総務省の労働力調査を見て、人手不足をものすごく実感した、というサカタさん。文字通り「人手不足」の今の日本で、企業は優秀な人材を、喉から手が出るくらい欲しています。そう、時間に制約があるワーキングマザーだって、企業から見たら「働いてほしい」はずなのです。

このコラムを愛読いただいている皆さんはご存知と思いますが、いま、国を挙げて「女性を活用(この表現、個人的には好きではありませんが)しよう」と躍起になっています。

それもそのはず。総務省統計局が毎月発表している労働力調査を見ると、なんと完全失業者数はたったの211万人なのです。前年同月に比べ20万人の減少、68か月連続で減少中です。これはあくまで統計上の数字なので、それこそ額面通りには受け取れない部分もあるのですが、雇用者数は5712万人で、前年同月に比べ101万人の増加、そして37か月連続で増加という数字を見れば、ピンと来る人も多いはず。

総務省統計局が毎月発表している労働力調査(2016年2月分)。3月29日に公表されたもの。

人手不足。文字どおり、働いてくれる人が足りなくなる、という日が刻一刻と迫っています。もちろん就きたい仕事になかなか就くことができない、という人も多いですが、一方で「手が足りないから困っている」とあちこちで悲鳴が上がっている状態。高齢者の雇用の促進を視野に入れる一方で、政府も企業もそれ以外の良質な労働力へと目を向けざるをえない状況になっているのです。

「出産後復帰して働き続けるのは難しい」「転職は厳しい」と思っているかもしれません。しかし今は、多くの企業は人手不足に悩んでいるのが現実です。

ワーキングマザーの嘆きを、企業は本音ではどう捉えているか

さて、女性に活躍してほしい、労働力として活用したいと政府も企業も考えているわけですが、そのサポートをしているとはいってもまだまだ充分ではありません。法整備を行い、段階的に働きやすい環境を作っている、いわゆる過渡期だとも考えられます。が、一朝一夕に制度が整うわけでもありませんし、自分にとって都合の良い制度が整うまで待っていられない、という人も多いでしょう。結果的に、当事者の皆さんにとっては、ちょっと足りない、不満が残る状態が続いてしまっているのが、正直なところでしょうか。

ワーキングマザーの支援をする、と言いながらも、当事者の目から見ると「足りない!」と言いたくなる企業が多いのは事実です。

特に先進的だと紹介されるような企業は、斬新な取り組みで、整わない法制度を超える仕組みを用意しています。もちろん、そうすることによって、企業イメージはアップしますし、良質な人材をリクルーティングすることも可能になります。一定以上の投資対効果があると考えているのでしょう。しかし、そういう企業ばかりではない。

形ばかりの制度を用意して、実際には運用させないで放置という企業は論外ですが、多くの企業は法で定められた最低限の仕組みを用意し、その中で働く人たちのサポートをしようと考えています。総務や人事の担当者、または経営者になってみるとよく分かるのですが、働く人たちの環境を整え、支援をするということには、その支援を受ける側が想像する以上に多くの費用がかかっています。なので、支援をせずに済ませようとまでは思いませんが、「最低限のことだけをやって、それ以上はケースバイケースでなんとかしよう」と考えてしまうのも、無理のないところなのです。

ワーキングマザーが企業と上手に会話をする、ちょっとしたコツ

企業はそれほど働く人たちの環境を整える支援に力を入れたがらない。そう書くと「なんだよ、だったらワーキングマザーになんか、なれないではないか」とお叱りの声が聞こえてきそうです。最近大きな話題になっている、保育所の待機児童問題などもそうですが、当事者にとっては「いまの問題」であって、制度が整うのを待っていられないのが実情でしょう。そこで、皆さんは企業の担当者(例えば上司や人事部門の責任者)に以下のように問いかけるはずです。

「うちの会社には、××××(例:在宅ワーク)の仕組みはありますか?」

制度として用意されているものがあれば使いたい、いまの困った状況を解決する仕組みがあれば利用したい、という気持ちで問いかけてみるのですが、企業の担当者からすると、以下のような答えになってしまいます。

「あります」/「ありません」

何を当たり前のことを書いているのだと思われるでしょうが、ここはとても重要なポイント。仕組みや制度が「あるか?」もしくは「ないか?」と問われると、企業の担当者は「ある/ない」で回答します。もし仕組みがなかったら、その時点で終了。たちまち手詰まりになってしまいます。しかし同じ状況でも、違う質問の仕方をするだけで、道が開ける可能性もあるのです。

「どうしてもあなたに働いてほしい」と思われることが大切

「××で困っています。何か解決する方法がないか、一緒に考えてみてもらえないでしょうか?」

経営者や人事担当者たちは、仕組みがないことが理由で人が辞めてしまう、特に有能な人が流失してしまうことは、企業にとってマイナスであることを理解しています。しかし同時に、制度として用意をし、仕組みとして固定してしまうことによって発生するデメリットも、十分に分かっているのです。

そこで、この質問です。「困っていることがあるから一緒に解決してほしい」と企業側に依頼をしてみるのです。そうすることで、彼らも頭をひねって考え始めます。

例えば、皆さんがどうしても手放したくない人材ならば、企業は「その人に限って」という枠組みを用意するかもしれません。組織内で融通をしたり、1回限りの簡易的な仕組みを作ったりするなど、いろいろ手を尽くしてくれるはずです。同様の悩み相談が数多く寄せられるようになれば、仕組みとして恒常的なものにすることを検討するでしょう。当事者である皆さんは、支援をしてもらう仕組みを「ありますか」と問いかけて、企業が用意するのを待っている時間はないはずです。自分だけでも優遇されるための道を、まずは確保すべきでしょう。

もちろん、そのためには上手に交渉する必要がありますし、何より自らが組織に求められる人材になっていなければなりません。しかし裏を返せば、それだけの人材なのにもかかわらず優遇措置を取らない企業があれば、人を見る目がない企業ということですし、優秀な人材なのだから別の場所では引く手数多(あまた)なのだ、移ってもいいと考えるのがベストでしょう。そう、企業は優秀な人材が、喉から手が出るほど欲しいのですから。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。