働く女性の中で、自分の資料に自信がある人は45%と、悩んでいる人が半数以上――。何事も、上達のコツは上手な人をマネること。“商談を必ず決める”デキる女たちの勝負資料を教えてもらった。

営業先訪問は一発勝負!! チームで作る資料が私に自信をくれる

Google for Work Apps&Cloud営業 宮脇玲子さん/【よく作る資料】顧客への提案資料、営業報告書【私のひと工夫】必ず仲間への感謝の言葉をプラス

クラウド上でドキュメントを共有・編集できるサービス、Google for Workの営業を担当する宮脇玲子さん。顧客への提案資料を作ることが多いが、作成過程は他社とは少し違っている。

「資料を一から作ることって実はあまりないんです。すでにあるものをいかにブラッシュアップし、チームで力を出し合っていいものにするかが勝負」

社内には、旅館スタイルからカフェ風まで様々なワークスペースがある。場所を変えて、資料づくりに集中。

グーグルでは作った資料は全社で公開されているため、まずはそのデータをクラウド上で検索することから始まる。近いものを見つけたら、それを土台に用途や顧客に合わせてアレンジし、すぐにチーム内で共有。それをクラウド上でみんなで手を加え、意見を出し合いながら完成させていくのだ。

「前職では一人で何時間もかけて作った資料が、求められていたものとずれていて失敗したこともありました。今はみんなで共有して作ることで、独りよがりにならず、もっといいものになっているという実感があります」

営業先へは一人で行くことが多いが、そうしてできあがった資料だからこそ自信を持って話ができる。その営業報告書の最後には「○○さんの助言のおかげで、うまくいきました。ありがとうございます」と一言入れるようにしている。チームに支えられているという気持ちがあるから、感謝もまた共有していく。

お客さまの思いをストーリーに変換! 心に残る動画のプレゼンテーション

日本IBM グローバル・ビジネス・サービス事業 トヨタ・グローバル・サービス パートナー 中村祐子さん/【よく作る資料】プレゼン用の動画【私のひと工夫】相手の悩みに合わせたストーリー作り

「この数年でプレゼン資料の作り方は大きく変わってきました」と話すのは、日本IBMの中村祐子さん。顧客のビジネス上の課題解決や成長をITを使って実現する部門で、主に自動車メーカー向けのコンサルテーションなどを担当している。チームを率いる立場にある中村さんは、時には大型案件の受注を決めるような重要局面でのプレゼンの機会も多い。

「ITソリューションというと、難しいシステム用語を並べた提案説明が一般的でした。しかし、お客さまがそのシステムを入れることで日常的にどんなことが変わるのか、もっと理解してもらうことのほうが重要だと私たちは考えるようになりました。そこで、数年前から動画によるストーリー仕立てのプレゼン形式を取り入れました」

とかくプレゼン資料には情報を詰め込みがちだが、資料の説明に終始するあまり肝心の内容が伝わらないことも多い。本当に伝えたいことが、見た人の心に残るプレゼンにするために日本IBMが3年ほど前から導入しているのが「バリュー・ドリブン・プロポーザル(VDP)」という手法。中村さんは導入当時から研修に参加して積極的に取り入れている。自社のシステムでその人の生活にどのような変化をもたらせるのか、イラストや写真を交えたストーリーを動画でプレゼンする。

中村さんがプレゼンするときは重要なコンペなどが多い。入念に練習をして臨む。

「とある中小企業のA社長が、こんなことで悩んでいました……といった顧客の事業に近いストーリーを作ることで、私たちも顧客の悩みをより具体的に理解できます。ストーリー仕立てだと、相手の心にも残りやすく強いプレゼンになるのです」

さらに、提案内容や中長期的な見通しをまとめた図を壁に張り出し、多面的に説明。印象に残りやすい訴求を心がけている。

「プレゼン後に顧客から『おかげで自分たちのビジネスの方向性、やりたいことが整理されてクリアになった』といった反応をもらえることが増えて、これまでより手応えを感じています」

海外セレブから企業まで徹底的に事前調査! 資料からネイルまで相手色に染まります

(写真右から2番目)Samantha Thavasa Japan Limited 上席執行役員 プレスマーケティング部 世永亜実さん。朝と昼にクイックミーティングを実施。立ったままで5分程度で端的に進捗報告。必要なことをまとめて伝えられて効率的だという。/【よく作る資料】手書きのイメージ描きや段取り表【私のひと工夫】プレゼン時はネイルから全部相手色に

「かっちりした資料って、あまり作らないんです」と話す世永亜実さん。女性に人気のファッションブランド、サマンサタバサの上席執行役員を務めながら、20人以上いるプレスチームを統括する。今は自分で作るよりも、新商品のリリースやイベント案内など、部下が作った資料をチェックするほうが多いという。

しかし、資料というのは最低限のもので、重要なのはそれを伝える人のほうだと世永さんは話す。

「相手先で提案するときもリリースなどは持っていっても、紙だけでは伝わらないものが絶対あると思っています。直接会いに行って、商品を見てもらったり、思いを伝えたりすることを大事にしています」

それは相手が大手企業でも大物セレブでも同様だ。サマンサタバサに転職した次の日から、決まったばかりのヒルトン姉妹を起用したプロモーションを担当した。「通訳を通しても仲良くなれない」と交渉から飛行機やホテルの手配まで自分で行い、成功を収めてきた。

「相手がセレブリティーなら何が好きで、どんなファッションに興味があるか、徹底的に調べて臨みます。その人が好きな食べ物を用意して、ネイルからファッションまで相手が喜びそうなスタイルになって出迎える。企業なら担当部署以外の最新ニュースもチェックしてから行く。『相手のことを考えてみて』と伝え続けていたら、スタッフも言われなくてもそうして準備するようになったんです」

だからこそ、ミランダ・カーなど海外セレブの信頼を得られ、帰るときには「素晴らしいチームね」と言ってもらえる関係ができあがっている。

実は、かしこまった資料は最低限でも、手書きの資料は重視している。部下には率先して仕事ができるようになってほしいと、入社1、2年目から段取りのメモやスケジュールの書き方を毎日のようにチェックしてアドバイスする。参考になりそうな切り抜きや仕事相手の連絡先まで、ノート1冊にまとめることで、煩雑になりがちな作業をきっちりと、抜けなく回していく。

「こうして資料を1冊にまとめることで、自分の中に引き出しができるんです。女性はマルチタスクに慣れている分、つい同時並行しすぎて混乱しがち。そんなとき『1個ずつ引き出しを閉めながらやってみて』と話し、ノートを見返してもらう。すると落ち着いて整理できるようになるんです」

彼女にとっての資料とは、自分の中の引き出しであり、経験として蓄積できるもの。そして、その方法を教えることで、次世代の女性たちを育てていくバトンの役割も果たすのだ。

「経験が浅くても、まずは仕事を任せてみます。そうしないと人はのびない。失敗したら一緒に解決すればいい」と部下を見守る。
宮脇玲子
Google for Work Apps&Cloud営業。新卒で外資系IT企業に就職。営業、経営企画を経て、2014年グーグルに転職。国内の顧客向けにGoogle Apps for WorkやChromeデバイスなどを活用した新しい働き方を提案する営業を担当。
中村祐子
日本IBM グローバル・ビジネス・サービス事業 トヨタ・グローバル・サービス パートナー。1989年日本IBM入社。システムエンジニアとして電機業界を担当。93年以降は製造業を中心に業務開発プロジェクトに携わる。現在はアカウントパートナーとして顧客の業務課題解決を支援している。
世永亜実
Samantha Thavasa Japan Limited 上席執行役員 プレスマーケティング部。芸能プロダクションの宣伝を経て、2001年にサマンサタバサに広報として転職。ヒルトン姉妹やミランダー・カーなどの大物セレブを起用したプロモーションを次々担当。