東京は都知事選で盛り上がっていますが、今回は選挙ではない「落下傘」の話を。あなたの周りには「落下傘上司」がいませんか?

選挙は終わりましたが(東京を除く)、落下傘の話を少しだけ

「落下傘候補」という言葉をご存知の方も多いと思います。原稿を書きながらパソコン内蔵の辞書で調べてみると「俗に、支持基盤のない選挙区に立候補する候補者」とされています。

血縁や地縁などのゆかりのない土地から出馬する、いわば、空から降ってきた候補者のことを指しているのですが、最近、落下傘候補ならぬ、「落下傘管理職」が増えていることに皆さんお気付きでしょうか。

かつては成長途中の企業が、組織が大きくなるスピードに対して、人材育成が間に合わず、結果として管理職を人材市場からハンティングすることで、そのポジションに就けるタイプの落下傘管理職は多くいました。いまでも、以前の同僚が、気付いたら急激に伸びている同業他社で管理職になっていたという話を聞くことは、少なくないと思います。ただ今回は、それとはまったく別のタイプの落下傘。

以前にも書きましたが、政府は女性の活躍を推進するために、企業に対して役員や管理職における女性の比率をこの水準まで高めるようにと、具体的な数字を出して目標を設定しました。

その結果、成長途中ではない、むしろ一定の歴史がある企業ですら、そのポジションへ就けるにふさわしい人材を見つけることができず、結果的に『よそから調達してくる』必要に迫られてしまった。その結果が落下傘管理職です。新聞などで報道されている記事を丹念に見ていると、「どうしてこの人がここの役員になったのかな?」という情報が意外に多い。

今回は、上記のような例ほどは有名ではないけれど、自社の人材不足のために、急に空から降ってきた落下傘管理職と、どう折り合いをつけるのかという話を、キャリアの曲がり角にいる皆さんの立場になって、一緒に考えてみたいと思います。落下傘の彼女たちって、意外に面倒ですよね。

最初にナメられないようにガツンといく、という習慣?

ニュースになるくらい鳴り物入りで自社に迎え入れられるほどの大物ではなくても、あなたの周りに、落下傘管理職は意外にいるはずです。

特に、いままでは女性を管理職にするという意識を持って企業が人材育成をしてこなかったツケをここで払うために、言い方は悪いですが“数字合わせ”的な管理職が現れるというケースが増えるはずです。

こう書くとネガティブに聞こえますが、請われてそのポジションに就けるほどの人物です。一定の能力は持っているのは当然。違う組織から一人でやってきて、別の組織のリーダーになろうとするのですから、様々な形で、自分のカラーを出して、存在感を示そうとするというシーンは少なくない。

企業文化が似通ったところからの転職ならまだしも、まったく違った風土からやってきた人の場合、なにかと衝突しがちなものです。自分流を押し出す上司なら、ここで「最初にナメられないようしないと」と思ってガツンといくかもしれません(と書いていますが、それほどあからさまな人は、もはや少数派のような気もしています。今は「こっそり仕掛ける」程度の人が多いでしょう)。部下としての皆さんは、戸惑うと同時に、これからの仕事に影響が出るなと、憂慮することも多くなるでしょう。

さて、このとき皆さんが取るべき行動は、どういったものでしょうか。本コラムの読者の皆さんが、タイトル通り「キャリアの曲がり角」に差し掛かっているとしたら、やることは1つです。落下傘管理職である彼女をしっかりと支えて、彼女から一つでも多くのことを学ぶこと。

理由はとてもシンプルです。いま軋轢(あつれき)を起こしている彼女のポジションに、その次にあなたがつく可能性もあるわけです。そして彼女がわざわざよそからやってきたということは「今のあなたには、そのポジションに座る能力がない」と企業が判断していることを意味します。あなたは空から降ってきた落下傘上司と、自分との違いを見つけ出し、いち早く吸収するしかありません。さらに、孤軍奮闘している彼女の味方になることで、組織内での環境が十分に整備される可能性は高い。殺伐としてしまった空気を変えることができれば、あなたへの信頼も高まるというものです。

自分もどこかの落下傘管理職になる。その可能性も視野に入れる

さて、今までは落下傘管理職を受け入れる、そして、その組織の中で自分自身が成長するというキャリアを想定して話を進めてきました。しかし、実際には違うストーリーも考えられます。例えば、その組織の中では、皆さんは管理職のポストに就けないかもしれない。もしくは、就けたとしても頭打ちで、一定のポストよりも上は望めないかもしれない。

けれども「自分としては、いまよりももっと上を目指したい!」と思うのなら、やれることは限られますよね。自分自身がどこかの落下傘管理職になる、つまりはそう、転職です。その可能性も常に視野に入れておく必要があるでしょう。皆さんの多くは、多くの経験を積んでいて、その経験は別のどこかの企業が喉から手が出るほど欲しがるものかもしれないのですから。

いつかそうなる日が来ると想定して準備を進めておくのと、まったく考えないで日々を過ごすのとは、雲泥の差があります。実際、落下傘管理職を探さなくてはならない状態に企業が陥っていまっているのを見れば、あれだけ「人材育成が~」と声高に叫んでいてもなお、準備不足で、結果として困っていることが分かります。

社会人歴が長くなると、新しいことはできないと思ってしまったり、現状の延長線上でしか未来予想図を描けないと考えたりすることが、少なくありません。けれども、いままでの経験があるからこそ、新しいことにチャレンジできたり、思いもよらなかった未来予想図が描けたりするという視点を、ベテラン社会人の私たちは忘れてしまいがちです。目の前で一人シャカリキになっている落下傘管理職を「面倒だなぁ」と思わずに、しっかりと向き合ってサポートする。そうすることで、新しい自分を見つけるキッカケになるかもしれませんよ。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。