「進研ゼミ」だけじゃない! ベネッセの強み

いまや未就学児の約5人に1人は「こどもちゃれんじ」、小学生の約4人に1人は「進研ゼミ小学生講座」を受講すると言われています。2014年4月時点で、「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」では365万人の会員を有し、通信教育事業で圧倒的なシェアを誇るベネッセホールディングス(以下、ベネッセとする)。会社の発表によれば、2013年度の未就学児と小中高生向けの通信教育市場においてベネッセの市場占有率は89%を占めていたようです。

2014年7月に発覚した個人情報の流出事件により、その後、会員数が94万人減少するなどベネッセは深刻な打撃を受けましたが、2015年3月期の連結売上高は4632億円で依然として大きい規模を維持しています。読者の中にも、ご自身あるいはご家族がベネッセの講座を受講したことがある、あるいは受講中だという方が少なくないでしょう。

今回は、このベネッセを例に、株式投資のメリット・デメリットについて考えてみたいと思います。

投資をするとき、まずは買おうとしている会社の事業内容をよく理解することから始めます。ではベネッセの事業内容について見てみましょう。年間4632億円の売上高は通信教育事業のみによってもたらされている訳ではありません。有価証券報告書で開示されている【セグメント情報】を読むと、実はベネッセは国内教育事業のほかにシニア・介護事業、語学・グローバル人材教育事業、海外教育事業なども展開していることが分かります。それぞれの2015年3月期における売上割合は図の通りです。

事業別売上高割合(編集部にて作図)

「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」を手がける国内教育事業の売上が全体の約5割を、高齢者向けの生活ホームを運営するシニア・介護事業と、Ber1itz Corporationの語学レッスンなどを行う語学・グローバル人材教育事業とが、それぞれ約2割を占めています。中でも高齢者向けの居住サービスの伸びは大きく、2025年には日本の高齢化率が30%を超える見込みだということもあり、シニア・介護事業は今後さらなる拡大が期待されているようです。このようにベネッセの事業領域は乳児から高齢者にまでおよび、まさに人々の一生に関わっているのです。

単年では会社を知ることはできない

事業内容を理解したところで、次は会社の業績をチェックしてみましょう。見るべきは、売上高と当期純利益率の2点。売上高で会社の規模が、当期純利益率で会社がどれだけ効率よく儲けているかが分かります。利益率は高い方が良く、その分収益力が優れていると言えます。『利益率から企業の「景色」を見る! ─売上や利益より重視すべき理由』で詳しく説明していますので、そちらをご参照ください(http://woman.president.jp/articles/-/409)。

ベネッセは2015年3月期において連結ベースで4632億円の売上高を計上しているにもかかわらず、なんと107億円の当期純損失を出しています。つまり赤字です。純利益率はマイナス2.3%となります。連結損益計算書を読むと、情報流出事件に関連して260億円もの情報セキュリティ対策費という特別損失を計上したことが大きな要因であることが分かります。

このように1期のみの業績では特別な事情が絡んだりする場合もあるため、それをもって会社の実力を判断することはできません。

業績をチェックする際は、会社の経常的な収益力を知るために最低でも5年分の推移を見ることをおすすめします。有価証券報告書の【主要な経営指標等の推移】では5年分の業績推移が記載されているため、一目で確認することができます。

ベネッセの5年間の業績推移をたどると、赤字となったのは2015年3月期のみで、それ以外の期は当期純利益率4~5%と、安定した収益を上げていることが分かります。また、売上高も2015年3月期以外は年々増加傾向にあります。

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売上高および当期純利益の推移(編集部にて作図)

業績推移からは、これまで真面目に努力を重ねてきたことが読み取れますが、今後どうなるかは個人情報流出事件から受けたダメージをいかに乗り越えられるかにかかっています。ただ、通信講座事業で実質一人勝ちの状況で、しかも介護ビジネスや語学ビジネス、さらには海外事業にも乗り出していることを考えれば、長期的に見てまだまだ発展の余地がありそうです。

ベネッセの株で年間1万4700円得する!?

昨今は銀行にお金を預けても0.02%程度の預金利息しかつきません。一方、経済状況にもよりますが、日本の銘柄に株式投資をした場合の配当利回りは2%前後の場合が多く、預金によって得られるリターンの100倍です。預金を銀行に寝かせておくだけではもったいない、ということになります。

ただし、会社の業績は上下しますので、買ったときよりも株価が下がったり、また業績悪化や会社の方針などにより配当金が出なかったり、そもそも株主優待制度が設けられていなかったりすることがあります。預金のように元本保証はなく、必ず売却益と配当金、株主優待が得られるということもありませんので、それが投資のデメリットとも言えます。

というわけで、今度は株式を購入するという観点から、ベネッセを見ていきます。

まずは株価の推移からです。投資の極意は、よい会社の株を安く買うことです。今の株価が長いスパンでどの水準なのかを知っておくと1つの目安になります。上場企業の株式は自由に売買することができ、その株価はヤフー・ファイナンスなどで確認することができます。ではベネッセの「5年間の株価の推移」を見てみましょう。

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5年間の株価推移(編集部にて作図)

期間中、株価は3000円から4500円までを行ったり来たり。大きな増減は見られません。2015年10月9日時点の株価は終値3125円となっており、比較的安い水準にあることが分かります。ただ、今後株価が上がるか下がるかは会社の業績や景気動向、投資家の判断などによって左右されることとなります。

次に株を保有するとなれば大切な情報となる配当金についてもチェックしてみましょう。株価投資の経済的なメリットは、株式の売買によって得られる売却益(キャピタル・ゲイン)のみならず、保有することによって得られる配当金や株主優待など(インカム・ゲイン)も挙げられます。

ベネッセの場合、2016年3月期には一株につき95円の配当が実施される予定となっています。もし100株購入した場合、9500円の年間配当がもらえ、最近話題になることも多いNISAの口座であれば20.42%の源泉徴収を取られずに済むため、9500円がそのまま手取り額となります。

そしてベネッセには株主優待もあり、100株以上保有すれば株主優待がもらえる仕組みとなっています。株主優待の品は半年ごとに送付されるカタログから選ぶことができますが、中にはベネッセの講座や「たまひよSHOP」といったグループ会社の提供するサービスで使える2600円の相当分のポイントが付与されるものもあります。半年で2600円ですので、一年で5200円相当分のポイントが付与されます。よくベネッセを利用する株主であればそれを使って受講費などに充てることができ、配当金7560円と合わせて、年間実質1万4700円がもらえる計算となります。

2015年10月9日時点の株価で100株買った場合、証券会社への手数料を無視すると投資額は31万2500円です。これに対して年間1万4700円の利益が得られるため、利益1万4700円を投資額31万2500円で割ると、年間4.7%の利回りとなります。計算してみると、預金に比べて実に高収益だと分かります。

今回はベネッセを例に挙げましたが、皆さんの利用頻度の高い会社についてもぜひ業績、株価、配当金や株主優待制度などをチェックし、株式投資を考えてみてもいいのではないでしょうか。そのためにも、日頃から会計リテラシーを身につけておくことが大切なのです。

秦美佐子(はた・みさこ)
公認会計士 早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。