「PRESIDENT WOMANダイバーシティ担当者の会」では、企業の人事・ダイバーシティ担当者の皆さまに向けたウェビナーを定期開催しています。第6回は、りそなホールディングス ダイバーシティ推進室室長の島田律子さんをお迎えし、ダイバーシティ戦略が始まった経緯や、改革が迅速に進んだ理由などについて伺いました。

男性社員の大量離職で女性を戦力化

【木下】りそなホールディングスの女性活躍推進は、2003年の経営危機、いわゆる「りそなショック」から始まったと伺っています。まずはその経緯からお聞かせください。

【島田】当社は2003年に約2兆円の公的資金が注入され、実質国有化されました。この「りそなショック」で人員削減や給与3割カットなどが行われ、家計を支えられないということで30〜40代の男性社員が大勢退職してしまったのです。当時の営業担当や管理職はほぼ男性だったので、その穴を埋めるには女性やパートナー社員の活躍が必須という状況になりました。また、銀行業から金融サービス業へと変わっていくために、ロビーでお客様対応をしていた女性社員の声も積極的に取り入れるようになりました。当社の女性活躍は、ここから始まっていったと言えると思います。

【木下】当時の銀行業界では、営業は男性の仕事で女性はそのサポート役という慣習があったようですが、女性が外に出るようになったことで何か変化はありましたか?

【島田】女性社員が、自分の業務に自信を持てるようになっていきました。最初は、セールストークなどの研修を受けても、やはり実際に営業に出るとなると不安を感じるという人が少なくありませんでした。でも、お客様と接するうちに「課題解決のお手伝いができた」という実感や成功体験が積み上がり、それが自信につながっていったのだと思います。

島田 律子りそなホールディングス ダイバーシティ推進室室長
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

女性活躍に経営層を巻き込むコツとは

【木下】当時、女性活躍をはじめとする改革は、JRから来られた細谷英二元社長のもとトップダウンで進んだと伺っています。具体的にはどのような点に力を入れていったのでしょうか?

【島田】細谷からは、まず「人口の約半分は女性であり、お客様も半分は女性なのだから、女性の視点を生かした改革が必要だ」という話がありました。同時に、「女性に支持される銀行No.1を目指すために女性が働きやすい会社にしていく」「女性が活躍できる環境づくりが企業価値の向上につながる」「男女の壁を破って対等に意見を出し合えるようにする」「女性登用のためには女性の意識改革も必要」という話もあり、それに沿って改革が進められていきました。

【木下】急速な改革に対して、現場からの反発などはなかったのでしょうか。

【島田】なかったわけではありませんが、残った社員で公的資金を返済し、お客様の信頼を取り戻さなければ生き残れないという点では、皆の心は一つでした。また、細谷は営業店に足を運んでは社員やパートナー社員の意見を真剣に聞き、その実現に取り組んでいました。現場の意見が取り入れられていったため、反発よりも「よりよい意見を出していこう」という声のほうが大きかったと思います。

【木下】改革がスピーディーに進んだのには、やはりトップの姿勢が大きかったのですね。ただ、経営層がそれほど積極的でない企業では、「ボトムアップで進めるしかないがどうすれば……」と悩んでいる人事担当者の方も少なくありません。打ち手や経営層を巻き込むコツなど、アドバイスをいただけますか?

【島田】当社でもボトムアップからの取り組みは行っています。経営層を巻き込むには、同業他社や地方企業での先進的な取り組み事例を伝えるのもひとつの手だと思います。やはり、同業他社が女性活躍に積極的だとわかると焦りが生まれますし、都心部だけでなく全国で進んでいるとなると危機感も出てくるようです。

【木下】女性活躍推進施策では、御社は昇進を控えた女性だけでなく、入社してすぐの女性にもキャリア研修を行っていると伺いました。

【島田】ライフイベントを迎える前の時間的な余裕がある段階で、自分のワークとライフをどうしていきたいか考えてほしいので、当社では早期に研修を実施し、キャリア意識とマインドセットの醸成を図っています。受講者は皆同世代なので、「自分だけが不安なのではない」という安心感も得られますし、他者の意見から新たな気づきを得ることも多いようです。

木下編集長
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

「おかしい」と感じたらはっきり指摘を

【木下】そのほかにもダイバーシティ関連の研修や制度がありましたらご紹介ください。

【島田】ライフイベントに合わせて、復職支援セミナーや育休復帰者応援セミナーを実施しており、社員・スマート社員・パートナー社員間の転換制度も用意しています。また、新任の女性支店長を対象にしたメンタリング制度や、経営職層前の女性を対象にしたリーダー研修なども行っています。働き続けていく上では、同じ環境の人と話して安心感を得たり情報共有したりすることも大事。研修で出会った女性同士で、家事の時短方法などの話題で盛り上がることも多いようです(笑)。

【木下】働く女性から「社内にロールモデルがいない」という声を聞くことも多いのですが、御社ではどう対応されていますか? また、ロールモデル的な女性を選定する際に気をつけている点などありましたらお聞かせください。

【島田】そうした声に対しては、「自分とまったく同じ人はいない」とはっきりお伝えするようにしています。考え方や生き方は双子でも違うのだから、社内外のさまざまな人から話を聞いたり本を読んだりして“いいとこ取り”をして、自分なりの理想のロールモデルをつくってほしいと。また、研修などにロールモデルとして参加をお願いする場合は、所属する課や勤務地が偏らないよう気をつけています。

【木下】キャリアや働き方については、昭和的価値観を持つ上司世代と若手世代とでは考えにギャップがあるかと思います。そこはどう埋められていますか?

【島田】上司世代の方には、若手世代の価値観が多様化していることをお伝えするようにしています。すぐに理解してもらうのは難しいですが、身近な人と話して違いを実感してもらえるよう働きかけています。一方で、若手の方に上司世代や親世代の社会背景を伝えることも大切にしています。価値観が違うことを前提に、お互いに背景を理解し歩み寄る姿勢が必要だと思います。

【木下】島田さんご自身は山一證券のご出身で、入社1年目に自主廃業による「山一ショック」を、御社に転職後もすぐ「りそなショック」をご経験されました。こうしたご経験は、キャリアや仕事への意識にどんな変化をもたらしたとお考えですか?

【島田】正直、こんな社会人生活になるとは想像もしていませんでした(笑)。でも、2つのショックを経験して、企業の凋落は「おかしい」と感じることを誰も指摘できなくなるところから始まるのだと実感しました。そのため、自分は「おかしい」と感じたらはっきりそう言おうと決めています。また、時代の変化は早いので、何事もスピーディーに進めること、考えるだけでなく失敗を恐れず一歩踏み出すことが大事だと思うようになりました。身近な部分では、自分の業務をオープンにし、部下や皆の声に耳を傾けることを心がけています。

木下編集長とりそなホールディングス ダイバーシティ推進室室長 島田 律子さん
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

D&Iは企業価値を高めるための戦略

【木下】「おかしい」と言えない風潮は、同質性の高い集団ほど生まれやすいと言われています。その意味でもダイバーシティの推進は本当に重要ですね。島田さんはシステム部門からダイバーシティ推進室へ異動されましたが、これは予想外だったと伺いました。未経験の部署で管理職に就任されると大変なことも多いかと思いますが、同じ状況の方にアドバイスをお願いできますか?

【島田】昨年1年間は業務がまったくわからず、右往左往してばかりでした。でも、「聞くは一時の恥 聞かぬは一生の恥」と思い、上司や同僚、部下の皆に聞き回ったことで何とかやってこられたのかなと思います。わからないことはわからないと、あくまでも謙虚に、でも開き直ることが大事ですね。ストレスをためないことも大事で、私の場合は趣味のゴルフで発散しています。

【木下】転勤対応や、本社と支店の温度差の解消についてはどうされていますか?

【島田】当社には「本拠エリア制度」という人事制度があり、勤務地については関東圏、関西圏などの希望を登録することができます。本社と支店の温度差は、社内横断のコミュニティーをつくることである程度解消されているように思います。たとえば、女性の声を直接経営に反映させることを目的にした「りそなWomen's Council」は、さまざまな職場や立場の女性社員が集まる経営直轄の諮問機関です。ここでは、本社・支店を超えて職場や営業活動の改善につながる策を話し合い、提案する活動をしています。

【木下】ダイバーシティに関して、今後の目標値を教えてください。

【島田】当社は女性管理職比率では30%をクリアしていますが、その上の経営職階の女性比率はまだ低く、今後の課題になっています。そのため、2030年までにりそなホールディングスの女性役員比率30%以上、グループ6社の女性経営職階比率20%以上、同じくグループ6社の女性ライン管理職比率40%以上という目標値を定めました。役員・部店長などになるには各部門を経験することも重要なので、異動配置などについても議論を行っているところです。

【木下】女性活躍以外のダイバーシティ施策にも取り組まれているそうですね。

【島田】グループ全体で、特に障がい者雇用の拡大に積極的に取り組んでいます。当社は、女性活躍に限らずD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)は企業価値を高めるものだと捉えています。お客様が多様化している今、その課題解決をお手伝いするには私たちも多様化していかなければなりません。当社にとって、D&Iはそのための企業戦略なのです。

【木下】最後に、人事・ダイバーシティ担当者の方に励ましのメッセージをお願いいたします。

【島田】「継続は力なり」です。始めから大きな施策を成し遂げようとするのではなく、社員に寄り添うことを第一に、決めたことをコツコツ続けていくことが近道になるのではと思います。

【次回ウェビナーのご案内】
PRESIDENT WOMAN ダイバーシティ担当者の会主催 会員限定ウェビナーVol.9
競争力を高めるダイバーシティ&インクルージョン戦略とは

日時:2022年1月25日(火)14時~15時
登壇者:株式会社リクルート 江藤彩乃様(人事統括室 ダイバーシティ推進部長)
司会:PRESIDENT WOMAN編集長 木下明子
開催形式:Zoomによる配信
参加費:無料
お申込み方法:会員限定イベントのため、PRESIDENT WOMAN ダイバーシティ担当者の会へのご登録をお願いいたします。
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