エキナカ事業の立ち上げ人として有名な鎌田さん。前例がない新規事業を進めるときの根拠は「面白いから絶対うまくいく」という直観的な定性論。新天地でも新規事業の開拓力を期待される。
開業日が迫る中で、取引先側から間に合わない、と怒りの声が上がったのは開業2週間前の深夜のことだ。
「『あんたたち、この日程で引き渡すと言っただろう。これじゃ、お客さまにきちんとサービスできないから、今からでも出店を取りやめる』と。もう平謝りするしかありませんでした」
鎌田さんと若手メンバーで構成されたチームは体力的にも精神的にも追い詰められた状態だった。
「私も朝7時すぎに出社し、夜中の0時15分の電車で帰る毎日。お風呂につかりながら一瞬寝てしまうこともあるくらいでした」
他のメンバーも同じような生活が続いていたが、音を上げる者はいなかった。
「後から、『あの時は、死にそうだった』と言われましたが、みんなが『この仕事は自分しかできない』と思っていたのでモチベーションを保てたのでしょう。私からよく話したのは『会社のことを考えるのではなく、自分の目の前にある仕事をしっかりやろう』ということです」
定性論による執念の突破力
エキュート大宮はオープン初日から大にぎわい。あまりに商品が売れてしまってショーケースががらんどうになった店舗もあった。便利、楽しい、駅が明るくなった、と言われ、エキナカ事業は大成功だった。が、鎌田さんはプロジェクト進行中、「ずっと自信のない状態でした」という。それは前例のないことへの挑戦だったからだろう。
「JR東日本の役員に対しても、駅の中に『こういうものができたら面白いですよ。これ、絶対いけますよ』と自信がある感じで提案していました。新規事業には過去のデータがないので定量論でなく、定性論で『いけます!』と言い切っていました」。入念な事前調査をしたうえでの提案ではあるが、前例のない挑戦に対し、目上の男性たちからは「説明が理論的でなく、わからない」とよく叱られたのだという。
鎌田さんはこの経験から「男性は定量論で、自分も含めた女性は定性論で説明するからぶつかりがち」と感じたという。しかし定性論でしか突破できない世界もあるはず。とくに、新規事業のように誰も経験したことのないビジネスについては、その可能性を説明しようとしてもしきれないので定性論でなければ前進できない。カルビーではまさに鎌田さんの定性論的活躍が期待されている。
今までなかった商業空間を生み出した鎌田さんの第2幕が始まる。どんな「わくわく」を創出してくれるのだろう。
■Q&A
■好きなことば
縁尋機妙(えんじんきみょう)
■趣味
旅、読書お店まわり
■ストレス発散
ボーッとする大人買い(ステーショナリー、本、食品の嗜好品(しこうひん)etc.……)
■愛読書
写真集、絵本、雑誌、ビジネス書、マンガなど何でも読む
カルビー上級執行役員。1989年4月、東日本旅客鉄道入社。大手百貨店出向や駅ビル等勤務を経て、2001年より「立川駅・大宮駅プロジェクト」のリーダーとしてエキナカ事業を手掛ける。05年「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長。08年より本社事業創造本部にて「地域活性化」「子育て支援」を担当。13年JR東日本研究開発センター副所長を経て、15年1月東日本旅客鉄道退社。同年2月より現職。