「この先ずっと働き続ける!」と決意している人も、「この先ずっと働き続けられる?」と不安に感じている人も。未来の自分の幸せのために、今できること、すべきことを、女性の働き方に関する支援経験が豊富な中小企業診断士・小紫恵美子さんとともに考えていきます。
女性こそ恐れず管理職にチャレンジを!
これから管理職になろうとしている方、憧れを抱いている方、女性でもたくさんいらっしゃると思います。にもかかわらず「2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にする」という政府目標である“2030”は相変わらず達成にはほど遠いですし、クオータ制は男性差別だ、などという議論も聞こえてきます。しかし、このような社会背景とはまったく別の観点から考えても、実は女性こそが管理職、マネジメント職となり、その経験を「利用」すべきだと言えます。なぜでしょうか。キャリアの考え方を変えてみると、その理由が見えてきます。
既存の昇進システムは“ブランク”を前提にしていない
多くの女性が、男性の長時間労働を見て、「私は子供を産んだらあそこまで自分の時間を会社にささげることはできない」とどうしても思ってしまいがちです。管理職を避ける理由として、「家庭との両立が難しそう」と挙げる方が、男性に比べて女性に特に多いのにもこうした背景があります。
これは当然のことです。なぜなら、現在までに作り上げられてきた社内の昇進システムは、継続勤務を前提としており、出産・育児等によるブランク(休暇や、時短による勤務)を含めて考えられていないからです。定年まで、長期間の休暇を取ることなく働き続けることがスタンダートだったところへ、国が育児介護休暇などの法制度を追加し続けることで、なんとか女性も働き続けやすくなってきました。現在がまさにこのフェーズです。
しかし、残念ながら同じ企業で働き続けることを前提とするのであれば、現状のシステムの中ではいまだに男性が有利です。もちろん、男女問わず個々の働き方を変えることで柔軟に対応できている企業もありますが、まだまだ多くの企業が、従来の長時間労働・継続勤務を前提としたシステムを変えるには至っていません。産む選択をした女性にとっては、ブランクのためどうしても昇進が遅れる、あるいは生涯賃金が減るという不利を避けては通れません。
それでは、女性がブランクを経ながらもキャリアアップしていくことは難しいのでしょうか。ここで、有効な方法を提案したいと思います。それは、「自分の市場価値を高める」という観点からの“転職”という方法です。
前述したように、1つの会社に勤め続けることを前提としていた今までは、出産などによるブランクが、年功序列のルールの中で不利となることは否めませんでした。しかし「ブランクはあって当然のもの」と発想を転換し、ブランクによるキャリアの不連続をその後のステップアップの障害にしないように、転職市場を活用して別の職場で働く道を創り出してはどうでしょうか。そのためには市場価値を高めることが必要になります。
市場価値を高めることで得られるもの
「市場価値を高める」とは、「仕事の経験、能力を活かすことで、社内の評価軸(社内ルールや手続きの習得度、勤続年数等)だけではなく、社外でも通じる価値を身に付けること」を言います。そして、これにより、従前よりも高い「報酬」を手にすることができるのです。
ここで言う「報酬」とは、お給料、お金のことだけを意味しているわけではありません。自分が仕事を通じて得られるものすべてを指します。その1つとして、たとえば「成長」が挙げられます。転職することによりお給料が下がったとしても、自分の成長に結びついて、さらに次の会社へ転職するときに今の会社にずっといるよりもぐんと自分の価値を高められそうだ、ということであれば、それは転職によりもたらされる立派な「報酬」となるのです。
あるいは、レベルの高いメンバー、ということもあるかもしれません。違う環境に身を置き、新たに自分よりも優れた人たちに出会って刺激を受けることで、主体的に仕事を頑張ろうという気力が湧いてくる、そんなことも「報酬」になるでしょう。
連載第1回目の「『働き方年表』で今こそ未来を考える ─仕事、結婚、出産」(http://woman.president.jp/articles/-/370)でご紹介した「小紫式働き方年表」をご覧いただけるとわかるとおり、実は人生において「仕事をする期間」は思った以上に長いものです。出産、育児によるたった数年のブランクが、その後の数十年働ける間ずっと不利に作用する、というのは本当にもったいない。むしろ、そのブランクを意識し、キャリアを主体的に自分で考え、積み重ねることで、職場と報酬を変えながら仕事を続けることが十分に可能になってきています。
市場価値を高めるには、キャリアの手綱を自分で握る
同じ会社で定年まで勤め続ける。それが日本における「終身雇用、年功序列賃金」制度での「王道」でした。「王道」では、会社の中で望まれるキャリアを積み重ねる、いわば自分自身のキャリアを会社に委ねる、任せる形で昇進していきます。
しかし、会社の外から見た場合、そのキャリア、その報酬はあなたにとってベストなものでしょうか。一度会社に入った以上ほかの仕事を選べない……と思い込んではいませんでしたか? この考えを少し変えてみるだけで、仕事の積み重ね方も違ってきます。永続が保証されているわけではない1社に自分のキャリアを委ねるのではなく、自分自身を信頼して、キャリアを積み上げていくのです。
人材紹介会社に行ったことはありますか? 転職すると決めている、という状況でなくても、一度、今の自分のキャリアが外からだとどういうふうに見えるのか、確認してみましょう。自分のやりたいことを思い出し、今のスキルを棚卸しするいい機会になると思います。また、自分以外の眼を借りることで、思いもよらないキャリアプランが広がり、現在の仕事の迷いから、まったく違う展望が描けるケースもあります。30代以上の女性であれば、そこで特に効いてくるのが「管理職経験の有無」です。マネジメント業務の経験があれば、子供を持った上で、他社へ管理職もしくは管理職予備軍として転職するという選択肢が広がります。ですので、このようなときのために、「管理職になる」のは早ければ早いほど良いのです。
次回は、市場価値を意識してキャリアアップを考えていく上で、なぜ管理職経験が有効であるのか、そしてそうは言っても“管理職になるのを躊躇するあなた”へ贈るメッセージを届けたいと思います。
中小企業診断士。 経営コンサルタント事務所Office COM代表。二児の母。東京大学経済学部卒業後、大手通信会社にて主に法人営業に従事。1998年中小企業診断士取得後、のちに退職。10年間の“ブランク”を経て、独立開業。
現在は企業研修講師や中小企業への経営支援、執筆活動を行う。企業研修では会計、ロジカルシンキング等ビジネススキルを伝えるとともに、女性経営者を中心に数値とロジックに基づいた経営の重要性を伝える自主セミナーを展開。
最近は、これまでの実績と、自身の大企業勤務→専業主婦→子育てしながら独立開業、という経験を踏まえ、女性の働き方についての執筆や講演に力を入れている。「活き活きと働くオトナが増える社会」を目指して日々活動中。