女性に圧倒的人気のレシピサイト、「クックパッド」。有益な情報を無料で提供し続けるこのサイトは、いったいどのようなビジネスモデルで高収益を上げているのでしょうか? 有価証券報告書を元に、新しいビジネスの可能性を探ります。

主な収入は「広告」ではなかった

インターネット上で料理のレシピをいつでも投稿・検索できる日本最大級の料理レシピサイト、「クックパッド」。2015年6月時点ではその投稿レシピ数が210万品を突破し、20代~40代の女性を中心に、月間利用者数が5600万人以上に達しました。

クックパッド トップページより

実際にサイトを見てみると、クックパッドに投稿されたレシピのおかげで、料理のレパートリーが増え、毎日の献立決めが楽になり、さらに家族からもおいしいと褒められるようになったという声が数多くあがっています。スマートフォンを使ってレシピを手っ取り早く検索できるのも人気を博した要因の1つです。

これだけ便利な情報を無料で提供しているクックパッドは、どうやって売上を上げているのでしょうか。私はクックパッドの決算情報を見るまでは、おそらく売上の大半が広告収入だろうと予測していました。利用者を数多く集めることができればそれだけ媒体としての価値が上がり、広告の需要が高まるからです。

献立が思いつかない、余った食材を使い切らなければならない、急に彼氏の晩ご飯を作らなければならない……、そんな食にまつわる困ったシーンでクックパッドの助けを借りたことがある人も多いのでは?

分かりやすい例がテレビです。民間放送のテレビ番組は基本的に無料で視聴することができますが、テレビ局は番組制作費や人件費などの支出を上回る広告収入をスポンサーから得ています。視聴率が高ければ高いほど広告媒体としての価値が高まるため、その分売上増につながります。同じことがラジオやインターネットのニュースサイトサイトなどについても言えます。サービスの利用者と、広告料としてお金を支払ってくれる顧客が異なる点がこうしたマスコミ媒体の大きな特徴です。

ところがクックパッドは、テレビやラジオのように無料で情報提供するという側面を持ちつつ、新聞や雑誌のように購読者と広告主の両方から料金を徴収していたのです。しかもレシピは基本的に投稿者によって提供されているため、会社側のコストは著しく低く済みます。それが高収益につながるのは言うまでもありません。今回はそんなクックパッドの収益構造について見ていきます。

驚きの利益率、その理由は原価にあり

まずは業績をチェックしてみましょう。有価証券報告書によれば、クックパッドの2014年12月期の連結売上高は67億円、当期純利益は15億円です。売上高の規模からすると上場企業の中ではそれほど大きくないのですが、当期純利益率が22.7%もあることから、かなりの高収益企業だと言えます。また、決算期の変更で、2014年12月期は決算期間が9カ月だったのにもかかわらず、前期比で売上高が増えていることからは、成長率の高さもうかがええます。

次にクックパッドの業績推移を見てみましょう。2006年4月期から2014年12月期までの10期分の連結売上高及び当期純利益率の推移は図の通りです。

グラフを拡大
【上】「売上高および利益率の推移」、【下】「売上割合」(編集部にて作図)。利益率はビジネスモデルによって異なるが、一般的に純利益率は小売業において数%程度、IT業は10%以上と言われる。クックパッドの利益率がいかに際だったものかが分かる。利益率については、連載第3回「利益率から企業の『景色』を見る!─売上や利益より重視すべき理由」にて詳しく述べている(http://woman.president.jp/articles/-/409

まだ巨大な規模とは言えませんが、売上高の成長率からは勢いが感じられます。また、当期純利益率は低いときでも20.1%、高いときでは32.4%とかなり優秀です。

高利益率の最大な要因は、レシピなどのコンテンツが投稿者によってもたらされている点です。こうした、ユーザーが内容を生成していくメディアのことをCGM(Consumer Generated Media)といいます。クックパッドのようなCGMでは、自社でのコンテンツの作成費がほとんどかからないため、原価率はたったの数パーセントに過ぎません。一般の企業であれば原価率は数十パーセントに上ることが多いため、原価が安い分だけクックパッドは利益率が高くなるのです。

さらに目を見張るべき点は、クックパッドはレシピの投稿者に対して“アメ”を与えるどころかお金を取っていることです。有価証券報告書で開示されている業績などの概要を見れば、売上高の約半分を会員事業が占めていることが分かります。広告事業による収入は全体の3割程度にとどまっています。
 
 実はクックパッドにはプレミアム会員制度があります。プレミアム会員は無料会員と違って、レシピを人気順検索や絞り込み検索できたり、「話題のレシピ」を過去分全て閲覧できたりすることができます。そのため、より自分に合った満足度の高いレシピを手に入れられるのです。クックパッドは毎月280円(税抜)の会費をプレミアム会員から得ています。会員事業の収益はその分のお金です。月額280円ということは年間で3360円。そしてプレミアム会員が2014年12月期には150万人を突破したということから、単純に会員数150万人に年間報酬の3360円を乗じると50億円の売上になります。月々たったの280円でも会員数が多ければ売上がかなり大きくなるのです。

「プレミアムサービス」と呼ばれる特典に魅力を感じて有料会員となる人が後を絶ちません。しかし、なぜレシピを投稿する人はお金をもらえないのに、中には会費を支払った上で、レシピを投稿し続けるのでしょうか。そこにクックパッドの秘密があります。

人の気持ちが読めれば商売はうまくいく

クックパッドの最大の魅力は、「つくれぽ」にあります。「つくれぽ」とは、サイトに投稿されているレシピに対して、実際に作ってみたユーザーがその感想を写真付きでさらに投稿するものです。この「つくれぽ」があるからこそ、レシピの投稿がどんどん増えていくと言っても過言ではありません。なぜでしょうか。

「つくれぽ」がたくさん投稿されると定番レシピとして信頼性が高まり、投稿者のモチベーションアップにつながります。家で料理を作っても家族にしかおいしいと言ってもらえませんが、クックパッド上だと多くの称賛が得られます。それにやりがいを感じて多くの会員が投稿を続けるのです。コンテンツ提供の対価としてお金をもらうと義務感に駆られた仕事になってしまいますが、称賛を対価に趣味として純粋に楽しむことができるクックパッドは、コンテンツの提供者である会員に感謝されながら、さらに熱心な会員からは会費を得ることに成功しているのです。

広告収入を得ているマスコミ媒体の多くは、自ら魅力的なコンテンツを作成し、無料あるいは有料で視聴者やユーザーに届けています。そういう意味で、ユーザーにコンテンツを提供してもらい、かつユーザーからもそれなりの収益を得ているクックパッドのビジネスモデルは斬新だと言えます。

インターネットの普及により、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌のマスコミ4媒体の広告収入は減少傾向にあります。今後はクックパッドのようにユーザーがお金を支払ってでもコンテンツを提供したいと思えるようなサービスを考え出し、広告収入に次ぐ事業として育てていくのもいいかもしれません。うまくいっている会社の有価証券報告書には、そのような新しい「もうけ」のヒントが隠されているのです。

秦美佐子(はた・みさこ)
公認会計士 早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。