元IBMのコンサルタント・清水久三子さんによる、プレゼンテーションでの技を解説してきた本連載も、今回が総仕上げ。最終回は、体やアイコンタクトで、聞き手の心をしっかりつかむテクニックを紹介します。この春からはプレゼンテクニックをしっかり身につけて、1ステップ上の自分を目指しませんか?

本連載もいよいよ最終回となりました。最後のレッスンは言葉以上に強いインパクトを与える効果的なジェスチャーとアイコンタクトがテーマです。ジェスチャーなんて恥ずかしい、目を合わせたら緊張してしまう……そんな人でも自然にできるテクニックを紹介します。

外国人のようなジェスチャーは必要ない

日常会話だと手をよく動かしながら話している女性をよく目にしますが、プレゼンテーションとなるとどう動いてよいのか分からず、直立不動になってしまう人が多いようです。また、ジェスチャーというと、芝居がかってしまい不自然に見えそうでちょっと苦手と言う人もいます。

このようにジェスチャーに苦手意識のある人は、手のひらを上に向けて肩をすくめたりするような、外国人特有のものをイメージされているのではないでしょうか? 舞台や映画の俳優・女優ではないので、大袈裟なジェスチャーはビジネスのプレゼンテーションでは不要です。

ただし、前回の「動きのノイズ」で説明したように、直立不動では聞き手の集中力が薄くなってきてしまいます。「ここぞ」という時に、適度な動きや、意味のある動きを取り入れるコツを覚えると、メリハリがつき、伝わりやすいプレゼンテーションになります。では、「どんな動き」を「いつ」したらいいのかを見ていきましょう。

「いつ」「どう動く」か?
5つのジェスチャーポイントを知る

自然にジェスチャーができる人はなかなかいません。「このタイミングでジェスチャーを入れる」というルールを自分の中で決めておくと、自然にジェスチャーを入れられるようになります。ここでは、ジェスチャーを入れやすい5つのポイントを紹介します。

(1)位置
1つ目は、位置です。例えば、投影されたスクリーンに対して、「向かって左側のグラフをご覧ください」と言いながら指し示します。その際には腕を伸ばし、上から振り下ろすようにして大きな動きで指し示しましょう。動きの大きさの範囲は、自分の存在感を感じさせる範囲でもあるからです。他のジェスチャーも同じように、胸から上の部分でできるだけ大きく動かしましょう。指し示す位置が遠い場合には、ゆったりと歩きながらその位置まで行って指すとより注目が集まります。

(2)数、数値
2つ目は数が出てきた時です。例えば「3つの特徴があります」とか、「5倍に成長しました」。数を指で表すのはとても自然に取り入れやすいでしょう。その時も胸から上、顔の横か頭の上くらいまで手を上げましょう。

(3)傾向や動き
3つ目は、グラフなどの傾向を表したり、現象の動きの説明が出てきた時です。例えば、「売り上げは急激な右肩上がりに伸びました」という説明とともに右上に向けて手を動かしたり、肘を曲げ腕の角度で上がっている様子を示すとよいでしょう。他にも「市場は半分の規模に縮小しました」という説明で、手と手の幅を半分に近づけるなど、形容詞や副詞を表現する動きなどは、やりやすいのではないでしょうか。

(4)キーワード
4つ目は、覚えてほしいキーワードを強調するジェスチャーです。本連載の「間(ま)」の回でもご紹介しましたが、滝川クリステルさんの「お・も・て・な・し」のように、キーワードを紹介する場面で、手や指でアクセントをつけるように動かすという動きです。

(5)思い
女性的なジェスチャーとしては、「非常に残念に思っています」と言いながら、手のひらを胸に当てる、男性的なジェスチャーとしては、「全力で支援します。私たちを信頼してください」と言いながら、拳を握るという動きなどがあります。

このように“こんな言葉”が出てきたら、“こういうジェスチャー”をするという組み合わせを覚えておくと、動きを入れやすくなります。ただし、全てにジェスチャーをつけすぎると、せわしないノイズになってしまいますので、「ここぞ」という本当に強調したい時や、説明が単調で聞き手の集中力が途切れてきたような時など、シーンを選んで使うとよいでしょう。

3秒のアイコンタクトで「信頼」が伝わる。では5秒では?

次にアイコンタクトです。アイコンタクトはまず“長さ”の意味を理解してください。図にあるように、相手に「公平に見られている」という意識を持ってもらうためには、1秒以上目が合うことが必要です。1秒以下だと「見ていない。スルーされている」と思われてしまうかもしれません。更に「信頼性」を感じてもらいたい場合には3秒以上、自信を感じてもらうには5秒以上は目を合わせたいところです。

図を拡大
アイコンタクトでは、目が合う秒数に応じて、聞き手に与えるの印象が変わる。視線を配るタイミングも大切な要素だ。

とはいえ、目が合うとドキドキしてしまって緊張が増す、という人が多いのも事実。聞き手もじっと見られると居心地が悪いという思いをする人もいます。そのような場合には、直接目を見るのではなく、相手の鼻から喉元あたりを見るようにすることで、お互い緊張を高めずに、見られているという意識を与えられます。

参加者全体を見渡す

次に、人から人へアイコンタクトを切り替えるタイミングはどうすればよいでしょうか? まず意識していただきたいのは、プレゼンテーションを開始する時です。この時は、緊張しているとは思いますが、必ず参加者全体をしっかりと見渡してください。そして、切り替えのタイミングとしては、だいたい5秒以上で次の人に移り変わるよう意識しましょう。

狭い会場であれば中央、左、右、というふうに切り替えていきます。広い会場で横長の会場であればMの字で、ジグザグに視線を動かしていきます。さらに広い大ホールなどの場合には、会場を自分の中で9つぐらいのブロックに区切って、それらを8の字で見渡すようにしていくと、会場全体の人が「自分は見られている」というふうに認識してくれます。

プレゼンは練習あるのみ!

「ジェスチャー」と「アイコンタクト」、難しいと感じた人もいるかもしれませんね。プレゼンテーション上達のコツは、残念ながら練習あるのみです。「話すのは苦手」と言いながら、練習やリハーサルをしっかり行なわず、ぶっつけで本番を迎えていないでしょうか?

私は、マンツーマンで「プレゼンクリニック」という駆け込み寺的なサービスを提供していますが、たった1時間程度のリハーサルで見違えるように声が出るようになり、自信を持って話せるようになる人が多いのに毎回驚きます。

この連載でお伝えしてきたテクニックもご存知のものも多かったかもしれません。でも「知っていること」と「やってみること」の間には大きな差があります。この連載でご紹介したテクニックが、皆さんの素晴らしい考えをたくさんの方に届けるための一助となれば、本当に嬉しく思います。ありがとうございました。

清水久三子
お茶の水女子大学卒。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、数々の変革プロジェクトをリード。
2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとして5000人のコンサルタント・SEの人材育成を担い、独立。2015年6月にワーク・ライフバランスの実現支援を使命とした会社、オーガナイズ・コンサルティングを設立。延べ3000人のコンサルタント、マーケッターの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。
主な著書に「プロの学び力」「プロの課題設定力」「プロの資料作成力」(東洋経済新報社)、「外資系コンサルタントのインパクト図解術」(中経出版)、「一瞬で伝え、感情を揺さぶる プレゼンテーション」、「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」(KADOKAWA)がある。新刊「ビジュアル 資料作成ハンドブック」(日本経済新聞出版社)は1月16日発売。