熱く語る人の瞳には、目ヂカラがみなぎっているもの。初対面でも好印象を残す、“言葉以外”のテクニックとは?

営業の相手が、自分への関心や注目を認知して、あなたとのコミュニケーションを満足だと感じるためには、交渉時間に対して1分間に32秒、すなわち話している半分以上の時間、相手に目線を送ることが必要――これは私の「アイコンタクトの実験」から導き出された実験結果です。非言語領域の「アイコンタクト」は、交渉相手とのコミュニケーションでことのほか大事にしなくてはなりません。

前回はこの、伝達手段として最もインパクトのある「アイコンタクト」の3要素

(1)見つめる方向性
(2)見つめる長さ
(3)見つめる強さ

をコントロールすることで、交渉相手の心をつかむテクニックをお伝えしました。(アイコンタクトで心をつかむ「32秒」の法則 http://woman.president.jp/articles/-/659

今回は、相手の目線をキャッチして、そこから読み取れるメッセージをうまく汲み取ることにより相手を気持ちよくさせながら交渉を進める、という話です。第1回(論理だけじゃダメ「感情の懐」に入り込む営業マジック http://woman.president.jp/articles/-/629)でも伝えた通り、私たちの脳は、1秒間に40もの視覚情報を処理することができます。初対面の人に会った時、言葉以外の目で見た要素から、人は何を読み取れるのか、逆に言えば何を伝えられるのか、詳しく見ていきましょう。

アイコンタクトの男女差と性格傾向

アイコンタクトには、彼または彼女がどのような性格傾向なのか、どのような心理状態にあるのか、押し出しの強い人なのか否か、などさまざまな情報が含まれています。ではアイコンタクトから分かる相手の心理特徴とはどのようなものなのでしょうか? 1993年に行った私の実験結果を紹介します。

この実験ではまず被験者に「EPPS(Edwards Personal Preference schedule)」という精神科の分野に属する心理テストを受けてもらいました。その上で男女混合による2者の対話を50組行い、男女ともにアイコンタクト時間の長い人、上位5名をピックアップし、心理テストの特徴と重ね合わせてみたのです。すると、心理特徴の男女差が顕著に現れる、という面白い結果がでました。

「EPPSテスト」15の欲求の特徴

男性の場合は「自己顕示欲求」が高い人、女性の場合は「異性愛欲求」と「養護欲求」が高い人、これらの心理特徴を持っている人がアイコンタクトを長い時間保っていたのです。簡単に言えば、よく見つめる男性は自分を見てほしい、自分の業績を見せたいという欲求が強く、一方女性は異性に愛されたい、相手を守ってあげたいという欲求が強い傾向があった訳です。

顕示欲求が高いということは、商談をする際のエネルギーの持ちように通じます。その心持ちで交渉に臨めば、自然とアイコンタクトは長く、かつ強くなります。逆も同様で、交渉相手のアイコンタクトから、その本気度や真意を読み取れます。女性の養護欲求の高さを営業スキルに置き換えると、営業先の課題や問題点などを感知して、改善につなげることに長けている、といったところでしょうか。きめ細やかな営業スタイルは、確かに女性の得意とするところですよね。いずれの場合も積極的にアイコンタクトを保つので、「目ヂカラ」の効果もあって営業先にインパクトを与えられます。反対にアイコンタクトの弱い人は、全体の欲求が低くなる傾向があり万事に消極的なので、ビジネスの相手としては頼りない印象を与えてしまいます。

アイコンタクトと対人距離のベストバランス

アイコンタクトの方向、長さ、強さに続き意識してほしいのは「相手との距離」です。初めての相手と挨拶をする時、対人距離を詰め過ぎると、相手はパーソナルテリトリーに侵入されたと感じ用心をします。また至近距離でアイコンタクトを強くとっても相手に圧迫感を与えてしまいます。いくら熱意があるからといって近寄り過ぎては逆効果なのです。では一般的に心地のよい距離感とはどのくらいでしょう?

日本人の場合、初対面の相手に対しては120センチの距離が適当です。これは平均的な体格の日本人が、お互いに軽く手を伸ばして握手や名刺交換をする距離。距離が接近し過ぎていない分、アイコンタクトはしっかりと、32秒/1分間(対話時間の53%)を心掛けてください。

先に述べたように、距離がとても接近する場合には、相手に圧力を感じさせないようアイコンタクトを控えめに。ただし注目してほしい“ここ”というポイントで目線を送ることは忘れずに。ビジネスの距離とアイコンタクトのバランスは、「近づく-弱く」「遠のく-強く」と覚えてください。

アイコンタクトのまとめ

非言語領域の最たるもの、アイコンタクトの「方向性」「長さ」「強さ」をコントロールすることに加え、その奥にある「心理傾向の洞察」「距離感のバランス」をもって交渉に臨めば、クライアントからの信頼を勝ち取ることができます。

最後に、あるグローバル企業のプロジェクトマネージャーの話を紹介しましょう。彼が新しいプロジェクトのメンバーを選定する時、目安の一つとしているものがあるそうです。それは会った瞬間に分かるアイコンタクトの強さと、話に反応する時のスマイルの頻度。相手のニーズや気持ちに敏感で、仲間として仕事がしやすいのは「よく見つめ、よく笑顔で反応する人」だと言います。

一緒に仕事を組みたい人、ビジネスパートナーにしたい人、営業先でそう思われるような第一印象を残せると、まずは成功ですね。次回は「傾聴のルール」についてお伝えします。

佐藤綾子 パフォーマンス心理学博士

常に女性の生き方を照らし、希望と悩みを共に分かち合って走る日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。日本大学芸術学部教授。「自分を伝える自己表現」をテーマにした単行本は180冊以上。新刊『30日間で生まれ変わる! アドラー流心のダイエット』(集英社刊)は9月4日発売。