では男性リーダーから「女性営業職の扱い方がわからない」という声が出たり、女性本人が働きづらさを感じて長続きしなかったりと、なかなかうまくいかない状態が続きました。
【木下】そうした状態からどう脱却していかれたのですか?
【山田】経営トップが「女性の活躍なくして積水ハウスの成長なし」と言い続けてくれたのが大きかったと思います。機会があるごとに全社員に向けて、また社外に向けても発信を続けてくれました。推進メンバーも、多様な感性が求められる住まいづくりにおいては、あらゆる職種で女性をはじめとする多様な人材の活躍が必要だという強い思いを持っていました。それでこそお客様によりよいサービスを提供できるのだと。
【木下】トップ自らが旗振り役を務められていたのですね。それは、現場で女性活躍推進に取り組む方々にとっても大きな原動力になりますね。
【山田】しかし、皆が女性活躍の意義や目的を理解していないと、現場でも「女性を辞めさせてはいけない」といったその場しのぎの対応になってしまいがちです。そのため、上司や職場、そして女性自身にも本質を理解してもらえるよう、新入社員から幹部に至るまで何度もダイバーシティ研修を受けてもらっています。こうした啓発活動は、現在も繰り返し行っています。
【木下】2007年からは全国の女性営業の交流会も始めたと伺いました。
【山田】女性営業職は女性の先輩が身近にいないケースがほとんどでしたので、エリアを超えたネットワークづくりが必要だと感じて、年1回の交流会を始めました。全国の女性営業が一堂に集まり、経営トップによる業績表彰や社長の講話、優秀な成績を挙げた社員による事例発表、グループ討議などを行っています。今では育児や介護中の人、店長職の人など多様なロールモデルが育ってきており、働き方の事例やコロナ禍における営業手法などさまざまなワークショップも実施しています。
【木下】交流会が女性だけという点に反発はなかったのでしょうか。「逆差別だ」という人もいそうですが。
【山田】女性活躍の必要性はかなり浸透していたので、それほど反発はなかったと思います。ポイントは、役員や本部長も参加するなど経営層を巻き込んだ施策になっていること。女性営業育成担当の支店長や営業本部の育成担当者も参加し、女性の活躍や育成度を見える化する機会としています。参加者の満足度も会を追うごとに高まっており、スキルはもちろんモチベーションの向上にもつながっています。
男性育休「全員1カ月取得」を宣言
【木下】そのほかにもさまざまな女性対象の研修を行っていると伺いました。内容や効果についてお聞かせください。
【山田】当社では、2014年に女性管理職候補者向けの研修「積水ハウスウィメンズカレッジ」を開講しました。これまでに157名が受講し、うち80名が管理職に登用されています。毎年、全国から推薦された20名を受講生とし、約2年間のカリキュラムで管理職にふさわしい経営視点や実力を備えた人材を育成しています。1年目はマネジメントの本質を学び、2年目には実際に職場の課題を解決する「経験学習」で、上司や組織を巻き込み問題を解決していく力の強化を図っています。最後の成果発表では、社長や経営層へのプレゼンテーションもあります。この取り組みの成果として、開始当時に64名だったグループの女性管理職数は、2021年7月末には271名にまで増えました。
【木下】目覚ましい成果ですね。男性育休についても、2018年から「対象者全員1カ月以上取得」を実施されていますね。
【山田】はい。2018年2月に社長に就任した仲井が、スウェーデン出張の際に公園でベビーカーを押しているのがすべて男性だったことに感銘を受け、「当社でもやろう」ということで、帰国後すぐ実施に至りました。制度としては、最初の1カ月は有給とし、子どもが3歳になるまで最大4回の分割取得を可能としています。
【木下】社内の反応はいかがでしたか? 「そんなに休めない」「無理だ」という声もあったのではないでしょうか。
【山田】若い人たちの間では「家事育児は家族でシェアするもの」という意識が普通になってきているので、それほど問題はありませんでした。でも幹部からは、経営数字に響くのではないか、現場でお客様に迷惑がかからないか、代替要員はどうするのかといった心配の声も上がりました。そこで、意識改革や啓発、各種ツールの整備などを繰り返し実施し、最近になってようやく「男性も育休をとって当たり前」という風土に変わってきました。私としては、本人と家族の幸せ度が向上しているのが何よりもうれしいです。職場でも、助け合いやコミュニケーションが活性化してきています。
【木下】女性活躍や男性育休のほかにも、先進的なダイバーシティの取り組みを行っていらっしゃいますね。
【山田】多様な人材の活躍を目的に、障がいのある従業員やLGBTQへの理解促進を行っています。LGBTQについては毎年研修テーマに取り上げているほか、2019年には同性パートナーや異性事実婚にも、配偶者と同様に社内規則や福利厚生制度が適用できるようにしました。また、LGBTQ専門の相談窓口を設け、職場での「アライ(支援者)」を増やす取り組みも進めています。
真のダイバーシティ実現に向けて
【木下】社員の方の幸せ度調査も行っているとお聞きしました。これがダイバーシティ推進の究極の姿ではないかと感じますが、いかがでしょうか。
【山田】当グループのグローバルビジョンは「『わが家』を世界一 幸せな場所にする」です。その意味では、従業員にとっての「わが家」は職場や会社であると考え、世界一幸せな会社であるべく努力しています。昨年度からは、幸福経営学の第一人者である慶應義塾大学の前野隆司教授の監修の下、グループ約2万7000名に対して「幸せ度調査」を始めました。この調査は、「社員に幸せになってほしい」という会社からのメッセージでもあります。働く幸せとは、働きがいや自己成長、誰かの役に立っているという実感から生まれるもの。一人ひとりの多様な力を生かして個人の幸せと組織の持続的な成長を実現する、これこそがダイバーシティ推進の実践と言えるのではないかと思います。
【木下】すばらしい取り組みだと感じました。今後、ダイバーシティについてはどんな目標値を設定されていますか?
【山田】2025年度までに、グループ全体で女性管理職を310名以上登用する方針です。また、男性育休もグループで100%を目標としています。現在は経営層のダイバーシティも進んでおり、取締役のうち3割が女性、社外取締役が4割となっています。今後も女性従業員比率や管理職比率をさらに増やし、部長職や役員候補などへのパイプライン構築に力を入れていきます。将来的には、性別に関係なく誰もが多様な力を発揮できる企業文化をつくり、社員の幸せを基盤としたダイバーシティ経営を実践していきたいと考えています。
【木下】最後に、ダイバーシティ推進に悩める人事関係者の方々に励ましのメッセージをお願いいたします。
【山田】ダイバーシティ推進はすぐには成果が出にくく、継続的な取り組みが必要です。そこで大事になるのが、トップのコミットメントや発信力です。経営トップを巻き込む仕組みづくりと担当者の熱い思いがあれば、必ず理解を得られますので、根気強く取り組み続けていただきたいですね。また、他社との情報交換や連携、社外への発信などを通して、社会全体におけるジェンダー平等の機運を高めていくことも、自社のダイバーシティ推進の後押しになると思います。ともに頑張ってまいりましょう。
◆ご不明な点などございましたらお気軽に事務局までお問い合わせくださいませ。
『PRESIDENT WOMANダイバーシティ担当者の会』事務局(担当:名越)
woman-diversity@president.co.jp