1月、ギンザ シックスの22店舗が撤退することが報じられ、大きな話題になった。消費者心理に詳しい桶谷功さんは、「アパレル業界は流行をつくり出すようなことは完全にやめて、一人ひとり個別に受注生産をするくらいの覚悟を決めたほうがいい」と指摘する――。
2018年6月25日のGINZA SIX
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店舗入れ替えは根本的な解決にならず

こんにちは、桶谷功です。

今年(2021年)の1月、大型商業施設「ギンザ シックス(GINZA SIX)」内の22店舗が撤退することになりました。

ギンザ シックスが松屋銀座店の跡地にオープンしたのは2017年のこと。ラグジュアリーな雰囲気が話題となり、開業初年度は2000万人が訪れたものの、最近はコロナでインバウンド消費も落ち込んでいました。おそらく店舗を入れ替えることで活性化を狙ったのでしょうが、百貨店の閉店が相次いでいるなかで、根本的な解決にはならないのではないでしょうか。

脱百貨店モデルだが、中身は百貨店のまま

ギンザ シックスは「脱百貨店モデル」だと言われています。つまりモノを売って儲けるのではなく、各テナントから固定家賃プラス売り上げに応じた賃料を受け取る「不動産モデル」です。しかし消費者からすれば、お店で買い物をする行為自体、百貨店と何ら変わりません。つまり中身は百貨店のままなのです。ギンザ シックスは、「いままでこのやり方で儲かってきたんだから」と過去に固執し、消費者を見ていないような気がしてなりません。

銀座という街自体、いまや魅力を失っています。コロナの流行前から日本人の姿をあまり見なくなったし、平日の昼間などは特に、単なる外国人の観光地のようになってしまいました。日本人にとって、銀座という街の特別感が失われてしまった以上、インバウンド需要を取り込むしかありませんが、コロナではどうしようもない。結果的に壊滅状態になってしまったのでしょう。

インバウンドはコロナ後も戻らない

すでに述べたように、ギンザ シックスがオープンしたのは2017年です。いっぽう、中国人による「爆買い」が流行語大賞をとったのは2015年。訪日外国人の中で、一人当たりの支出が最も多いのは中国人でしたが、2016年には早くも5位に転落し、インバウンド消費は大幅に減少しています。

ギンザ シックスは開発上の調整のため、出来上がるまで14年かかったと言われています。そのため途中で方向転換ができなかったのかもしれませんが、やはり狙いがズレていると言わざるを得ない。

爆買いをしなくなった中国人が、その代わりにどうしたかというと、「爆輸入」です。外国で買い物をして帰ると税関を通るときに面倒くさいし、外貨の規制などもある。それならECや輸入をしたほうがいい、というふうになっています。

また彼らが日本に旅行に来たときの行動も、爆買いという「モノ消費」から、スキーや温泉を楽しむ「コト消費」に変わりました。それなのにいまだに、「銀座のラグジュアリーな空間で、ショッピングをするのが最高の体験ですよ」と言い続けるのは、無理があるのではないかと思います。

あくまで中国人をターゲットにするなら、越境ECの天猫国際(Tモール・グローバル)での出店やプロモーションを強化したほうが、ずっと効果的です。

オンラインショッピングのイメージ
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「おしゃれ」の定義が大きく変化した

百貨店のもう一つの問題点が、「アパレル頼み」であることです。ところがいまは洋服が売れません。アパレル業界の人たちも、百貨店の人たち同様、びっくりするほど消費者のほうを見ていない。いまは「おしゃれ」の定義がまったく変わったのに、気づいていないようなのです。いや、とっくに気付いているけど、けっして認めたくはない、ということなのかもしれません。

私もそうですが、バブル世代は洋服やブランドの価値を利用して、自分を実際以上によく見せようとします。ところがいまの若い世代は、「モノに頼って自分をよく見せるのはカッコ悪い」という感覚を持っていて、おしゃれに時間とお金と労力をかける人のことを、はっきり口に出しては言わないものの、下に見ている。以前この連載でも紹介したことがありますが(「なぜ伝統的な『グループインタビュー』に力を入れる企業はヒット商品を出せないか」)、「投影法」という手法を使って調査すると、そういう結果が出てきます。

「気合いを入れておしゃれするのはダサい」という価値観

彼らはおしゃれにうつつを抜かす人たちのことを、口では「いいと思いますよ」と言いながら、内心は「自分たちとは別人種」だと思っている。「気合いを入れておしゃれをする人って、中身がなさそう」と感じているのです。もちろん、人それぞれの自由なので、表立ってディスったりはしませんが、心の中で自分は「そうはなりたくない」とはっきり思っています。

その一方で実質的なものを重んじるので、機能性に優れていてコスパがいいユニクロなどの価値は認める。いくらおしゃれでも、着心地が悪いとか、寒い・暑い、動きにくいものには価値を認めない。それに、そこそこセンスがいいので、ユニクロを着ていてもコーディネートなどで個性を出すのが上手です。

さらにいまの若者は地球環境を守ることにも関心が高く、再生繊維でできていたり、長く着られるものを「カッコいい」と判断します。逆に使い捨てだったり、モノを無駄にするのは「カッコ悪い」。

ところがファッション業界では、相変わらず消費を促進するために、「計画的陳腐化」を行っています。つまり毎年の流行をつくり出すことで、流行遅れをつくっていく。そうすることで物理的に着られる服があっても、流行遅れで着られないようにして、新しい服の需要を喚起する。このようなことは、とてもいまの若い世代には受け入れられませんし、意識はしていなかったとしても、心の奥底で反感や嫌悪さえ感じさせている恐れがあります。

アパレル業界への2つの処方箋

アパレル業界が、どうしても自分たちがおしゃれと感じるものを作りたいのなら、もう「いまの若い世代におしゃれなものを提案する」というようなことはやめて、もっと上の世代を狙うことを考えたほうがいいのではないでしょうか。いまの50代以上は、おしゃれに意欲があるいっぽうで、体型も崩れてくるので、それをカバーする洋服にはニーズがあります。作り手のファッションセンスとも近い。人生100年時代ですから、60代、70代、80代になっても、自分をよく見せてくれる新しい洋服を着たがるはずです。

もう一つの方法が、マスを狙うのをやめて、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー:消費者直接取引)の方向に行くことです。「流行をつくりだす」ようなことは完全にやめて、一人ひとり個別に受注生産をするくらいの覚悟を決めたほうがいい。

化粧品も食品もすべて、その人に合わせてパーソナライズされていくのは、間違いないのですから。

若い世代であっても、高いクルマに乗りたがる人は一定数いますし、フレンチレストランで一食10万円の食事を楽しみたい人はいる。そういう人たちは洋服にもお金を惜しまないので、専属のスタイリストとなったりオーダーメードの服を作ったり、その人たちに向けて仕事をするという手があります。

少数の相手であっても存在意義があることが大切です。いまのマス向けの洋服のままでは、作り手の都合だけで、誰からも必要とされなくなっていくでしょう。

顧客リストという強みを最大限活用する

ここからは百貨店業界への提言です。

まずは自らの強みを自覚して、それを極めることです。なんといっても百貨店には、優良顧客とよい関係を築いてきた信用と歴史があります。従業員教育が行き届いていますから、接客力もすばらしい。

特別に大事なお得意さまのデータベースともいえる「お帳場」を持っていますし、自宅まで出向いて商品を届ける「外商」という制度もある。お得意さまのなかには、「親の代から衣食住にまつわるすべてのものは、全部○○屋さんでそろえる」というお客さんも少なくない。つまり、どの業界も垂涎ものの「顧客リスト」を持っているのです。

コロナでお客さんの自宅を訪問しにくければ、リモートで接客すればいいだけ。お客さん一人ひとりに対して、画面を通して相談にのったり商品の紹介をしたりすれば、ライブコマース以上に対面並みの接客ができる。もし、お客さんがシニアでオンラインに不慣れなら、専用のタブレットを渡して使い方をお教えすればいい。もともと面識のあるお得意さまなのだから、さらに絆が強まるに違いありません。

扱う商品も、衣服や装身具に頼らず、デパ地下人気に代表される食品類、食器などのライフスタイル雑貨など、需要が伸びている領域に注目すべきです。

「大塚家具」のようになってはいけない

さらには、モノだけでなく、高齢者向け、富裕層向けの金融商品、運動サポートや健康づくりなどのサービスにも広げていける可能性があります。自分たちにノウハウがないなら、ノウハウを持つところと組めばいい。組む先はいくらでもあるし、「百貨店と組みたい」という人たちはいくらでもいるでしょう。

リアル、バーチャルを超えて、富裕層にとっての「ポータル」であり「プラットフォーム」になることを目指すのです。

いちばん危険なのは、近年の「大塚家具」のようになってしまうことです。大塚家具はあれだけの目利き力と接客力、そして優良顧客のリストを持っていたにもかかわらず、「ニトリになりたい」と思ってしまった。自分の強みを見失って、世の中の流行だけを見て、正反対の方向に動いてしまったのです。百貨店には同じ轍を踏んでほしくないと思います。