これまで10回にわたりプレゼンに必要なスキルをお伝えしてきた本連載。プレゼンターとしてのあなたも、そろそろ仕上げの段階です。堂々とした立ち居振る舞いで、聞き手を惹きつけるテクニック、「動き」と「視線」の効果を学びます。

今までの連載記事 聞き手をつかむ!プレゼンテーション必勝術 1~10

プレゼンテーションで相手に要件を伝えるための大切なテクニック「デリバリー」。前回までは「言葉の“ヒゲ”」の取り方と、「間(ま)」の効果的な使い方についてお伝えしてきましたが、今回は「動きのノイズ」の取り方について。

身体や目の動きは言葉以上のメッセージを発信しています。自分では意識していない癖が、“ノイズ”になって聞き手の集中力を妨げていることも。人からは決して指摘されない身体や動きの癖に気付いて、上手にノイズカットしましょう。

なくて七癖「動きのノイズ」をなくそう

プレゼンテーションでは、言葉だけでなく、身体と目の動きも印象やメッセージの信頼性を表現する重要な要素です。ジェスチャーやアイコンタクトはもちろん効果を発揮しますが、それを磨く前にまず身体の動きの癖と目の泳ぎを取りましょう。

「なくて七癖」と言うように、自分では気がつかない体の動きの癖は、多くの方が持っています。例えば体の傾き。体の重心が傾いている人もいれば、首が左右どちらかに傾いている人もいます。私自身も髪が顔にかからないようにと首を左側にかしげる癖があり、撮影の時に微修正することもまれにあります。首をかしげる動作はやや幼い、媚びているような印象も与えるので注意が必要です。

改めて、「動きのノイズ」となる、女性にありがちな身体の癖と注意点を挙げてみましょう。

■動きのノイズ――女性にありがちな身体の主な7つの癖

(1)首をかしげる
→媚びている、おもねる印象を与える動作です。
(2)頬に手や指を当てる
→恥ずかしがっている、もしくは動揺している印象を与えます。
(3)口元を手で隠す
→自信のなさや本心を隠している印象を与えます。
(4)髪をかきあげる
→気だるい印象を与えがちです。
(5)上目遣い
→顔の上半分の面積が広く見え、幼児の顔の比率に見えることから可愛さや幼稚な印象を与えがちです。
(6)頻繁に、もしくは小刻みにうなずく
→自分で確かめながら話している、または相手にへつらっている印象です。
(7)話の最後に小さく笑う
→自信や緊張感のない印象を与えます。

以上の他に、意味のない手の動き、貧乏揺すりなどもノイズです。まずはこういったノイズとなる動作、癖がないかを確かめて、意識してなくしましょう

ノイズ解消の「基本の立ち姿」を身につける

ノイズとなる傾きや癖をとるためには、まず基本の立ち姿勢、構えを覚えましょう。基本の立ち姿勢の取り方は以下の3ステップです。

基本の立ち姿~3ステップ
(1)
壁に背中をつけて立ちます。
(2)かかとから順番にお尻、背中、肩、頭を壁につけていきます。
(3)あごを引き、お腹が出ないように引き締めます。

この姿勢をとった時に背中や腰が反っている感じがする場合は、普段の姿勢が猫背だったり、肩や首が前に出ているということです。基本姿勢をとると、自然と鎖骨や胸骨が開いてきてデコルテ部分の面積が広がります。デコルテの広さは自信がある印象を聞き手に与えます。プレゼンテーション前にこの姿勢チェックをしてみてください。

このようにノイズとなる動作をなくし、正しい姿勢をとることはとても大切なのですが、一方で、全く動かない「直立不動」も考えものです。あまりにも動きがないと、聞き手の興味関心が薄れてしまうからです。

具体的には、手元の資料だけを見ていて全く動かなかったり、スクリーンの方を向いて相手に背中を向けたまま、ずっと同じ姿勢で動かなかったり。直立不動は聞き手の集中力を失わせてしまうので、結果的にノイズとなってしまうのです。

基本姿勢を身につけたところで、次は聞き手を惹きつける、適度な体の動きを見ていきましょう。

基本動作3T」~タッチ・ターン・トーク

無駄に動きすぎるのもダメ、直立不動もダメといわれると、「じゃあ、どんな動きをとったらいいの?」と困ってしまいますね。プレゼンテーションではジェスチャーを取り入れるとよいと言われますが、ジェスチャー以外の動きに意識を向ける人は少ないようです。ジェスチャー以前の“説明の基本動作”として、「3T」をご紹介します。3Tとは、3つの動作の頭文字からとったものです。

説明の基本動作~3T
(1)
タッチ:スライドを指し示す
(2)ターン:聞き手のほうを向く
(3)トーク:話す

まず、「タッチ」という動きで、画面の中で説明する箇所を指し示します。次に、このままでは聞き手に背中を向けてしまっているので、「ターン」でくるっと聞き手の方に身体を向けます。そして、「トーク」で話し始めます。説明する時にこの3つの動きを意識すると直立不動が避けられ、リズムのある自然な動きができますあまり頻繁に繰り返すと目まぐるしいので、一つのページにつき1、2回くらいでよいでしょう。

応用としては、この3つの動きを歩いて位置を変えながら行います。例えば、自分がスクリーンの右側に立っていて、指し示したい箇所が左側にある場合には、スクリーンの左側に移動してその箇所をタッチします。強調して伝えたいメッセージがある場合には、タッチ後のターンで振り向くだけではなく、聞き手のほうに近づいていって話し始めるというふうに、3Tに「歩き」をプラスするのです。その際に、あまりせかせかと小走りのように動くと聞き手も落ち着きません。大きい歩幅でゆったりと歩くのが効果的です。3Tに慣れてきたら、是非「ゆったりと歩く」動きを入れてみてください。

「視線のノイズ」とは?

「目は口ほどに物を言う」ということわざがありますが、プレゼンテーションにおいて、目の動きは、聞き手が話し手を信頼足りうるかどうかを判断する非常に重要なものです。実際によく見かける光景ですが、下記のような振る舞いはNGなので注意が必要です。

視線のノイズ
・聞き手の目を見ずにひたすら資料ばかりを見ている
・特定の人だけを見て、他の人は全く見ない
・目の動きが早すぎて、キョロキョロと視線がさまよう
・頻繁にまばたきをする
・困った時につい上に視線が泳いでしまう

など視線が泳いでしまう動きはノイズです。

原稿は全て覚えなくていい。視線が泳がないための対処法

目が泳がないようにするためには、不安を取り去ることです。不安には主に2つの要因があります。

一つ目の不安として大きいのは、言うことを忘れてしまったらどうしようというもの。この解決法は「原稿を全て覚えようとしない」これに尽きます。

覚えようとすればするほど、忘れてしまった時に不安になって、目が泳いだり、上を見てしまうのです。何かを思い出そうとする時は右上に目が行きやすいと言われています。原稿を一言一句間違えずに伝えることがプレゼンテーションではありません。私の研修では用意した原稿をもとに話してもらう練習をしますが、その際、多少言葉や文の順番が原稿と違っていても聞いている受講生は誰も気にしません。

通常のプレゼンテーションの場合には、聞き手は何が話されるのかを知らないわけですから、原稿どおりにいかなくても誰も気が付かないでしょう。準備をしっかりとすることはとても大切ですが、多少の間違いを恐れ過ぎないことです。

もう一つの不安として大きいのが、聞き手と目が合うと緊張が増すというもの。これは「見られている」という意識が緊張を増幅させるためです。見られていると思うと一挙手一投足がぎこちなくなります。この意識を思い切って「自分が見ている」と反対に変えましょう。恥ずかしいと思っているうちは意識が自分に向いています。伝えたいと心の底から思えば、意識は聞き手に向かいます。聞き手の反応をしっかりと確かめる、観察するくらいの意識に変えていきましょう。

身体の動きと視線の動きのノイズカットをするだけでも落ち着いた、堂々とした印象を与えられます。

次回の本連載の最終回では、更に効果的なインパクトを出すジェスチャーやアイコンタクトのテクニックをご紹介します。

清水久三子
お茶の水女子大学卒。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、数々の変革プロジェクトをリード。
2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとして5000人のコンサルタント・SEの人材育成を担い、独立。2015年6月にワーク・ライフバランスの実現支援を使命とした会社、オーガナイズ・コンサルティングを設立。延べ3000人のコンサルタント、マーケッターの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。
主な著書に「プロの学び力」「プロの課題設定力」「プロの資料作成力」(東洋経済新報社)、「外資系コンサルタントのインパクト図解術」(中経出版)、「一瞬で伝え、感情を揺さぶる プレゼンテーション」、「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」(KADOKAWA)がある。新刊「ビジュアル 資料作成ハンドブック」(日本経済新聞出版社)は1月16日発売。