決算期末を迎える会社が多い3月。黒字か赤字か、その結果によっては「ボーナスの額面が変わることにも……。会社が利益を生み出すための計画を立てる時に重要となるのが損益分岐点。自分で計算して、仕事で実際に使っていけるようになるために必要なたった2つの式とは?

“損益分岐点”を1分で説明すると……

決算期末を迎える会社が多い3月。皆さんがお勤めの会社でも、2015年度の決算期末を迎え、その行方が見えてくる頃かと思います。利益が出ているのか、はたまた、損失を計上してしまっているか……。決算書とは、会社にとっての成績表。その期の取り組みの成否が丸分かりになります。利益によって、ボーナスの額面が変わることだってあります。そう考えれば、社員にとっても、勤め先の決算の行方は気になることのはずです。

よく耳にする“損益分岐点”という言葉。説明できますか? 計算できますか?

売上はさまざまな要因に左右されるから、利益が出るか出ないかは運まかせ……なんてことはありません。会社では必ず利益計画を立てているはずです。今回はその利益計画を立てる際に必要となる「損益分岐点」のお話です。

損益分岐点とは何か。いつものように“意味合い”をつかみ、実務で使えるようにしていきましょう!

損益分岐点とは“収支トントン”ポイントのことだった

まずは1分で解説します。損益分岐点とは、難しそうな言葉ですが、中身はとてもシンプル。読んで字のごとく、「損」と「益(=利益)」を「分岐」する「点」です。つまり損益分岐点売上高は、“収支トントン、利益ゼロだが損もゼロ”となる売上高のことを言います。

……これだけでは、あまりにも短いので話を続けましょう。

そもそも、「損益分岐点」を知ると、どんなよいことがあるのでしょうか。簡単に言うと、以下の2つが挙げられます。

1)確保しなければならない最低売上額が分かる
2)コストを下げ、利益を増やすための判断ができる

例えば営業をしている人は、部門や個人の売上目標が設定されていて、いつも「高過ぎるよ」とうんざりしているかもしれません。しかし、売り上げた金額から経費や原価を引いても利益が出る金額を稼がないと赤字になります。連載第1回「数字が苦手でも、最低限知っておくべき『2つの利益』とは?」でもお伝えしたように、赤字を出し続ければ、会社から確実に現金が減っていき、ひいては事業規模縮小、倒産、ということになりかねません。そうならないためには、1)の「いくら売ればいいのか」という目標がとても大事になるのです。

2)の「コストを下げ、利益を増やす判断ができる」は、数値を知り、それを生かして今後の事業の方針を決めるCheck&Actionを行い、社員の仕事の方法を改善していくために必要です。

損益計算、2つの式ですっきり理解

損益分岐点売上高を知るために必要な式はたった2つだけです。

●1つ目の式:売上=総費用

損益分岐点売上高とは、“損(損失)と益(利益)がトントンで、プラスマイナスゼロになる売上高”でしたね。ですので、この売上高のときには、売上と総費用が同額、つまり売上=総費用という式が成り立ちます。

●2つ目の式:総費用=変動費+固定費

コスト(総費用)を変動費、固定費の2つに分けるというのは、連載の中で初めてお伝えする考え方ですが、これもとてもシンプルな話です。詳しく見ていきましょう。

2種類の費用、変動費と固定費とは?

2つに分けられたコストについて、まずはざっくりとつかみましょう。

●固定費=売上の有無にかかわらず発生する経費
●変動費=売上に伴って変動する経費

ほとんどの費用は「固定費的なもの」になります。人件費、減価償却費、水道光熱費など、「毎月だいたい○○円かかります」というつかみ方をします。皆さんの部署で経理処理をしている領収書やレシート、帳票を思い浮かべてください。こうした費目は固定費になります。損益計算書では、「販売費および一般管理費」の項目内のほとんどが、これに該当します。

対して、変動費というのは売上に比例してかかってくる費用です。「売上に対して何割(何%)かかるか」というつかみ方をします。どの費目が変動費に該当するかは業種によって異なります。例えば、運送業の燃料費は、“売上が上がる=運ぶ距離数が増える”ことになりますから、変動費です。製造業の材料費や梱包費など、小売業であれば仕入原価などが変動費に当たります。

まず売上から、その何割かがかかる変動費を引き、さらに固定費を引いたものが手元に残る“利益”になるのです。ということは、“損と益がトントンでゼロになる売上高”つまり、利益がゼロになるようにするには、固定費と変動費を売上でちょうど賄う必要がある、ということになりますよね。

2つの式、実務で役立てるには?

さて、ここで、最初に説明した2つの式に戻りましょう。

A. 売上=総費用
B. 総費用=変動費+固定費

これらは、“売上=総費用”となる売上が損益分岐点売上高で、総費用は変動、固定の2つの費用の合計で求められますよ、ということを意味する式でした。

この2つの式を使えば、費用に応じた“利益を出すために最低限必要な売上高=損益分岐点売上高”を把握することができます。

損益分岐点の出し方を見ていきましょう。例えば、原材料費や燃料費などの変動費が売上の3割、固定費が毎月70万円かかる事業部があるとしましょう。まず、B.の式、総費用=変動費+固定費に当てはめると、総費用=0.3×損益分岐点売上高+70万円と表せます(変動費は売上高の3割かかるので“0.3×損益分岐点売上高”となります)。

これをA.の式、売上=総費用に当てはめれば、損益分岐点売上高=0.3×損益分岐点売上高+70万円となります。この式が成り立つ売上高ならば、少なくとも赤字にはならない、利益0以上になるはずですよね。。

式の左辺、右辺から、それぞれ「0.3×損益分岐点売上高」を引くと、0.7×損益分岐点売上高=70万円となり、これを計算すると、損益分岐点売上高=100万円となります。

というわけで、この事業部の損益分岐点売上高は100万円/月、ということになります。

数値で語って、ビジネスシーンでの説得力を高める。

前回の「経営が分かる! 管理職になる前に知っておきたい「ROA」とその使い方」で説明した決算書分析もそうでしたが、会計数値は算出するだけでは使っていないのも同然です。

冒頭で述べましたが、損益分岐点売上高を求めることによるメリットとは、次の2つです。

1)確保しなければならない最低売上額が分かる
2)コストを下げ、利益を増やすための判断ができる

例えば、自分たちの部署の損益分岐点売上高について計算してみたら、月に1000万円の売上が必要だと分かったとします。利益を出すには、1000万円よりももっと売り上げるか、1000万円も売れないとなれば利益が出るラインまでコストを切り詰めるか。こうして利益を増やすことができれば、ひいてはボーナスも増えるかもしれません。

損益分岐点売上高は、使える説得ツール

利益を上げるために、売上を上げていく方法を考えてみましょう。売上は単価×数量、あるいは客単価×客数というように“単価×数”に分解することができます。ここで“単価”を上げれば、売上を大幅にアップできる可能性があります。ただし、“単価”を上げた分以上に“数”が減れば、売上は下がってしまいます。このように、“単価”についてはその必要な売上を上げられるか否かという観点からの検討が必要です。

しかし、売上を作れる部署は限られます。そこでもう1つの方法、コスト削減です。コストはどの部署でも減らせます。

コスト削減のためには、コストの「かけ方」を変えなくてはいけません。コスト(総費用)は変動費と固定費に分けられますから、それぞれの減らし方を考えます。「固定費を下げる」、また「変動費の売上に占める割合を減らす」という2つの方法が考えられます。

一般的に変動費は、燃料費や原材料費など、経営者や担当者の力だけでは改善しづらい項目が含まれます。もちろん、仕入原価など、取引先との交渉によって下げる余地のあるものもありますが、それに比べれば、固定費の方が自社内で削減できる場合が多いものです。損益分岐点売上高は、コストのつかみ方のツールとしても覚えておくと、仕事で生かせるシーンが増えます。

「日々の業務のどこを変えるか」ということを理論的に説明する根拠として、こうした数値を使えれば、説得力が違ってきます。「なんとなくここが無駄に思える」「この事業の顧客を増やす必要がある」というように漠然と思いながらも、説明する手立てがなく、そのままにしてしまうということはありませんか。「会社をよくしたい」という思いをそのままにしないためにも、このシンプルな2つの式を使って会社の利益に貢献する提言を積極的に行えるといいですね。

小紫恵美子(こむらさき・えみこ)
株式会社チャレンジ&グロー代表取締役、経営コンサルタント事務所Office COM代表。2児の母。東京大学経済学部卒業後、大手通信会社にて主に法人営業に従事。1998年中小企業診断士取得後、のちに退職。10年間の“ブランク”を経て、独立開業。現在は企業研修講師や中小企業への経営支援、執筆活動を行う。企業研修では会計、ロジカルシンキング等ビジネススキルを伝えるとともに、女性経営者を中心に数値とロジックに基づいた経営の重要性を伝える自主セミナーを展開
最近は、これまでの実績と、自身の大企業勤務→専業主婦→子育てしながら独立開業、という経験を踏まえ、女性の働き方についての執筆や講演に力を入れている。「活き活きと働くオトナが増える社会」を目指して日々活動中。