コロナ禍の運動不足で“隠れ肥満”の恐れも
コロナ禍によってリモートワークが増え、不要不急の外出を自粛している今、運動不足や体重増加が気になる人も多いだろう。内科医で日本抗加齢医学会専門医でもある中村康宏医師は、「最近は『隠れ肥満』と呼ばれる『非アルコール性脂肪肝』の人が増加しています」と指摘する。
「『非アルコール性脂肪肝』とは、アルコールを飲まなくても肝臓に中性脂肪がたまっている状態。自覚症状がなく、血液検査をしないと判明しません。コロナ禍によって健康診断や人間ドックを控える人が増えていることもあり、気づかないうちに『非アルコール性脂肪肝』になっている恐れがあります」(中村医師)
代謝を意識することが、ダイエットのカギ
体重の増加や「非アルコール性脂肪肝」の防止・改善にはダイエットが必要となる。しかし、「糖質制限などの『○○制限ダイエット』や、一つの食べ物だけを摂り続ける『○○だけダイエット』は、一時的に体重を落とすことはできても、食事を元に戻すとリバウンドするなど根本的な解決にならないケースが多い」と、中村医師は警鐘を鳴らす。
「さらに、『○○制限/○○だけダイエット』は必要な栄養素まで摂れなくなって健康を害するリスクがあるうえ、腸内環境が悪化するなど免疫力の低下にもつながります。健康な体を維持しつつダイエットを行うには、必要な栄養素をきちんと摂りながら、『太らない体質を手に入れること』が重要です。そのためには『代謝』を正しく理解し、体内のエネルギー変換を意識することがポイントとなります」(中村医師)
脂肪燃焼体質をつくる“オイル”とは?
「代謝」とは、「体内で生じるエネルギー変換」のこと。摂取した食物は体内でエネルギーに変換されるが、「食事によるエネルギー摂取量」が「運動などによるエネルギー消費量」を上回ることが、体重増加の原因の一つとなる。また、エネルギーに変換されなかった糖質などは、脂質として体内に蓄積されてしまう。コロナ禍で運動によるエネルギー消費量が減っている今、体内の脂肪燃焼をサポートしてくれる食品として「MCTオイル」が注目されている。
「MCT」とは「Medium Chain Triglyceride(中鎖脂肪酸)」のことで、母乳や牛乳のほか、ココナッツなどのヤシ科植物に含まれる天然成分。オリーブオイルや菜種油、エゴマ油、アマニ油などは「LCT=Long Chain Triglyceride(長鎖脂肪酸)」であり、MCTオイルはLCTオイルに比べて酸化しにくく、体内ですばやく消化・吸収される。
「MCTオイルにはさまざまな健康効果があり、米国はもちろん日本でも50年以上前から未熟児・高齢者の栄養補給やてんかんの治療など、医療・介護分野で使われてきました。特に米国では1990年代以降、MCTに『脂肪燃焼作用』があることが判明してから、『非アルコール性脂肪肝』など肝臓治療の補助食品として使用されるほか、ダイエットにも活用されています」(中村医師)
そもそも人間の体を動かすための燃焼回路は、糖質をエネルギー源とする「糖燃焼回路」と、脂質をエネルギーとする「脂肪燃焼回路」の2つに大別される。ふだんは「糖燃焼回路」が優先的に働いて体を動かしているが、空腹時など体内の血糖を使い切ってしまったときだけ「脂肪燃焼回路」が働く。
「MCTオイルを摂取すると、体内のエネルギー産生工場『ミトコンドリア』を活性化させる『ケトン体』が生成され、『脂肪燃焼回路』のスイッチがオンに。すると『糖燃焼回路』と『脂肪燃焼回路』が同時に働いて効率よくエネルギーを燃やし、無理なく脂肪を燃焼しやすい体になるのです」(中村医師)
MCTオイルを効果的に摂取するには?
では、効果的に脂肪を燃焼させるためには、MCTオイルをどのように摂取したらよいのだろうか。整形外科医で漢方医でもある畠山昌樹医師は、「ファットアダプテーション」という食事法を提唱している。これは、食後のインスリンの分泌量を減らしつつ脂質を摂ることで、脂肪を燃焼しやすい体をつくる食事法だ。
「ファットアダプテーションのメリットは、筋肉の質を改善しながら脂肪を燃やすこと。具体的には、インスリンを分泌させる糖質を控えつつ、肉・魚介類などタンパク質や脂質を含む食材をしっかりと摂ったうえで油を摂取します。そして、油の中でも必ず摂取したいのがMCTオイルなのです」(畠山医師)
畠山医師は、朝食と昼食、そして睡眠前にMCTオイルを摂取する方法をすすめている。
「朝食では、MCTオイル15gを摂取。加えて、むくみを予防するカリウムが摂れるよう、果物が含まれていない野菜ジュースを飲みましょう。ジュースにMCTオイルを混ぜて飲むといいでしょう。さらに、DHAやカルニチン、マルチビタミンなど食事だけでは摂取できない栄養素をサプリメントで補って。昼食ではMCTオイル15gと、糖質量を15g以下に抑えた食事を。そして、夕食は炭水化物を控えたメニューにし、睡眠前にMCTオイル10gとアマニ油15gを摂取するのがおすすめです」(畠山医師)
夕食から翌日の朝食までの8~10時間は、体内にグリコーゲンがない状態。この間にMCTオイルを摂取することで、寝ている間に脂肪が燃える。さらに、アマニ油に含まれるα-リノレン酸には肌を美しくする作用があり、MCTオイルと一緒に摂ることで、きれいに痩せることができるという。
「ただし、MCTオイルは摂取しすぎると下痢を起こすことも。1回10~15gを目安にしてください。胃酸過多の人は気持ちが悪くなるケースもあるので、5gほどから始め、少しずつ量を増やして。まずは2週間この食事法を続けて、体重や体脂肪、体調の変化をチェックしましょう」(畠山医師)
MCTオイルで腸内環境の悪化を防ぐ
MCTオイルは脂肪の燃焼を促すだけでなく、腸内環境の悪化を防ぐ働きもある。
内科医で認定産業医の桐村里紗医師は、「腸内環境の悪化で太りやすくなる原因のひとつは、腸管でカンジダ菌が繁殖していることです」と話す。
カンジダ菌は腸内環境が良好であれば無害だが、糖質を与えすぎると、それをエサとして爆発的に増加。カンジダ菌が糖を食べるとアラビノースという糖をつくり、血糖値を下げるインスリンを誘発して低血糖状態に。さらに、カンジダ菌はミトコンドリアでの細胞のエネルギー産生を妨げる酒石酸やシトラマル酸などをつくり出し、エネルギー欠乏を引き起こす。すると、十分に糖質を摂っていても、脳が「エネルギーが足りない」と勘違いし、「もっと糖を摂りなさい」と指令を送ってしまうのだ。
「カンジダ菌は砂糖やコーンシロップのほか、果糖ブドウ糖液糖、糖質に偏った食事、ビールなどのアルコールが好物です。さらに、抗生剤やピルの内服によっても増えていきます。しかし、MCTオイルを構成する中鎖脂肪酸のC8(カプリル酸)には、カンジダ菌を抑える抗真菌作用があります。ただし、同じ中鎖脂肪酸のC12(ラウリン酸)にも同じ効果がありますが、炎症を起こすリスクがあるので避けたほうがいいでしょう。MCTオイルは、中鎖脂肪酸の中でも、C8(カプリル酸)とC10(カプリン酸)だけを抽出しているのでおすすめです」(桐村医師)
まだまだリモートワークや外出自粛が続くことで太りやすい環境にある今こそ、脂肪燃焼効果と腸内環境の悪化を防ぐMCTオイルを生活に取り入れ、太りにくい体を手に入れよう。