この春に大学を卒業して社会人となった男女7人を集めて、「理想の上司」について本音で語ってもらいました。司会と解説は、若者の消費動向を追いかけているサイバーエージェント次世代研究所・所長の原田曜平さん。さて、彼らが上司に求めていることとは?

第1回 イマドキ新卒は、高給より定時退社を選ぶ
第2回 新卒ほど緩いおじさん上司と働きたいワケ
第3回 イマドキ新卒は、叱り方にも効率を求める

座談会メンバー
Aさん/横浜市立大学卒、大手機械メーカーに就職。女性
Bさん/明治学院大学卒、外資系アパレルメーカーに就職。女性
Cさん/横浜国立大学卒、大手レジャー業界に就職。女性
Dくん/横浜市立大学卒、大手食品メーカーに就職。男性
Eさん/早稲田大学卒、大手機械メーカーに就職。女性
Fさん/青山学院大学卒、大手機械メーカーに就職。女性
Gくん/青山学院大学卒、大手食品メーカーに就職。男性

とにかく、ほめてほしい!

原田:みんなは、どんな上司が会社にいたら働きやすいと思う?

Gくん:僕はアルバイトのときに怒られるのが本当に嫌いでした。だから、褒めてのばしてくれる上司がいたらいいなと思います。

原田:確かに、僕は日常的に若者たちと接するようになって長いけど、年々、上司から怒られるのが許容できないタイプの若者が増えているように感じています。僕の頃や、10年前くらいまでなら、上司から怒られたら「何くそっ」というエネルギーに転換できるタイプの若者が多かったように思う。だけど、今はもう自分を怒った時点で上司をシャットアウトって感じの若者が増えてきているよね。

ある友達の元プロ野球選手に聞いたら、90年代の強かったヤクルトは、ほとんどの選手が監督にかなり怒られて、「ぶっ殺してやる!」って反骨精神をモチベーションにして優勝していたようだけど、今の若者たちは、「反骨精神」がモチベーションにならない子が多いものね。

僕も日々若者と接する中で、ここ数年は、若者を怒らないようにしています。怒っても彼らを成長させることができないと実感しているから。ただし、だからと言って完全にお友達関係になってしまうと、どんな若者も絶対に緩んじゃう。

だから、僕は「厳しく楽しむ」をうちの研究所の若者に口酸っぱくなるほど言っています。絶対に若者を感情的に怒りはしない。でも、若者を成長させるために、お友達関係にはならない。絶対になってはいけない。あくまで楽しいムードを築きつつも、でも、一生懸命やらないといけないという暗黙の圧力はかけます。

また、彼らが間違った場合、決して怒りはしないけど、彼らへの指摘の手は緩めない。感情的にではなく、理性的・論理的に、あくまで彼らの成長のために、ということが伝わるようにします。

でもさ、Gくんは褒めてくれって主張しているけど、もしその上司から見てGくんに褒めるところがなかったらどうするの?(笑)

Gくん:探してほしい……。仕事の面じゃなくても、「そのスーツいいね」「似合ってる」とか言ってもらえたら、少し残業してもいいかなと思います。2分ぐらいなら。

原田:たったの2分かい(笑)! でも、今の日本の中高年の男性上司は、女性を褒めることも苦手な人が多いし、まして若者を褒めることなんて超下手な人が多いだろうから、中高年の管理職男性には「褒める研修」なんかを会社は提供したほうがいいかもね。確かに僕も日々、基本的には褒めて、でも、今日はこの点を修正させる、というバランスを意識しながら若者と接しています。

あと、必ずしも仕事を褒められなくてもいいんだ? 僕が若い頃だったら、自分の仕事に自信がない時に、仕事について褒めて貰ったら嬉しかっただろうけど、「(お前、仕事は本当にダメだけど)スーツ(だけ)は良いよね」と言われたら、逆に落ち込んでしまっていたと思うけどなあ。だって、あくまで「仕事」ができるようになりたい、って自分では思っているのに、その「仕事」についての評価は得られていないわけだから。

まあ、怒られるよりは、どんな部分であれ褒めてくれる上司に対して「ついていこう」と思えてモチベーションが高まるタイプの若者が増えているのかな。とくに日本の男性の管理職は褒めるのが苦手だから、部下を成長させるのが大変な時代に入ったね。

Bさん:私の学生時代のアルバイト先に、みんなを和やかにしてくれる社員さんがいました。誰かのミスや短所を、「何やってんだよ」って明るい雰囲気に持っていくのが上手なんです。会社にも、そういう上司がいたらいいなと思いますね。

原田:ミスを怒るのもダメ。まして、皆の前で怒るのはもっとダメ。上司のコミュニケーション能力をフル活用し、ミスした人を傷つかせないような雰囲気作りまでしないといけない。今の時代に上司が求められるものがあまりに多くなっている気もする。日本は超人手不足の「若者が強者」の時代になっているので、上司自身も昭和・平成型からバージョンアップしていくことが急務になっているんだろうね。

グチも話してくれる人間味のある人がいい

Cさん:私のアルバイト先には、いつも機嫌が悪い店長がいました。態度も怖くて、「私、怒られてるのかな?」って、店長と接するたびにびくびくしていて。だから、機嫌が良くて明るい上司が職場にいてくれたらいいです。仲良くなったらグチを話してくれるとか、人間味を見せてくれたらなおうれしい。

原田:ずっとグチられるのも絶対にきついと思うけどね。僕は若い頃、上司や先輩たちに毎晩飲みに連れて行かれ、ずっと人の悪口を聞かされていた時代があったんだけど、今から考えると本当にしんどかったなあ。だから、本当のグチを長々と言うのではなく、時に「グチ」というツールを使って、「適度な人間味」を見せられる上司が求められているんだろうね。昭和型上司は、「上司が弱みを見せるのはかっこ悪い、上司らしくない」と思っている人も未だに多いだろうから、むしろ弱みを小出しにしていく術を身につけないといけない。

Fさん:私の理想の上司は、よく笑ってくれる人ですね。

原田:なるほど。まあ、確かによく笑う人は人間として素晴らしいけど、いざ仕事ということを考えると、いつもニコニコしている上司は頼りなくはないんだろうか? 高倉健さんのように、普段は無口なんだけど、本当に困ったらちゃんと助けてくれる、っていうほうが、頼りがいがあるんじゃない?

Fさん:うーん、いつもニコニコしている人にこそついて行きたいって思います。

原田:日本の中年男性は笑顔を作るのが本当に下手。実は僕も、皆で写真を撮る時に、笑顔を作ることが、ついこの間までできなかった。テレビに出るようになって数年たち、ようやく笑顔が作れるようになっていったんだ。

もし若手社員の心を掴みたいのであれば、背中で語るタイプの昭和・平成型の上司は、即刻考えを改め、褒めたり、適度なグチを言ったり、笑顔を作ったり、対若者コミュニケーション法を研究し、取り入れないといけないね。

他の人は、褒められたり、怒られたりすることについて、どう?

アフターフォローや解決策の提示が欲しい

Bさん:私も断然褒められて伸びるタイプです。もし怒られたとしても、「次は気を付けてね」って優しくアフターケアの言葉をかけてほしい。そうすれば、自分も素直に反省してから「よし、頑張ろう」って次へのモチベーションにつなげることができます。

原田:優しくアフターケアまでされたら、反省しないで忘れてしまわないかな? やっぱり、人間って叱られるのは嫌だから、「二度としないようにしよう」って思うんじゃないの?

Bさん:ミスをしたときって、自分が一番よく分かっていて、自分が一番落ち込んでいると思うんです。そんな時にアフターケアをされたら、「次は本当に気を付けよう」ってなりますね。

原田:人間は必ずミスをしてしまうものだけど、叱って傷つけて覚えさせるのではなく、褒めて感謝させて教えないといけないんだね。性悪説より性善説ってことかな。

Aさん:私は、怒るときは怒ってほしいです。怒られないと、逆に「期待されていないのかな?」と感じちゃう。ただ、怒った後はすぐ切り替えてくれて、引きずらない人がいいです。

Fさん:うんうん、怒るべきときはちゃんと怒ってほしい。理不尽な怒り方はイヤですけど。

Gくん:感情的に怒られたら、委縮して他のところでもミスをしてしまいそうなので、僕は怒られるよりも指摘がいいです。

Dくん:僕は、怒るなら論理的に伝えてほしいですね。何がいけなくて、どう直すべきか、というところまで提示してほしい。

原田:意外と怒って欲しいタイプの若者たちもまだ残存はしているんだけど、皆、上司の怒り方には注文があるんだね。昔だったら上司の怒り方に注文をつけるなんて「100年早い」と言われていただろうけど(笑)。

短時間で怒る、引きずらないで怒る、理不尽な怒り方はダメ、怒るより指摘、怒るより論理的に説明……こんなにたくさんのことを考えながら怒ることはきっと多くの人には不可能なので、上司は絶対に若手を怒ってはいけない、と覚えた方が楽かもしれないね。

「ぶつかってこいよ!」という熱血上司は必要ない

原田:「背中を見て学べ。そして、自分で考えろ」というのが昭和型の指導だったと思うけど、上司には具体的な解決策まできちんと提示してほしい?

Dくん:はい、上司が提示してくれた方針でいくのか、自分にとってよりよい方法があるのか、自分で考えたいです。選択肢が二つあったほうが効率も質も高められる可能性があると思います。きっと上司も新人の頃に同じような失敗をしていると思うので、もっと僕たちに近道させて欲しい。

Cさん:私も同感です。解決策まで提示してくれないと、また同じミスをしてしまうかもしれない。「あえて教えない」っていうのは全く意味が分からないし、お互いに良いことが一切ないと思います。

Aさん:そうそう。私たちの世代は、理不尽からは絶対に逃げます。戦闘意欲もあまりない人が多いし、とにかく衝突もケンカもしたくない。

原田:衝突もケンカもしたくないけど、理不尽な怒りには従わないのが君ら世代なんだね。「とにかくもう学校や家には帰りたくない」と尾崎豊は歌ったけど、君たちは「とにかくもう衝突もケンカもしたくない」になっている。尾崎もびっくりだね。

とにかく熱い上司で、「ぶつかって来いよ!」みたいな人はどう?

Aさん:ぶつかる必要ってあるのかな、と思ってしまいます。何の意味があるんですか? ぶつかって生まれるものってあるんですか? 怒られた理由を自分で考えてこいとかいうのも、全く効率的じゃない。効率的じゃないことって、超かっこ悪いと感じますね。

プライベートな話はウエルカム

原田:なるほど。理不尽でなければ怒られてもいいけど、同時にきちんとした解決策も提示してほしいわけだね。昔だったら、「見て学べないやつが悪い」で済んだけれど、今は上司に高いプレゼンテーション能力が求められる時代になっている。やっぱり、高倉健型の無口な上司じゃダメなのかなあ?

Gくん:良好な関係は絶対に築けないと思います。どう接していいか分からなくなっちゃう。

原田:先程はグチの話が出たけど、上司とプライベートな話をするのはどう?

Gくん:大歓迎です。仕事に関係ない話だとしても、聞いたら興味が湧くかもしれませんし。

Aさん:私も、無口な人よりも、積極的にコミュニケーションを取ってもらえるほうが嬉しい。どちらかというと受け身なので、話しかけてほしいです。

原田:おじさんやおばさんに興味のない話を延々とされてもいいの? 私の仕事に関係ないって思わない? 僕の同期は毎日上司に食事に誘われ、その席でずっと娘の自慢話をされて本当に嫌がっていたけどな。

Aさん:それはないですね。例えば、自分の娘の話をずーっとされたとしても、もし自分の親が職場で自分の話をしてくれていたら……と思うと嬉しいので。

原田:じゃあ、上司から「恋人はいるの?」とか、プライベートなことを聞かれるのはどう?

Dくん:僕は気にしないです。逆にコミュニケーションが取れないほうがイヤですね。

原田:恐らく先程のグチによる「人間味」という話と同じだと思うんだけど、今時の上司には「ほど良い人間味」を意図的に使うスキルが求められているんだね。

プライベートより会社の飲み会を優先することはない

原田:会社の飲み会についてはどうだろう。いろいろな意識調査を見ると、やっぱり、会社の飲みには行きたくないって若者が、年々増えてきているようなんだけど。自分のプライベートな予定と、会社の飲み会を天秤にかけて、会社の飲み会を選んでもいいという人はどのぐらいいる?

一同:それは無いですね。

Aさん:月1ぐらいの頻度で、予定のない日という条件なら、飲みに行ってもいいです。

原田:まるで上司が若手社員に飲みに連れて行って頂いているような言い方だね(笑)。じゃあ、低い頻度で、自分の予定のない日に会社の飲み会が設定されたとして、どんな会社の飲み会が理想かな?

Gくん:楽しい飲み会! 普段から上司と仲が良ければ飲みに行きたいです。普段、業務上必要な話しかしてなくて、怒られてばっかりで……という人との飲み会には絶対に行きたくないので、断ります。

原田:そこで打ち解けるって可能性もあるとは思うんだけど、もう怒る人自体、シャットアウトしちゃうんだね。

Aさん:上座や下座などの席の位置を気にするとか、お酌をしなくちゃいけないとか、マナーに縛られる飲み会は絶対に行きたくありません。自分が食べるものは自分で取り分けてほしい。逆に、無礼講を強いてくる上司の飲み会も遠慮したいです。「俺は無礼講でいいから」っていきなり距離を縮められても戸惑います。

原田:「たまに」「適度な距離を保って」飲みましょうってことなんだろうね。昔は部下が上司に気を遣っていたけど、これからは完全に上司が部下に気を遣わないといけない時代に突入するかもしれない。

飲み会じゃなくてカフェで十分

Dくん:僕はお酒があまり飲めないので、飲み会で均等に割り勘をされると納得いきません。会社が払ってくれるとか、上司が僕の悩みを聞いてくれるとかなら、飲み会に行く可能性はあります。でも、一方的に相手の話をされて、最後に「均等に割り勘ね」ってなったら、ちょっとイヤですね。お酒が弱い人もいるってことを分かってほしい。

原田:僕が新入社員の頃は、上司や先輩に奢ってもらうことがまだギリギリ多かった。きっとまだ会社の経費も残っていたんだろうし、仮に経費で落とせなくても、上司や先輩に見栄が残っていたのかもしれない。でも、平成の間に会社の経費も削られ、上司や先輩の見栄もどこかへいってしまったのか、会社内飲み会でも下手をすると割り勘、良くても年齢順に傾斜が付けられてお金を徴収される会がきっと増えているよね。ただ、君ら世代はそれに納得できない。なんで自分でお金も払って、おじさんやおばさんに気を遣って、かつ、グチや昔の武勇伝を聞くなんて耐えられない、って感覚になってきているんだろうね。冷静に見ると君らのその感覚の方がグローバルスタンダードであり、当たり前の感覚なのかもしれない。でも、上司や先輩もそこまで言われたら気の毒な感じがするけどね。

Aさん:仕事終わりに近くのカフェでご飯を食べて帰るっていうのが一番いいんじゃないですか? カフェでも話はできますし、だらだら飲むよりお金もかからないし、サクッと帰りやすいです。飲み会だと、「これ二次会もあるのかなぁ?」って考えてしまったりして面倒臭いです。

原田:お酒離れしている若者たちからすると、会社の飲み会代わりのコミュニケーションをカフェでやることに抵抗がない。むしろそっちのほうが良くなっているのかもしれないね。

でもさ、口下手な上司だと、お酒を飲んだほうが話しやすいっていう人もいると思うんだよね、特に日本男性は。

Aさん:わかりますけど……お酒が無くても話せる人がいいです。

原田:「お酒は人間関係の潤滑油」っていう発想自体を昭和・平成型の上司・先輩達は捨て去らないといけないね。

Gくん:僕は、お酒を飲まないとできない話もあると思うし、お酒を飲んだほうが仲良くなると思いますよ。でも、マナーを気にしたり、お酌をしたりはイヤです。

原田:「潤滑油ではある」と思うタイプの若者も残っているけど、上が上下関係を示す場であってはならない、ということだね。後輩や部下に逆に気を遣って飲みに行くのも、なんだか世知辛い気もするけど、今の時代は仕方ない面もあるのかな。

「脱ゆとり世代」元年の特徴はバランスのよさ

原田:絵に描いたような「いかにもゆとり世代」といった回答が続きましたが、実は今年の新入社員はもうゆとり世代ではありません。第一次安倍政権時代にゆとり教育を見直した後の「脱ゆとり世代」なんです。

だから、上司や先輩の皆さんは、「これだからゆとり世代は困る」といった長く使われてきた今時の若者を揶揄するキーワードは今年からもう使えません。とはいえ、彼らの話を聞いていると、たった1年で世代が大きく変わるわけではなく、ゆとり感がところどころにちりばめられていました(笑)。

私が今年の新入社員あたりの「脱ゆとり世代」に関して思うのは、彼らは確かにガツガツはしていないけれど激しくサボったりもしないということです。

残業するのは極力イヤだけど、他人から文句を言われるようなサボりはしたくない。

そして、彼らに熱血根性論は全く通用しなくなっています。どんなに面白いと感じる仕事を任せても「いやいや、やりがいある仕事よりも家に早く帰ってプライベートで楽しみたい」と考えるタイプの若者が増えていることは事実だと思います。

ワークライフバランス重視で、仕事とプライベートのバランスをとりたい世代と言うことができそうです。

昭和・平成型上司と令和型部下の間に立つ世代

原田:プレジデントウーマンのコアな読者世代は、「エネルギーこそ若者のすべてだ」「若いころの苦労は買ってでもせよ」といった発想を根強くもつバブル世代・新人類世代の上司と、新しく入ってくるバランス型の脱ゆとり世代の間に立たされることになる人が多いことでしょう。昭和・平成型上司の気持ちもわかるし、脱ゆとり世代の気持ちもわかる、ちょうど狭間の世代と言うことができるかもしれません。

だからこそ、脱ゆとり世代が職場で活躍できるかどうか、適応できるかどうかのキーマンであるともいえます。

決して若者のニーズを迎合してそのまま受け入れる必要はないと思いますが、この連載でわかった脱ゆとり世代の感覚や考え方を知り、そのうえで彼らをどう成長させるのか、きちんと考えていくことが大切だと思います。