安倍内閣は「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入を推進していますが、この制度はホワイトカラーの生産性向上に寄与するのでしょうか? 導入の際に整えるべき条件とは? 4人のワーキングウーマンの皆さまと議論します。

山田さん/大手外資・IT系企業に勤務。顧客の問い合わせ対応などサポート業務を担当。30代。
相川さん/大手ハウスメーカーで10年以上勤務。現在は支店で設計の法令管理を担当。30代。
本田さん/外資系アパレルメーカーにてデザイナーとして活躍。職場は9割が女性。30代。
鈴木さん/大手外資・IT系企業に勤務。所属する事業部の人材育成と組織活発を担当。40代。
※キャリア女性のための転職サイト「ビズリーチ・ウーマン」の協力を得て4人の方にご参加いただきました。

【相川】ホワイトカラーエグゼンプションの導入には賛成ですね。というのも、当社では80年代に過労死した社員がおりまして……。

【一同】ええっ?

【相川】奥さまが朝、ご主人を起こしても起きなかったと。それで、労働基準監督署に通報した経緯があって、以来、当社は徹底的に社員の労務管理をしています。たとえば、パソコンとiPad、iPhoneは全部、会社支給なのですが、そこにログインしている限り、労働時間として換算されます。

【鈴木】ウチもそうです。Web打刻をすることで社員の勤務時間を管理しています。

【相川】そのログイン管理もウチの場合「裏技」があるんですよね。ログインしないで仕事をしてしまったり、勤務時間が長すぎる人は部署ごとの管理担当が適当に直してしまったり。

【山田】当社は年俸制なので、ある一定以上の社員には基本的に残業代が支払われません。ですから、安倍総理がやろうとしていることはすでに導入済みです。

【鈴木】私の会社も年俸制ですから、残業して熱意をアピールしようという人や、残業代目当てで働こうという人はいませんね。

【相川】ウチにはいますよ。「残業代で家を建てた」人が(笑)。もっとも、そういう人とは誰も仕事をしたがりませんけどね。というのも、当社はボーナスを部署ごとの成績で割り振るのですが、その成績には残業代も加味されるので、そういう人がいるとチーム全体の評価が下がるんです。すると、皆のボーナスが減ってしまう。

【鈴木】評価が公平でないと、残業代で稼ごうとかアピールしようとする人が出てくるのは当然ですよね。ウチも、目標管理制度を導入しているものの、個人の達成度合いより会社の業績次第で給料が上がり下がりするし、なかには好き嫌いで部下を評価する上司もいるので、それが不満で辞めてしまう人が結構います。そして「姥捨山(うばすてやま)」といわれる、評価されなかった人が入れられる「追い出し部屋」みたいなのもあるんです。

【鈴木】当社もE評価がつくと「今のポジションにはいられないと思ってくれ」という警告がされて、実際いられなくなるシステムがありますね。

【山田】ウチにもあります。でも、本当に評価が低い人に限って警告されても居残るんですよね。

【鈴木】それをハイパフォーマーがカバーしている。今後、各社にホワイトカラーエグゼンプションが導入された場合、生産性の高いハイパフォーマーをきちんと評価してあげることが肝要だと思います。当社の場合、他のメンバーをサポートしたり自分のノウハウを誰かと共有する社員は、「360度評価」できちんと評価されていますが、これがない限り、働き損になってしまう。

【相川】そうですよね。役職もないのに、後輩に仕事を押しつけてサボる社員もいますからね。

【鈴木】ええ。それで不公平を訴えて人事部に相談に行く人が結構いる。でも、人事部が物事を解決したことはただの一度もない。

【鈴木】また、ホワイトカラーエグゼンプションを導入すると、産休を取る社員が出るなどで部署が一時的に忙しくなる場合に問題が生じる可能性が高い。

【山田】結局、誰かがその穴埋めをするのですから残業が増えざるを得ませんもんね。

【鈴木】ところが安倍内閣の労働者派遣法改正案では、派遣元から将来的に正規雇用するよう依頼されて簡単に雇うことができなくなる。これは問題だと思います。

【山田】そうですよね。結局、ホワイトカラーエグゼンプションは、社員一人ひとりの職務範囲と評価基準が明確な会社に導入することが前提だと思います。

――そうでなければ、単なる「残業代ゼロ」による人件費削減策に終わってしまうというわけですね。

Dear Prime Minister
ホワイトカラーエグゼンプション導入は土壌を整えてから

■明治大学教授・鈴木賢志さんから

提言:日本の「2つの文化」を壊すいいきっかけにしよう

日本生産性本部の『日本の生産性の動向』(2014年版)によると、日本の労働生産性はOECD加盟34カ国中で22位とイタリアやギリシャよりも低いそうです。なかでも問題とされているのが、ホワイトカラーの生産性の低さです。

「生産性が低い」というと、みんながサボっているようなイメージがわきますが、世の中のホワイトカラーの皆さんは朝早くから夜遅くまで一生懸命に働いています。なのに、なぜこんなことになっているのでしょう。

そもそも「生産性」とは、仕事の稼ぎを働く人の数(または働いている時間数)で割ったものです。つまり日本では多くの人が長い時間働いているのに、稼ぎが少ないのです。それはなぜでしょうか。多くの人が稼ぎにならない労働を強いられているからにほかなりません。

日本の職場には「グループ文化」と「出席文化」という2つの文化があります。グループ文化とは、グループで物事を進めるという名目の下で、個々の社員の役割や責任をはっきりさせない傾向のことです。そのため何事にもグループ内の意見調整が必要となり、いたずらに会議が長くなります。また役割が明確でないため、上司が部下を評価するに当たっては「その場にいるか否か」が重視されます。これが出席文化です。この結果、多くの人が会議には出席しているけれども参加していない(=稼ぎにつながる仕事をしていない)という状況が生まれるわけです。

安倍政権によるホワイトカラーエグゼンプションの導入は、これらの文化を破壊して、日本の企業が「一皮むける」きっかけをつくる可能性を秘めています。しかしそのことを意識せずに導入すれば、単にタダ働きを増やし、さらに悲惨な状況を招くことに注意しなくてはなりません。