うわべだけの女性活躍は意味がない。本質的な女性活躍推進とは、女性が長く働けるだけでなく、意思決定の場にも参画すること。KDDIでは、社長が感じた“女性リーダーの不在”という危機感から、女性活躍推進が急速に進んだ。
コミュニケーション本部 宣伝部 部長 矢野絹子さん

社長の本気をカタチに変えるには?

●女性のライン長がほとんどいない!

女性はライフイベントに合わせ働き方を変えたい!

●キャリアを継続しやすい仕組みがなかった!

企業理念となる「フィロソフィー」のなかにダイバーシティ基本項目が組み込まれているKDDI。いくつもの企業が吸収合併され誕生した同社では、それまで異なる組織で働いてきた者同士が共に働く。しかしながら、女性の管理職が育っていないことに社長自ら危機感を抱いたことにより、ダイバーシティ専門組織(現ダイバーシティ推進室)が誕生することになる。

KDDIでは、2005年より育児と仕事の両立支援といった女性活躍推進のための取り組みはしていたものの、当時は思うような成果を出せなかった。

しかし、08年にダイバーシティ推進室が発足したことを皮切りに、まずは育児と仕事の両立支援が大きく前進。実際に女性たちが活用できる仕組みをつくろうと、育休からの復帰率95%を定着させるなど、ボトムアップによる活動へと転換を始めたのだった。女性リーダーが育っていないことを懸念した田中孝司社長が、あらためてダイバーシティ推進にテコ入れを行った。

15年よりダイバーシティ推進室長を務める間瀬英世さんによると、女性活躍推進はここ数年で飛躍的に伸びているそうだ。

具体的には12年、リーダー層への女性登用が急務だと気付き、15年度末までに90人の女性リーダー(ライン長)を目標に設定し、実現させた。さらに16年度から20年度末までには、女性リーダー200人到達を目標として掲げる。

ところが当事者である女性社員たちはというと、やり甲斐のある仕事は求めるが、部長クラスの重責を負うことに不安を感じ、躊躇したり、結婚や妊娠、出産のタイミングとのバランスに悩んだりする人も少なくなかった。ロールモデルの不在に、先が見えない人も多いようだった。

そこで、2016年度から女性社員たちがキャリアを継続しやすい仕組みづくりとして女性ライン長プログラム(JLP)制度を設け、若手社員育成からグループリーダー、部長、役員まで、各フェーズでの育成プログラムをスタートした。ここでは、あらかじめ将来の部長候補、役員候補を選定し、社内外の研修のほか、部長登用に関しては、「スポンサー制度」を導入し、本部長クラスの人が部長候補の数人をバックアップ。アドバイスをするなど上から引き上げる環境をつくった。

ライフイベントを迎える前の若手社員についても、今後のキャリアを描けるようなプログラムが用意されている。

そのひとつの取り組みが7社合同プロジェクト「新世代エイジョカレッジ(以下エイカレ)」だ。2016年、育児休暇から復帰した法人向けソリューション営業本部の小林千芳さんは、第1子妊娠中にエイカレに参加した。

「妊娠中に参加できて本当に良かったですね。プログラム自体もそうですが、同じような不安や悩みを抱える女性たちに出会えたことも大きかったですね。先の不安が払拭(ふっしょく)でき、大丈夫だなという気持ちで産休に入れたことが、復帰の際の自信にもつながっています」

<Action>段階に応じて育成のアプローチが変化
<主な取り組み例>

▼マインドセット研修
身近なロールモデルの不在などから、管理職になることへの不安を感じる社員に向けての意識啓発研修を年1回、社内で実施。
▼新世代エイジョカレッジ
「営業で女性がさらに活躍するための提言」に向け異業種7社で構成された、女性営業職のための異業種合同プロジェクト。
▼役員補佐
社長を含む5人の役員の補佐役に、男女1人ずつが就く。会議サポートのほか、経営者目線で会社を捉えるといった経験も積む。

役員の補佐を体験! 経営の仕事を目の当たりに

さらに上を目指す人のために、11年から導入された、幹部候補育成のためのプログラム「役員補佐」制度。社長を含めた5人の役員それぞれの補佐に、男女1人ずつが就く仕組みである。

役員補佐の仕事は大きく2つ。ひとつは役員のサポート。会議資料を読み込み、役員にポイントを伝えたり、会議後のフォローをしたりする。もうひとつは役員と行動を共にすること。それにより会社の経営基盤を学ぶことが求められるのだ。

auの人気CM、桃太郎・金太郎・浦島太郎の「三太郎」を手がけたコミュニケーション本部・宣伝部長の矢野絹子さんは、社長補佐第1期生で、1年半の任期を務めた。矢野さんは当時をこう振り返る。

「就任当初は、1期生ということもあり、何をしたらいいのかわからず混乱ばかりでした。次第に慣れ、経営に近い場所で全社を見回してみたときに、これまで自分は会社のなかの、ある一部分の仕事だけをこなしていたことに気付いたんです。視野の狭さを知ったと同時に、会社の大きさを痛感しました。考えるにせよ、判断するにせよ、視点を高くしようと思いました。また、組織を統括することの難しさ、組織をマネジメントするには強い思いが必要なのだということ。社長補佐の経験は、現在の宣伝の仕事にも大きく役立っています」

<Achievement>女性ライン長は2020年度で200人! キャリアアップ女子が着実に増加!

ここ数年で、会社側も女性の意識も大きく変化したKDDI。今後は女性が長く働ける環境を整え、意思決定の場にも女性を増やしていく方針だ。

「私自身はトップバッターだとは思っていません。道を切り拓く女性たちがいて、先輩の方々が道をつくってくれたからこそ、今の女性活躍があると思っています」

矢野さんは力強くそう言った。