何度も昇進を拒んできた。でも今は、自分が先頭に立って職場を変えていく、そう決心している。彼女を変えたものとは?
当時700人が働く九州最大だった同営業所は、社員がしのぎを削る出世競争の現場でもある。その中で彼女は異質な存在だった。30歳での係長就任は約10人の係長の中で最も若く、女性の就任は初。周囲の視線は厳しく、年上の部下の中には苦々しい思いを抱える者もいることが容易に想像できた。
「私は福岡でのチームを、明るく楽しい雰囲気にしたかったんです。延岡でそうだったように、同じ目標に向かって一生懸命にやっていれば、結果は必ず付いてくると信じていたから」
しかし、笑顔で部下と話していると、「ナメられたらおしまいだぞ」とほかの係長からの風当たりが強まった。相談できる同僚や上司もいない。「ドライバーに戻りたい」と悩む日々が続いた。そんなとき、彼女の気持ちを前向きなものに変えたのは、同じチームにいた主任のこんな一言だったという。
「こんなふうに部下とコミュニケーションをとってくれる管理職は初めてで、僕は新鮮だと思う。たぶん大西さんは、会社のこれまでの雰囲気を変えるために呼ばれたんですよ」
そう言われたとき、彼女は何かが吹っ切れた気がした。
「社内でも女性活躍推進が言われ始めた時期。女性のキャリア支援のための研修に行くと、みんなが私を見ているわけです。自分1人ではない。そう思った瞬間、やりたいようにやってみようという気持ちが生まれました。あとに続く後輩たちの道を切り開いていかなきゃいけない、という責任感を抱き始めたんです」
彼女は福岡営業所の係長を務めた後、熊本で営業課長、同じく福岡での営業課長を経て、熊本の八代営業所の所長へと抜てきされる。そのすべてが「女性初」となる役職だった。
今から振り返るときに彼女が抱くのは、厳しい視線を浴びる一方で、自分を一人前の管理職として育て、見守ろうとしてくれた人々が自身のキャリアを支えていたという思いだ。
例えば、熊本営業所から福岡へ再び異動になるとき、当時の所長は日本経済新聞で連載されていた「キャリアの軌跡」の切り抜きを渡してくれた。
「君がいつか所長になるとき、参考になると思って切り抜いていたんだ」
彼女は今でもその記事の束を大切に持っている。
あるいは熊本営業所にいたとき、クレームの処理を命じられて1人で顧客の元を訪れた際のことだ。話し合いは無事に終えることができたが、後に所長は「あのとき、心配で俺はこっそり付いていったんだぞ」と照れくさそうに言っていた。
「早く女性の管理職をつくり、全国にもっと女性所長を増やしたいという社の方針もあったのでしょう。私はそのことに背を向けちゃいけない」
かつて昇進を拒んだ姿はそこにはない。立場によって人は変わり、変わった人によって組織もまた、長い道のりを経て変わっていく。彼女はそのことを今では十分自覚している。
現在、南福岡営業所の所長を務める大西さんは、これまでなかった女性トイレや休憩室の設置、男性ばかりだった新人指導員に女性を登用するなど、女性ドライバーが働きやすい職場改革を意識的に進めてきた。
「自分が先頭に立って職場を変えていくことは、この会社が女性登用を進めていくうえで必要なステップ。だから、私は男性社員と肩を並べて競い合う必要なんてないと思っています。従業員たちが男女にかかわらず『佐川急便って、いい会社なんだよ』と胸を張って言える職場環境をつくっていくことが、自分の役割だと感じています」
■大西さんの24時間に密着!
6:00~6:30 起床
6:30~7:00 出社準備
7:00~7:30 出社
7:30~8:00 朝礼(朝礼では、軽く体操をして体をほぐす。)
7:00~7:30 保育園へ送る
8:00~9:00 ドライバーの送り出し(この時の1分がドライバーと会話する貴重な時間。)
9:00~12:00 顧客訪問(得意先の訪問は営業所長の重要な役割。)
12:00~13:00 ランチ
13:00~16:00 現場従業員とのミーティング(従業員からの報告を受けたり、指示を出す。
16:00~17:00 書類整理(デスクワークの時間は少ない。一気に片づける。)
17:00~19:00 現場作業
19:00~19:30 退社
19:30~20:30 スポーツ倶楽部
20:30~23:00 帰宅、炊事・夕食・選択
23:00~6:00 就寝
1976年、宮崎県出身。98年、佐川急便延岡店(宮崎県)に入社。ドライバーとして10年間活躍し、同社で女性として初めて係長、課長、営業所長に就任。南福岡営業所では約70人のスタッフを率いる。