2016年4月に「女性活躍推進法」が施行されたが、女性が産後も“活躍”するためのインフラたる保育園の数が足りず、待機児童問題は解消されていない。そんな「保育園問題」をテーマにして、4人のワーキングマザーに、保活や保育園に対する意見をぶつけてもらった。
富岡さん/物流会社勤務。転勤族だったため、保育園入園が難しく子どもたちは幼稚園へ。10歳、5歳、3歳の3児の母。
伊藤さん/公認会計士。監査法人で勤務するかたわら、個人事務所も経営。9歳と年長の2児の母。
山本さん/金融コンサルを経て起業。育児期の女性をサポートするサービスを幅広く展開。4歳の娘が1人。
※「パワーママプロジェクト」の協力を得て4人の方にご参加いただきました。
「保活で手いっぱい」の状況を一刻も早く改善してください
【富岡】私は2015年に、転勤が多い夫を海外に残して、10歳、5歳、3歳の子ども3人を連れて地元関西に戻り、求職活動をしたんです。でも、「転勤族」で、なおかつ「求職中」の人は絶対に子どもを保育園に入れられない。なぜなら、仕事がない状態では、入園審査の際のポイントが半分くらいになってしまう。また、遠方から次に行く場所の保育園事情を調べるのは大変です。しかも、2人一気に入れるのは至難の業。万が一入れたとしてもギリギリにしか決まらないから、自信を持って求職活動ができない。だから、最初から2人とも保育園は諦めて幼稚園に入れ、延長保育で6時まで見てもらっているんです。
【伊藤】うちは、上の子が9歳で下の子は幼稚園の年長さんです。ちなみに、下の子は3歳まで認証保育所に入れていました。今も幼稚園だけだと時間が足りないので、保育園の一時預かりを併用中。
【内田】私は外資系企業の管理部門にいます。7歳と2歳の娘がいて、下の子は保育園に入れています。
【山本】私は今4歳になる子どもを保育園に入れたとき、金融機関に勤めていました。そのせいか、保活はすごくうまくいきました。
【伊藤】やはり会社員は有利ですもんね。
【山本】ええ、自営業という肩書で役所に行くと、優先順位が下がる自治体が多い。フリーランスや自営業者は、家族経営の「八百屋のおばちゃん」と同様にみなされているからなんですね。
【富岡】役所の価値観が古すぎる。
【山本】調べたんですが、現在の保育制度はそれがつくられた60年以上前のものを踏襲しているようです(笑)。2015年4月に制度改正があったとはいえ、ブラッシュアップされていない。
【内田】ちなみに、保育制度はどう改正されたんですか?
【山本】申込書を書く前に保育の必要性認定を受けるプロセスに変わったんです。そんな5秒で説明できることを、役所の資料って実にまどろっこしく書く。だから、お母さんたちは戸惑ってしまう。
【伊藤】同感です。申請書作りは、受け手に対する伝え方が得意な民間に委託してほしい。あと、保育園が配る「しおり」も「何が言いたいねん」みたいなことがつらつら書いてあり、わかりにくいことこのうえない。
【内田】私は最近『保育園義務教育化』っていう本を読んだのですが、ここには良質な乳幼児教育が社会全体の「レベル」をあげることにつながると書かれていました。まったく同感なのですが、振り返ると、私自身、保活でくたびれちゃって「教育」まで頭が回らなかったなと。友人などは、保育園はプログラムがひどいからと子どもを幼稚園に移しました。そのために、時短勤務にし、それでも、お迎えに間に合わず会社を辞めた人も。優秀な人ほど、幼児教育の重要性に気付いていて、保育園の教育に不満なんだと思う。
【伊藤】保育園に関してはサービスの受け手は誰なの? と思うことが多い。子どもではなく親を意識するあまり、お絵描きも親が喜ぶような絵を描かせる園もある。だから、園児の絵はみな一緒。おかしいなと思ってよく見ると、テンプレートをなぞっているだけなの。
【山本】そのほうが、保育がラクだから。統率も取れるので。
【伊藤】保育士さんの待遇が悪いことも影響していると思います。いい教育をしてもらうには、待遇改善は絶対に必要。
【内田】それと、保育園の数の確保は絶対。なのに少子高齢化が進むから保育園の数を増やしすぎないようにしていると聞きます。「え?」と思いますよね。作れば作るほど、入りたい人は増えて、それが女性活躍につながるのに。
【伊藤】まとめると、安倍政権には保育園の数の確保、ポイント制の改革、申請書類の改善、保育士の待遇改善、保育内容の充実を、お願いしたいですね。
日本の保育園問題につきまして、下記により要望いたしますので、宜しくご配意賜りますよう、切にお願い申し上げます。
(1)保育園の数を増やすことに慎重すぎます。いずれ老人ホームなどに使うといった先を見越した計画を立ててもっと積極的に保育園を増やしてください。
(2)申し込みのプロセスが煩雑。民間に委託してはいかがでしょうか。
(3)保活で手いっぱいで、子どもの教育やしつけに頭がまわりません。保育園を義務教育化するなど斬新な案を検討ください。
以上 第8回 座談会参加者 一同
提言:フルスペックの認可保育所を増やすことが大切です
●保育園を考える親の会代表 普光院亜紀さんから
一にも二にも待機児童対策を急いでもらいたいのですが、預けられればどんなところでもいいというわけではありません。
できる限り「ハコモノ」で保育園を増やしてほしい。保育園は単なる親のための託児サービスでなく、子どもが健やかな心と体を育むための場所です。
今、子どもの運動能力や五感、人間関係力の育ちが弱くなっているのは、体を動かしたり、自然とふれあったり、子ども同士で遊ぶという体験が不足しているからにほかなりません。目先の待機児童減らしのために、認可保育所新設がビルの中ばかりになっている自治体もありますが、このままでは、数十年後、あのときの保育施策が間違っていたということにもなりかねません。
当面、急場をしのぐ施策も必要ですが、同時に、園庭のあるフルスペックの認可保育所を増やす努力が必要です。都市部も少子化になったときには、用途転換しやすいしくみにすれば、つくりやすいはずです。
この10年余、設置コストが安い地方単独事業(自治体の助成制度)の認可外ばかりが増えた結果、今、親たちは認可保育所を求めて激しい「保活」を行っているのです。
保育園は、生活の場としての強みを活かした就学前教育の場であり、子どもを貧困から救済する児童福祉施策でもあります。その機能を十分に発揮させ、社会のインフラとして有効活用するためには、施設と同時に人材育成にも投資する必要があります。保育を学んだ人が、一生の仕事として保育士になることを選び、現場で経験を積んでこそ、教育から福祉にわたる幅広く質の高い仕事ができるようになるのです。事業者の心根も重要です。人件費率が低い事業者が増えていますが、保育園を虐待のあった高齢者施設のようにしては、国の将来はありません。