「部下が能動的に動くように仕向ける」、ここが管理職の腕の見せどころ。前回から引き続き、今回は相手の思考を広げることで、やる気を引き出す質問について、より具体的にご紹介します。

物怖じする、その理由とは

チームで仕事に取り組むとき、メンバーの「やる気」を引き出せているかどうかということはとても重要です。特にメンバーに成長してもらいたいと思っているときには、メンバー自身の動機が重要になってきます。そうしたチャレンジは他人から言われてやるものではありませんし、自発的に取り組まなければ本人の成長にはつながりません。

「できないから、やりたくない!」と新しい仕事を断る部下。一見使えない部下を、使える部下にするのが、上司の仕事です。“ダメ部下”の烙印を押す前に、質問の力で、部下の不安感を取り除きましょう。

では、そもそも人が「やる気になる」ときと「やる気にならない」ときの差はいったい何なのでしょうか? 前回の連載第4回「指示待ち部下の“やる気”を引き出す方法」(http://woman.president.jp/articles/-/619)で、はこの点について、「自分と目の前の物事が関係あると思えるか否か」が重要だとお伝えしました。さらに言えば、「自分ができると思えるか否か」が人のやる気を左右します。つまり人は、あることを「できる」と思えればやる気になり、「できない」と思えばやる気が下がってしまうのです。

たとえば、過去に一度でもやった経験があることは「できた」ことが分かっているので何度でも挑戦する気になれますが、初めて取り組むときには「できるかどうか分からない」ので思わず足踏みをしてしまいます。しかしいつまでも足踏みをしていては、永遠にできるようにはなりません。ですから重要なのは「できる」と本人が思えること、そしてその「できる」という思いをバネに実際に取り組み、「できた」という経験を積み重ねていくことです。それでは、どうやったら人は「できる」と思えるのでしょうか?

「オープン」「クローズド」の2つの質問

人に「やる気」になってもらうために必要なのは、「できる」と思えるように促すことです。しかし、単に「君はできる」と伝えるだけでは人は動きません。人は誰しも初めてのことを前にすると思考や視野が狭まり、不安な要素ばかりに目が行きがちです。そこで今回は、相手の思考や視野を広げ、「できる」と思えるようにするツールとして、オープンクエスチョン(拡大質問)とクローズドクエスチョン(限定質問)をご紹介します。

まずは、人が「やる気になれない」状態を見ていきましょう。今回はAさんが部下のBさんに少し難しい仕事を任せようとしている場面です。Aさんはこれを機にBさんに成長してもらいたいと思っているようです。

A「今度の企画だけどBさんに主担当を任せようと思っているから、よろしくね」
B「え! 私にはまだ早いと思うんですが……」
A「いやいや、大丈夫だよ。できるって」
B「ですが……まだ分からないところもたくさんありますし、ちょっと自信がないです。私より、Cさんの方が適任じゃないでしょうか?」
A「それでも、せっかくの機会なんだから、やってみたらいいんじゃないかな?」
B「ありがたいお話ですが、やっぱり自分には難しいように思います……」
A「……そうかい? そこまで言うなら、少し考えてみるよ(……困ったな、できないからやらないんじゃ、いつまでたってもできるようにはならないし。かといって、無理にやらせてもよくないだろうし、どうしたらいいのかな)」

どうやらBさんは難しい仕事に対して「やる気になれない」ようです。Aさんの視点からは、Bさんには十分この仕事をやり遂げる能力はあると見えているようですが、Bさん本人はそう思っていないようです。こういう場合、もしかしたらAさんが「君ならできる!」と強く言えば押し切れるかもしれません。しかしそれでは「言われたからやる」という状態になってしまい、Bさん本人が納得してチャレンジすることにはなりません。それでは、本人に「できる!」と思ってもらうためにはどうしたらよいのでしょうか?

質問で「思考」と「視野」を広げる

「できない」と思っている人に対して「できる」と思ってもらえるようにするためには、まず相手の視野と思考を広げてあげる必要があります。なぜなら目の前の不安や障害に目を向けるのではなく、より客観的に現状をとらえ直す必要があるからです。その上で、「できる」と思える点を積み重ねることが重要なのです。そこで有効なのがオープンとクローズドという2つの種類の質問です。

オープンクエスチョンとは「拡大質問」のことで、問いに対する答えが特に制限されていない質問を指します。一方、クローズドクエスチョンは「限定質問」を指し、質問の答えがYesかNoかのいずれかに限定されているのが特徴です。たとえば、「あなたは何が好きですか?」という質問はどのようにも答えられるのでオープンクエスチョン(拡大質問)ですが、「あなたはアイスクリームが好きですか?」という質問はYesかNoしか答えがないのでクローズドクエスチョン(限定質問)です。

それでは、こうした2つの質問はどのように動機付けに有効なのでしょうか? 先ほどの事例を元に考えてみましょう。

A「Bさん、新しい企画の件なんだけど、もしBさんに主担当を任せたとしたら何が起こりそう?」【オープンクエスチョン】
B「え、私はまだ主担当っていう役割がよく分かっていないので、何が求められるのか理解していないなど、いろいろ問題があるんじゃないかと思います」
A「なるほど、何が求められているか分からないところが不安なんだね」【クローズドクエスチョン】
B「はい。そうなんです。」
A「それじゃあ、今のBさんが今後どんな知識とか経験を積んだら、主担当を任せても大丈夫になると思う?」【オープンクエスチョン】
B「……そうですね、仕事の流れや、重要なポイントが分かっていることが必要かと思います」
A「なるほど。仕事の流れが分からないのが不安なんだね?」【クローズドクエスチョン】
B「はい、部分的にはお手伝いしたこともありますが、最初から最後までは担当したことがないので……」
A「それじゃあ、この仕事の全体の流れを把握するためには何が必要だろう? どんなステップがあればいいと思う?」【オープンクエスチョン】
B「そうですね……」

ここでは、AさんはBさんに対し、Aさんの持論を伝えるのではなく、Bさんが何を考えているのかを引き出すように、「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」を交互に使って問いかけています。オープンクエスチョンには相手に考えることを促し、考えや意見を引き出す効果があります。一方、クローズドクエスチョンは自分の認識が正しいかどうかを相手に確認するために使います。この2つの質問を繰り返すことで、相手と共通の見解を積み上げられます。そして、相手の意識を目の前の不安以外に向けることで、「できない理由」ではなく「できる理由」へと自然に視点の切り替えを促すことができるのです。

相手が気付いていないポイントを「質問」で明らかにする

今回の例では、「できない」と思っている相手に対して意見を押し付けるのではなく、相手の考えを引き出しながら、だんだんと「できる」点に目を向けるように促していました。ここで重要なのは、相手に何かを気付かせようと誘導質問をするのではなく、オープンクエスチョンを投げかけることで、本当の意味で相手に自由に発言させ、その中から重要な点についてクローズドクエスチョンを使って確認していくことです。それはつまり、相手が気付いていない点に対して意見で指摘するのではなく、質問を使って相手が考えることを支援し、2人の間での共通認識を積み上げていくということです。

相手を動機付けるためには、相手に「できる」と思わせる必要があります。そしてそのためには意見を押し付けるのではなく、相手の考えを引き出し、整理し、ひとつずつ積み上げていく作業が有効です。実は、今回の事例の質問の中には、次回ご紹介する質問の仕方が含まれていました。それは、「肯定的」で「未来志向」な質問です。次回は人を動機付けるために行う質問が、なぜ「肯定的」で「未来志向」でなければいけないのかをご紹介します。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)

株式会社ラーニングデザインセンター代表取締役、日本アクションラーニング協会代表、OD Network Japan 理事、WIAL公認マスターALコーチ、青山学院大学経営学部 客員教授。
東京女子大学文理学部心理学科卒。毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)にて事業企画や人事調査などに責任者として携わった後、渡米。ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士取得。マーコード教授の指導のもと、アクションラーニングの調査・研究を重ねる。帰国後、2003年株式会社ラーニングデザインセンターを設立。著書に、『質問会議』(PHP研究所)、『「チーム脳」のつくり方』(WAVE出版)、『対話流』(三省堂)、『20代で身につけたい質問力』(中経出版)。