「近い・安い・学ぶ環境よし」と3拍子揃ったフィリピン英語留学の最新事情をお伝えしてきた本連載。体験した著者・江藤詩文さんの英語力はどの程度向上したのでしょう? 江藤さんが8週間の留学で得たこと、感じたこと、現地の実情も踏まえ、みなさんの疑問に答えます。

この連載では、有給休暇を利用して行けるフィリピン英語留学の最新事情をお伝えしてきた。今回はフィリピン滞在中から帰国後まで、多くの人から寄せられた代表的な4つの疑問について、私なりにお答えしてみたいと思う。一部、連載にも登場した2人の女性、伊藤知香さん山本紀子さん(仮名)の意見も紹介しよう。

疑問1:8週間の滞在で、どんな成果が上がるのか?

まず、8週間の滞在でどれくらい成果が上がるものなのか。「英語での会話が苦痛じゃなくなった」という伊藤知香さん、「明らかに耳が変わり、リスニング力が上がった」という山本紀子(仮名)さん。私自身は、次の二つのシチュエーションで英語力向上を実感した。

一つは、旅先で出会うフランス人やドイツ人といった非ネイティブから「英語がうまい」と言われたこと。これまで私は、欧米人と英語で会話して通じにくかった場合、相手がどこの国の人であっても、自分の英語力のなさに原因があると考えていた。しかし、フランス人やドイツ人から「あなたは英語が話せるけれど、自分は英語が下手だから分かりづらいでしょう」と言われたことで「ESLスピーカー同士、通じ合えばいい」と視点が変わった。ちなみに「英語を話せるから日本人だと思わなかった(韓国人だと思った)」と言われる機会も激増。世界の人から、日本人はどれほど英語が話せないと思われているのだろうと、改めて見つめ直すきっかけになった。

二つ目は、外国人との英語での会食が楽しかったこと。何といっても、すごいスピードで急き立てられるように英語をおうむ返しにする「カランメソッド」をはじめ、1日に8時間近くも“外人とサシ”でしゃべらざるを得なかったのだ。飲んだり食べたりしながら、急かされることもなくゆっくり話せる2時間くらいなら、余裕を持ってクリアできるようになった。

疑問2:フィリピン人講師の英語は、なまっているのか?

連載第3回で紹介した「ラサール大学付属語学学校」には、米・シカゴ育ちのネイティブのアメリカ人講師と、1歳から30歳までニューヨークで育ったフィリピン人講師(タガログ語と地方語はほとんど話せない)がいた。彼らによると、大学卒業レベルの教育を受けたフィリピン人は、世界でもトップクラスのきれいな英語を話すそうだ。

「ラサール大学付属語学学校」の講師。ニューヨークで大学を卒業後、IT系企業に勤務した経験を生かしてビジネス英語を指導してくれた。

例えば、世界でスピーチするレベルの日本人でも、その多くが話すのは日本語なまりの“ジャパングリッシュ”だし、英語が公用語であるオーストラリアやシンガポール、香港にもそれぞれなまりがあり、彼らが話す英語より、フィリピン人の方がずっとアメリカ英語に近い。また、アメリカ国内にも方言があるが、方言が強い人が話す英語よりも標準語に近いそうだ。

さらに、ニューヨークやシカゴでは、ネイティブの特に若者は、文法を無視したスラングを話すことも多いが、フィリピン人講師は英語を学習して習得しているため、文法の間違いが少ない。スペルなどは、フィリピン人講師の方が優れているくらいだと言う。

ちなみに私がついたフィリピン人講師のひとりは、英語と米語をきれいに発音し分けていた。結論として、今から英語を母語としてではなく、日本人の英語初心者である大人が学ぶ場合、きちんとした講師に習えば、なまりは気にする必要がなさそうだ。もしフィリピン人講師で飽き足らないほど上達したら、英語の教育法を習得したネイティブの英米人講師に、改めてマンツーマンで学べばいい。

疑問3:若いフィリピン人講師は、ビジネス英語を教えられるのか?

フィリピン人講師は総じて若い。私がついた講師の年齢は、21歳から33歳まで。平均すると24歳くらいだろう。彼らは大学を卒業してすぐ英語講師になっているので、ビジネス経験が浅いのは事実だ。

【写真上】「QQ イングリッシュ」シーフロント校は講師の仲がよく、講師Aの授業で課題だった弱点を講師Bがフォローするなど連携が取れていた。【写真中】「ラサール大学付属語学学校」で登下校を見守る警備員。【写真下】「QQ イングリッシュ」ITパーク校の無料シャトルバス。

そのため、例えば私の仕事ではよく必要になる「広告換算費」などの単語が分からなかったり、バーター条件を勝ち取るための交渉で使う英語、といった状況を限定した英語などを教えてもらう時は、日本とフィリピンの文化の違いもあり、背景の説明が多少必要だった。

しかしインターネットを使いこなし、英語で情報収集する彼らは、不明点があれば終業後にきちんとリサーチして、翌日にはしっかりした回答を整えてくれる。既存のテキストにぴったり合う答えがないからと、自宅でテキストを打ち、音声を録音して来てくれた講師もいた。これについては生徒自身のビジネススキルと英語スキルによるところが大きいが、私としては、フィリピン人講師が用意してくれたレベルのビジネス英語を使いこなすことができるようになれば、まずは十分だと考えた。

一方で、若さが強みになることもある。彼らはアメリカのWebサイトをとにかくよく見ているので、例えば「世界のトレンド」「世界のニュース」「最新のITツール」といった情報に精通している。「世界で盛り上がった日本についてのトピックス」など、日本語で検索しても見つからない話題を、いくつも教えてもらった。

疑問4:フィリピンの治安は安全か?

フィリピンで暮らすとなると、治安が気になる人もいるだろう。首都マニラはさておき、今回滞在したバコロド市やセブ島は、フィリピンの中では比較的治安がいい地域と言われている。海外旅行に慣れている人なら、例えばカンボジアやベトナムといった他の東南アジアの国と同じくらいの治安、つまりスリやひったくりに気をつけて、危険だと言われる地域には近づかず、なるべくひとりでは歩かず、夜は外出を控えると考えればいいと思う。

しかし学校には、海外旅行経験がほとんどない、さまざまな年齢の人が留学してくるので、各学校はそれぞれ安全対策をとっていた。例えば、第3回で紹介した「セント・ラサール大学付属語学学校」では、交通量が激しい道路の横断をサポートする交通整理のスタッフがいたり、講師と出掛ける場合は、講師が寮の敷地内まで送迎してくれた。

「QQ イングリッシュ」ITパーク校では、徒歩10分もかからない寮と学校のあいだにシャトルバスを定期運行していた。同シーフロント校のように、ゲートはガードマンに守られていて、敷地外に出る必要のない学校と寮の一体型を選ぶ手もある。

私自身は治安に不安を覚えることはなかったが、8週間の滞在中、バイクに乗ったふたり組によるショルダーバッグのひったくり事件を目撃した(被害者は日本人女性)。警察の対応がいい加減なのも、他の東南アジアの国と同様だ。恐がりすぎる必要はないが、海外保険にはしっかり入っておきたい。

※最終回となる次回は、帰国して英語力をキープするための勉強法をお伝えします。記事配信は2月18日の予定です。

江藤詩文/旅する文筆家
年間150日ほど海外に滞在し、その土地に根ざしたフードカルチャーをメインに、独自の視点からやわからな語り口で綴られる紀行文を雑誌やウェブサイトに寄稿。これまで訪ずれた国は50カ国ほど。女性を中心とした地元の人たちとの交流から生まれる“ものがたり”のあるレポートに定評がある。旅と食にまつわる本のコレクターでもある。現在、朝日新聞デジタル&Wで「世界美食紀行」、産経ニュースほかで「江藤詩文の世界鉄道旅」を連載中。著書に電子書籍『ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~』シリーズ全3巻(小学館)。
【世界美食紀行】http://www.asahi.com/and_w/sekaibisyoku_list.html
【江藤詩文の世界鉄道旅】http://www.sankei.com/premium/topics/premium-27164-t1.html