「自分の力を、上司にちゃんと評価してもらえていない」、そんなふうに感じたことがある人も多いのではないでしょうか。なぜこのような現象が起こるのでしょうか。また実力以下の評価をされないためには、どのように対策をとればよいのでしょうか。

上司はあなたを正しく評価できない、としたら?

仕事柄、企業の従業員に対する評価の仕組みについて検証をしたり、コンサルティングを行ったりする機会が多いのですが、その中で思い知らされることの一つに、人は人を正しく評価できないという現実があります。

例えば、その職場にいる誰もが「あの人は仕事ができる」と評価し、当の本人も自分は仕事ができると自負しているにもかかわらず、実際に精査してみると、仕事もイマイチ、かつ、スキルもそれほど高くないという結果に終わる──そんなケースは、どこの組織にでもゴロゴロ転がっています。

また、逆に誰もが「あの人はパッとしない」と、仕事ぶりを認めておらず、本人も自信が持てないと自己評価しているのに、実は高いパフォーマンスと素晴らしいスキルを持っていたというケースも枚挙に暇がありません。

「仕事ができないのなら、周囲も気がついて、評価を下げるだろうし、仕事そのものが上手くいかなくて立ち往生するはずだ」という声が聞こえてきそうですが、小さな組織ならともかく、大きな企業だと、個々の失敗やマイナスは、それ以外の人たち、つまり組織全体で吸収して、リカバリーしてしまうのです。

だから、と言ってしまうと語弊がありますが、少し脇道にそれた話をすると、一定規模以上の組織になってしまうと、個人の能力を精密に測定する仕組みを導入するよりも、組織全体が健全さを失っていないかを評価する方が、よりコストパフォーマンスに優れているという結果になるようです。と、余談はこのくらいにして。

他人は自分の仕事ぶりを正しく評価できないということは、自分の能力以上の評価を受ける可能性がある、と同時に、過小評価を受ける危険性もはらんでいるということです。そうしたときに、どう振る舞えばよいのでしょうか。

「上司からの評価が低い。まさか、上司は自分がどんな仕事をやっているか知らないのではないか?」という疑念を抱いたことはありませんか。

良く見られるために、あなたがすべきことは何か

人を評価する。皆さんも日々経験しているはずです。管理職の人なら、査定の際に部下を評価していることでしょう。さて、その際に、相手のどこを見て評価していますか?

当たり前のことを聞くなとお叱りの声が飛んできそうですが、日々の業績であったり、その期間に得たスキルだったり目に見える、つまりデータや数字、事実などで可視化された部分を中心に見ていることでしょう。ただ、それだけで評価しているという人はいないはずです。日々の勤務態度や周囲への影響、仕事への姿勢などの、数字や事実などで可視化されにくい、言うなれば評価の仕方によってはバラツキが出てしまう物差しでも評価しているはずです。

こう書くとピンと来る人も多いと思いますが、人によってまちまちになってしまう、曖昧なメジャーで測っているということは、例えば、好き嫌いのような要素で、恣意性が出てしまうということを意味します。自分はそういうことをしないのだと声高らかに宣言したとしても、あなたを評価する人が好き嫌いばかりで判断してしまう人なら、目も当てられない結果が待っているのです。

そういうことが起こらない仕組みを作るべきだという正論はもっともな話なのですが、それはここでは述べません。大切なことは、もっとすぐに皆さんが取るべき、現実的、かつ、即効性のある対応は何かを、きちんと理解しておくことです。それは“良く見られる”ように振る舞うこと。ただこれだけです。

“ヨクミエルヒトハヨクミエル”という呪文の意味は?

私自身の著書などにも何度か書いているので、ご存じの方もいるかもしれませんが“ヨクミエルヒトハヨクミエル”という呪文を、ぜひ覚えておいてください。人を評価した経験があれば、このことに気が付いているはずです。よく分からない人の評価は難しいと。

そう、知っている人については細かく評価できるけれども、よく知らない人は曖昧な評価しかできない、という当たり前のことです。しかも、曖昧な評価の多くはプラスともマイナスともつかないような評価、人によっては若干ネガティブな評価にとどめておくのが、評価者として心理的にも楽なので(経験のある人はよく分かると思います)そうしてしまいがちなものです。ある程度仕事ができるにもかかわらず結果として評価が低いという人は、周囲に自らの存在を知られていない、もしくはどんな仕事をやっているのかあまり理解されていない、というタイプが多いのです。

それを防ぐためには、まず自らを“よく見える”ポジションに置くことから始めてください。遠慮は無用。例えば、周囲に取り組んでいる仕事の話をする。自慢話をしろと言っているわけではありません。例えば、上司や同僚に上手に相談を持ちかけて、そのアドバイスを受けることも、実は立派なプレゼンテーションのテクニック。声高に叫ぶのではなく、日々の仕組みの中で、自らの存在感をアピールするポイントはたくさん転がっています。その機会を積極的に活用すべきなのです。

「自分はアピールするタイプじゃない」という人もいるでしょう。しかし、そうやってぼやく人の多くは、周囲から見たら、何をしているのかイマイチよく分からない、存在感の薄い、あまり役に立っているとは思えない(知らない人なので当然そういう評価になりがちです)人として扱われ、いつまで経っても、価値が組織の中で認められないということになってしまうのです。

評価者として、部下の見えない部分を見る努力を

一方で、プレジデントウーマンオンラインの読者には、管理職として評価する立場にいる人も多いと思います。その場合はまず、自分はあまりよく部下のことが見えていないのだ、という自覚をすることから始めましょう。そして、部下の良さを見つけ出すために、自らが“見通しのよい場所”に移動する努力をしてみてください。

相手の良さを引き出すことは骨が折れます。しかし、部下のコミュニケーションスキルやプレゼンテーションテクニックに頼ってばかりの上司では、先が思いやられます。部下をハッキリと見える場所に移動して、良く見てあげることは、これからの上司の必須能力になるはずですから。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。