メットライフのシニアバイスプレジデントと、グローバルチーフD&Iオフィサーを兼任する、アルゼンチン出身のエリザベス・ニエト。世界中の女児における教育の権利をサポートし、恵まれない人材やリスクにさらされている若者に育成機会が開かれるよう、長年の経験と見識、自身の能力を活かし非営利組織での活動も続けている。そんな彼女が、日本のD&Iの行方を語ります。
世界を飛び回り、ダイバーシティ&インクルージョンの各国での取り組みを見る中で、エリザベスは日本の課題を次のように語る。
「日本は、働く女性を増やすうえではうまくいっていると思います。でも経済大国として今のポジションを保っていくには、もっと外縁に座っている女性も取り込んでいかなくてはならないでしょう。
家庭と仕事との両立を後押しするような、また、女性がキャリアを続けていく決断をできるようなインフラがないと感じます」
日本は育休や時短勤務などの制度は整いつつあるものの、そういった制度を使うのは大半が女性で、それゆえに夫婦間で妻の方に育児と家事の負担が偏ってしまう現実がある。企業にできることはあるだろうか。
「女性の責任をサポートしてくれる男性をもっと増やすことも重要でしょう。組織の中で、子育てなどに率先して関わる男性をより多くつくれば、女性が活躍しやすくなり、職場に戻って来る確率も上がります」
男性の価値観も変化している
「メットライフでは男性の管理職に、どういうふうに自分が家族をサポートしているのか、部下にストーリーを語ることを勧めています。
リーダーが職場で、子供の卒業式に出るとか、サッカーの試合を観に行くといった話をすれば、部下は『自分もできるじゃないか』と家族に対する意識を上げることができます」
また各世代のライフスタイルに係る価値観も敏感にキャッチする必要がある、とエリザベスは言う。
「グローバルに見て、1975年から1989年までに生まれた、いわゆる“ジェネレーションY世代”では、プロフェッショナルな仕事を持つ男性たちの間でも、家庭での責任を自分も担いたいという意識が高くなっています。
ベストタレントを惹きつけるという意味でも、そうした世代のニーズに応えるために、我々はフレキシビリティを提供できるように、企業としても準備をしていく必要があるのです」
成長を続けるワールドクラスの企業にとって、有能な人材を確保することは、切実な課題だ。働き方のフレキシビリティをどこまで許容できるのか、これらの要素も重要なポイントになってきている。
WORK & LIFE~分離せず、統合して健やかに生きる
エリザベスは「ワーク ライフ バランス」ではなく、「ワーク ライフ インテグレーション」が重要だと言う。
「バランスと言うと、どうしても両方を同じ割合で均衡させるというイメージがあるんですが、そうではなくて、インテグレート(統合)するということではないかと思っています。
“会社に何か貢献をしている”という意識と、“自分の目的を達成できている”という意識を持てると、家族を犠牲にしているという罪悪感も減るのではないでしょうか。
私自身は、ダイバーシティやインクルージョンに関する仕事を通じて、働いている企業の範疇を超え、私たちが属する社会やコミュニティに影響を及ぼすことができると考えています。
1人の女性社員がキャリア領域を広げることで、あるいは男性マネージャーが多様性を学んで包括的な方法で指導できるようになることで、まず社員が変わり、その影響は家族やコミュニティに広がるのです。
私にとって仕事と家族は分離していてバランスを取るものではなく、統合していくものなのです」
まずは企業側が多様性を本質から許容し、雇用される側も仕事と家庭の包括的な関わり方を意識的に模索する。それぞれがクオリティ・オブ・ライフを高く掲げ、それが地域や社会へ好循環に影響を及ぼすことができれば、自ずと日本の未来も明るいものになるはずだ。
グローバル社会を生き抜いていく日本企業が、長い目で見た人材確保のために、ダイバーシティを推進していかなければならないことは事実だ。その判断が経営者に、また働く側にも今問われている。(本文敬称略)
エリザベス・ニエトさんのお気に入り
■感銘を受けた本 『Covering -The Hidden Assault On Our Civil Rights』 KENJI YOSHINO著(Random House)
■モチベーションをあげるもの D&Iに関する仕事
……ダイバーシティとインクルージョンに関する仕事は、周囲を変えていけると確信しています。そのことこそが私のモチベーションの原動力です。
■癒すもの アフリカンダンスと料理
……アフリカンダンスは、太鼓の音色とリズミカルな動きが大好き。料理は、最良のリラックス方法であり、家族と話をしながら時間を過ごせるすばらしい方法です。
■お気に入りのおやつ アルファフォル(ドゥルセ・デ・レチェを挟んだクッキー)
……アルゼンチンの甘いクッキー。これが家にある時だけは、自分を甘やかします。