コロナ禍によるリモートワークや外出自粛が続き、慢性的な運動不足に陥っている人は多いはず。活動量が減ると、年代を問わず、骨が弱くなる危険性があるという——。
がいこつ
写真=iStock.com/fstop123
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「動かない生活」で筋肉と骨が老化し、転倒の危険性も

新型コロナウイルス感染拡大による「おこもり生活」も2年目に突入した。ステイホームの長期化で懸念されるのが活動量の低下だ。

筆者も、運動不足に危機感をもつ一人。もともと運動習慣はないが、取材に出かけるだけでも1日に8000歩くらいは自然と歩いていた。しかし、今は取材の多くがオンラインとなり、家から一歩も出ない日もざらにある。1日の歩数がわずか119歩という日もあり衝撃を受けた。以前と比べて活動量は減っているにもかかわらず、夕方になると疲れやすい。

慢性的に活動量が低下すると私たちの心身にはどのような悪影響が現れるのだろうか。東京・砧にある「そしがや大蔵クリニック」院長で内科医の中山久徳先生は、「“動かない体”から“動けない体”となり、悪循環に陥る」と警鐘を鳴らす。

「活動量が減ると、心肺機能低下や消化機能低下、筋肉の萎縮など体の働きが衰えてきます。それが進むと、“動かない体”から“動けない体”となり、悪循環に陥ります。体を支える骨の老化も加速し、進行すると『生活不活発病』という病気に発展する可能性も出てきます」(中山先生)

若い世代にも広がりつつある「生活不活発病」

厚生労働省によると、“生活不活発病”とは学術用語でいう「廃用症候群」であり、「“動かない”状態が続くことにより、心身の機能が低下して“動けなくなる”こと」を指す。動かない状態が続くと、歩くことが難しくなったり疲れやすくなったりして動きにくくなり、ますます生活不活発病が進んでいく。家の中でつまずく、転ぶといったことも増えるという。

「生活不活発病」は当初、災害などで避難所生活を送る高齢者に多発する傾向があったようだが、コロナ禍で運動機会が減少している今、年代を問わず心身の機能低下を引き起こす可能性が高まっているといえる。

「動かないと骨や筋肉が衰えるだけでなく、手足の動きと脳がうまく協調できず、動きが鈍くなり転倒などにつながります。さらに、骨が弱っているので骨折を引き起こす可能性が非常に高くなります」(中山先生)

骨のピークは20代。骨老化は若年層でも起こる

運動量が低下することでもっとも心配なのは「骨老化」だという。骨密度は思春期から高まり、女性ではおよそ20歳、男性ではそれより少し遅れてピークを迎える。このピークは女性の場合閉経の頃まで維持され、男性の場合は40歳代頃から低下していくという(図表1)。

年齢による骨量の変化
出所=武田薬品工業「骨粗しょう症ガイド」より

年齢とともに、男性は緩やかに骨密度が低下していくが、女性は閉経を境にガクンと低下する。骨の破壊を防いだり骨の形成を促したりしていた女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が急速に減少するためだ。

「最大骨量に達するまでの間、さらに一定量を維持できる期間に、骨密度を高める努力、つまり骨貯金をしておくことがとても重要となります。しっかりとした骨格をつくる時期に活動量が少なくなるのは問題です」(中山先生)

骨量アップにはカルシウムだけじゃない! ビタミンDとクエン酸がカギに

中山先生によると、骨を丈夫にするために重要なのは「栄養」と「運動」。ただし、カルシウムを摂取するだけでは不十分だという。

「骨を丈夫にするにはビタミンDが重要です。ビタミンDは日光にあたると皮膚でつくられるため、おこもり生活でも積極的に日光に当たる機会をつくりましょう。また、カルシウムの吸収効率を高めることも重要です。レモンに含まれるクエン酸はカルシウムの吸収効率をアップさせることがわかっています」

カルシウムは吸収しにくいミネラルで、カルシウムを豊富に含む牛乳でも吸収率は50%程度、小魚は30%程度にとどまる。レモン果汁に含まれるクエン酸はカルシウムをキレート(溶けやすい形に変えること)して、腸からの吸収を促す(※1)。実際、レモン果汁とカルシウムを含む食品の摂取で、骨密度が改善されることがわかっている(※2)

※1堂本時夫「レモンの健康効果に関する研究の動向」より 
※2ポッカサッポロ「広島県大崎上島町におけるレモン長期観察介入研究」より

小魚料理にレモン果汁をかけたり、牛乳と混ぜてラッシーにしたりなど、カルシウムを含む食品と一緒に摂ると効果的だ。

適度な骨への刺激運動で、骨密度を高めよう

骨密度を高めるには、骨に適度な負荷をかける運動も取り入れたい。骨は運動の刺激を受けると、骨にカルシウムが沈着しやすくなり、骨をつくる骨芽細胞の働きが活発になる。普段から骨に刺激をあたえることが大切だ。

室内でもできる簡単で効率的な運動を中山先生に聞いた。

●片足立ち
テーブルなどにつかまり、片足を床につかない程度に、左右1分間ずつ上げてキープ。目を閉じて行うと運動強度が上がるが、転倒しないように注意。左右1分間ずつを1セットとして、1日3セット行う。

片足立ち

●階段の昇り降り
階段の1段目を利用して、踏み台昇降の要領で片足ずつ登って降りるのを繰り返す。背筋を伸ばして行うのがポイント。1分1セットを1日3セット行う。

階段の昇り降り

●なわとび
室内で「エアなわとび」でもOK。1分1セットを1日3セット行う。
●かかと上げ下ろし
両つま先をそろえて真っ直ぐ立ち、かかとを上げ下ろしする運動を10回1セット、1日3回行う。フラつく場合は、壁やイスにつかまって運動してもよい。

「骨の老化なんてまだまだ先のこと」と油断は禁物。ステイホーム中に骨の老化が進んでしまわないよう、骨に刺激を与える適度な運動と骨密度アップの栄養を意識したい。