2015年8月29日、政府主催の「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(World Assembly for Women in Tokyo, 略称:WAW! 2015)」のハイレベル・ラウンドテーブルが東京・高輪で開催された。6つある分科会のうちの1つでは、女性の活躍推進の実現に向けて「男性と共に変革する」というテーマで議論が繰り広げられた。

男性を「当事者」とした役割意識の変革を

女性の社会における活躍が進まない理由として、「既存の男女の役割意識」が障壁となっていると言われている。国際比較における女性の管理職比率の低さなどから、日本は特にその役割意識が強いと思われているが、程度の差はあれ、これは世界共通の課題である。

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ハイレベル・ラウンドテーブル「男性と共に変革する」の参加者。前列着席のうち、向かって右から2人目がオーストラリアで連邦人権委員会性差別担当コミッショナーを務めるエリザベス・ブロデリック氏。

「男性と共に変革する」というテーマを掲げたラウンドテーブルには、オーストラリアで連邦人権委員会性差別担当コミッショナーを務めるエリザベス・ブロデリック氏、カンボジアで女性大臣を務めるイン・カンタパビー氏、UN Woman 事務局長のプムズィレ・ムランボ=ヌクカ氏、損害保険ジャパン日本興亜取締役常務執行役員の伊東正仁氏、千葉銀行取締役頭取の佐久間英利氏、福岡県男女共同参画センターあすばる館長の松田美幸氏、カルビー代表取締役兼CEOの松本晃氏、参議院議員で前女性活力・子育て支援担当大臣の森まさこ氏、三重県知事の鈴木英敬氏、BTジャパン代表取締役社長の吉田晴乃氏ら20人が参加。BCG シニア・パートナー&マネージング・ディレクターの津坂美樹氏のモデレーションにより、女性視点だけではなく、男性を「当事者」とした視点も取り入れ、役割意識の変革促進のため具体的施策へとつなげる意見交換が行われた。

リード・スピーカーのひとり、オーストラリアの連邦人権委員会性差別担当コミッショナーであるエリザベス・ブロデリック氏から発表されたMale Champions of Changeという試みは、大きな注目を集めた。

旗振り役は影響力の強い男性

8年前にオーストラリアの連邦人権委員会性差別担当のコミッショナーとして職務に就いたエリザベス・ブロデリック氏は、当初、女性が連帯して積極的に活動することで既存のシステムを壊し、ジェンダー問題を解決しようと考えていた。しかし一向に進展が見られなかったため、「女性を正す」という方針から、「影響力の強い男性を巻き込む」という方針への転換を行った。ブロデリック氏がリーディングカンパニーのトップや政府関係者、軍部司令官に直接連絡をとり、「男性の集団的な声で、女性をとりまく環境を変えよう」と呼びかけ、組織されたのがMale Champions of Change(以下、MCC)だ。男女の双子の子をもつ企業トップには「女性にとって平等ではない社会がこのまま続けば、あなたの子供のうち、女の子のほうにはチャンスが与えられないだろう」と説得したという。

ハイレベル・ラウンドテーブルの後半に部分参加した安倍首相。参加者の発表に、熱心に耳を傾けた。

MCCの具体的な活動事例としては、パネルプレッジ(Panel Pledge)を挙げた。これは会議などへの参加を求められた際、スピーカーとして女性が参加しない集まりの場合には参加を拒否するというもの。必然的に女性の参加が促進されるということで、コストはかからないが大きな影響力をもつ方法として活用されている。

日本版MCCの生みの親は、前女性活力・子育て支援担当大臣の森まさこ氏だ。ブロデリック氏の大臣室訪問をきっかけに、すぐさまメンバー集めに着手した。その名は「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会行動宣言」。創立メンバーのひとり、千葉銀行取締役頭取の佐久間英利氏は、会での女性活躍推進に関する真摯な議論がヒントとなり「地銀64行による人材バンク」が生まれた、と発表した。夫の転勤に伴い、退職を余儀なくされる女性行員が後を絶たない。そこで、夫の転勤先にある地銀での受け入れを人材バンクが調整し、地銀間で異動を行うことで、仕事を継続することを可能にした。千葉から沖縄へ、福岡から千葉へと、現在も14名の女性が正社員としてキャリアをつなぎ活躍している。「人材バンクの設立に、地銀の頭取64名全員が即同意した。女性に働き続けてほしい、気持ちではみんなそう思っていた」と佐久間氏は語る。

限られたリソースでのベストプラクティス探し

女性が社会で活躍し続けるためのベストプラクティスについても、積極的な提案がなされた。福岡県男女共同参画センターあすばる館長の松田美幸氏は、企業の課題として、育休中の代替要員の手配の難しさを挙げた。特に中小企業では新規の雇用が難しく、さらに日頃の業務が属人的であると代替やシェアができないという問題がある。その解決のために、「社員ひとりひとりをマルチタスク化し、休業中の人の業務だけではなくその給与もシェアする」というアイデアを述べた。今後は、子供を育てる人と育てない人との間の平等を考えていく必要があると言う。

三重県知事の鈴木英敬氏。女性活躍推進に関する取り組みついて、県庁をはじめ県内各所における豊富な事例を交えながら発表を行った。

担い手不足が懸念される農業・漁業・林業の分野について言及したのは、三重県知事の鈴木英敬氏だ。漁業における養殖をはじめとして、技術化が進むこれらの分野では、生産物の付加価値向上のため、女性のもつ丁寧さ、細やかさが欠かせないと訴えた。県内での取り組みとしては、「出産を経てフルでは働けないが、少しなら働ける」という女性たちがグループを作り活動する鈴鹿市の事例を挙げた。メンバーの半分が農業などの手伝いを行っている間に、残りの半分が子供たちの世話をすることで、地元の一次産業を支えていると話す。

またBTジャパン代表取締役社長の吉田晴乃氏は、自身の子育て期において、実父にニューヨークまで来てもらい助けを借りた例を挙げ、「日本に欠けていないリソース」である祖父母世代の力の活用を考えるべきではないか、と提案した。

女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム 公式サイドイベント
http://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page23_001408.html