「PRESIDENT WOMANダイバーシティ担当者の会」第9回は、創業当初から女性を積極採用してきたリクルートのダイバーシティ推進部部長(当時)、江藤彩乃さんにご登壇いただきました。同社は2021年、グループ全体の目標として「2030年度までに、取締役会構成員・上級管理職・管理職・従業員それぞれの女性比率を約50%にする」と発表。現在までの、そして目標達成に向けた取り組みを木下明子編集長が伺いました。

長時間労働の改善から始めて両立支援へ

【木下】御社の経営理念や、人材に対する考え方をお聞かせください。

【江藤】当社は、1960年の創業当初から「個の尊重」を理念として、性別、学歴、国籍を問わずに人材を採用して仕事を任せてきました。現在も、従業員個々の好奇心や情熱こそが社会に大きな価値をもたらすと信じて、「人」への投資を続けています。当社にとって、「人」は競争力の源泉であり大切な財産。DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)はそれを具現化する手立てのひとつと考えて取り組んでいます。

【木下】その中で、女性躍進戦略はどのようにスタートしたのでしょうか。

【江藤】従来は、仕事と育児などを両立できる働き方が確立していませんでした。そこで、2006年にDEI専任組織を発足させ、まず長時間労働の改善から取り組みを始めました。次に実施したのは、事業所内保育園の設置や在宅勤務制度の導入といったワーキングマザーへの両立支援です。この時期は「いかに仕事と育児を両立できる会社をつくっていくか」という点に注力していました。

【木下】その後の改革の流れと、それぞれのポイントについて教えてください。

【江藤】2010年からは女性の活躍支援を加速させ、育成プログラムや、28歳前後の女性を対象としたキャリア研修「Career Cafe 28」を開始。2013年には、役員や課長への任用目標の設定などを開始しました。2015年には次のステップとして、性別問わず柔軟な働き方を支援しようと全社的なワークスタイル改革に着手し、育児などの事由を問わないリモートワークの導入を進めてきました。そして2018年からは、介護者やLGBTQなど、多様な事情やライフスタイルを持つ人皆が活躍できる環境づくりに取り組んでいます。また、2020年には、社会課題解決に向けて、保育園入園活動(保活)支援に関する知見を軸に、当社のナレッジを社外に共有する「保活総研」の活動なども始めました。

【木下】専任組織を設置して以降、着実に取り組みを進めてこられたと。各施策を打つにあたっては、まず軸となるテーマを決めたそうですね。

【江藤】DEI推進における課題をもとに3つの重要テーマを定め、それらを軸に施策を展開しています。1つめのテーマは、将来的に高い役職を担っていきたいという役職志向の女性が少なかったため、「女性の意識の醸成」としました。2つめは、若手女性の半数以上が今後のキャリアについて上長に相談できていないことから「マネジメントサイドへの教育」を掲げました。3つめは「働き方・両立支援」です。これは、2012年ごろに従業員に実施した調査で「この会社で仕事と家庭を両立することは可能だと思う」と考えている女性が約3割しかおらず、かつ男女差が大きかったためです。

リクルート 人事統括室 ダイバーシティ推進部部長 江藤彩乃さん
撮影=小林久井(近藤スタジオ)
リクルート 人事統括室 ダイバーシティ推進部部長 江藤彩乃さん

「女性の意識醸成」のための研修とは

【木下】3つのテーマに基づいて、それぞれどんな施策を打っていらっしゃいますか?

【江藤】女性の意識の醸成では、28歳前後の若手女性を対象としたキャリア研修「Career Cafe 28」、女性営業職向けのワークショップ「エイジョ Cafe」、女性課長職向けの「マネジメントスタイル構築研修」などを行っています。また、マネジメントサイドへの教育ではCareer Cafe 28参加者の上長を主な対象にした研修「Career Cafe 28 BOSS」などを、働き方・両立支援では男性も対象とした出産育児休暇や保活支援などを実施しています。

【木下】28歳前後の女性に研修を行っているのはなぜでしょうか。

【江藤】その年齢は、今後ライフイベントを迎える可能性が高まっていたり、将来のキャリアに対して不安を抱える時期でもあります。そのモヤモヤを事前に解消することが、復職後や30代以降の活躍につながるのではと考えました。研修では、おもに自分の強みの棚卸しや、前倒しのキャリア構築について学んでもらっています。これまでに累計1200名以上が参加しており、参加者の満足度は97%。「今目の前の仕事を一生懸命取り組み、自分に付加価値をつけていくことが大切だと分かった」など、ライフイベントなどを経ても自分らしく働いていける自信がついたといった声も多いですね。

【木下】「エイジョ Cafe」もユニークな取り組みですね。リクルートと言えば営業に強いというイメージですが、女性営業職の場合、せっかく築いたお客様との関わりが育休で途絶えてしまうという企業もあるようです。

【江藤】確かに、営業は当社で最も配属人数が多い部署です。でも、女性課長比率が他の職種に比べて低く、若手女性が長期的なキャリア形成に不安を感じているという課題がありました。そこで「エイジョ Cafe」では、少人数での座談会形式で、管理職として活躍する女性ロールモデルと、両立や今後のキャリアなどについて気軽に話し合えるようにしました。

【木下】「マネジメントスタイル構築研修」についても教えてください。

【江藤】当社では女性の管理職任用を進めたことで、女性課長比率は30%に近づきました(2021年4月時点)。一方で、女性課長自身が「自分の成果に自信が持てない」「生産性向上が難しい」と悩んでいることもわかってきています。そこで研修では、才能診断ツールの結果を使って、各自に自分の強みを生かしたマネジメントスタイルを言語化してもらっています。狙いは「管理職にも多様なスタイルがあっていいんだよ」と伝えること。研修後「自己理解できた」という人は97%にのぼっています。

プレジデント ウーマン編集長 木下 明子
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

より両立しやすい環境をめざして保活支援も

【木下】2つめのテーマ「マネジメントサイドへの教育」についてはいかがでしょうか。

【江藤】先ほどお話しした、「Career Cafe 28 BOSS」では、外部講師から、経営戦略における女性活躍推進の意義や、女性メンバーの成長を加速させるためのマネジメントなどを学ぶ研修を行っています。研修への参加はすべて任意ですが、それでも毎回100人以上が参加してくれています。当社のマネジメント層は人材育成に対して非常に関心が高く、これも、経営理念「個の尊重」にひも付く社風のひとつだと思っています。

【木下】3つめのテーマである「働き方・両立支援」では、保活(子どもを保育所に入れるための活動)から支援されているそうですね。

【江藤】両立支援を開始した2008年のワーキングマザー比率は10.9%にすぎませんでしたが、さまざまな施策を打った結果、2021年には国内グループで合計30%に達しています。2018年には、人事に「復職したいが子どもを預けられないので実現できない」という声が寄せられたのを機に、保活相談窓口「保活のミカタ」を設置しました。自治体の保育園入園情報をまとめた保活データベースや保活セミナー、専任の相談員による個別相談などを通して支援を行っており、入園決定率はほぼ100%となっています。

【木下】男性への両立支援も行っていらっしゃいますか?

【江藤】当社の両立支援はすべて性別を問わないものです。今では、仕事と育児の両立は男性にとっても普通のことになっていますね。2021年現在、当社の男性の育児休暇取得率は25.5%(育児休業取得率は11.9%)ですが、今後はさらに強化していく方針です。また、こうした取り組みで蓄積したノウハウや知見は、会員企業様向けに「保活総研」という形で提供させていただいています。

【木下】ノウハウを社外にも共有されているのですね。今後もDEIへの取り組みを強化していく予定だそうですが、目標値などはありますか?

【江藤】2021年に、リクルートホールディングスは、グループ全体の目標として「2030年度までに、取締役会構成員・上級管理職・管理職・従業員それぞれの女性比率を約50%にする」という目標を掲げました。特に日本国内においては、かなりチャレンジングな目標ではありますが、当社は就業や採用を支援する事業も展開しているので、日本の女性躍進をリードしていきたいという強い思いがあります。

江藤 彩乃さんと木下 明子編集長
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

すべての階層の女性比率を50%に

【木下】「すべての階層で女性比率50%」は、非常に野心的なコミットメントだと思いました。達成するための施策についてお聞かせください。

【江藤】まだ検討中の段階ですが、今後の女性躍進では、女性の意識醸成と不安払拭、能力・機会開発、上長の育成支援の3つを三位一体で行っていくことが重要だと考えています。また、多様なリーダーを生むために、リーダーの役割や要件についても見直していきたいと思っています。例えば、ハードな働き方ができる、頻度高く出張ができる、といった、これまで暗黙的に共有されていたリーダーの要件を再定義するといったことですね。

【木下】それには会社の風土醸成も大事になってきますね。従来の男性社会がなかなか変わらないと悩んでいる企業も多いようですが、どうすればいいのでしょうか。

【江藤】風土醸成は、「なぜそれをやるのか」という全員の腹落ちがカギになると思います。特にDEIは、やらされている感が出てしまうと浸透につながりません。当社では、メールマガジンやセミナー、研修などを通して、多様な視点からDEIの重要性を繰り返し発信しています。役員や社外の著名人が語ることもあれば、役員や部長が持ち回りで「自分にとってのDEIとは」を語ることもあります。強制ではなく、従業員が自発的に関心を持ちDEIの重要性に気づいていく──。そんなコミュニケーションを大事にしています。

【木下】地道な取り組みも継続されているのですね。企業の中には、まだ風土が変わっていないのに「制度を整えたから女性活躍推進は終わり」と捉えてしまうところも多いようです。

【江藤】DEIは終わりのないものです。今は男女差が顕在化しているので女性躍進がフォーカスされていますが、それを通して実現したい世界は何なのかを見失ってはいけないと思います。目標数値の達成は手段であって目的ではありません。意思決定層に女性がいることが自社の価値創造にどう影響するのか、社会にとってどんな意義があるのか。常にその点を考えながら進めていく必要があると感じています。

【木下】最後に、ダイバーシティに悩める人事関係者の方に励ましのメッセージをお願いいたします。

【江藤】私たちも課題や悩みは皆様と同じで、模索しながら取り組みを続けています。女性活躍やDEIにおける課題には、日本社会の構造的な問題も大きい。1社だけでは解決できなくても、多くの知恵を集結させれば可能になると信じています。「保活総研」などの場を活用して、皆様と情報や悩みを共有しながら、一緒に日本のDEIを実現していけたらと思います。

◆ご不明な点などございましたらお気軽に事務局までお問い合わせくださいませ。
『PRESIDENT WOMANダイバーシティ担当者の会』事務局(担当:名越)
woman-diversity@president.co.jp