脳みそがドロドロになるほど考え抜く

96年に発売した「とっておき果実のお酒」もその1つ。95年に当時の洋酒事業部に移った折井さんは、「女性も飲めるフルーティーな缶入りのお酒」の商品開発を担当する。他社商品と差別化するため、有名フルーツ店で販売するような高価な果物のイメージを取り入れようと発想した。何日も悩むなか、ふっと頭に浮かんだのが、北海道を旅行中の知り合いが送ってくれた夕張メロンだった。

「頭に入れられるだけ情報を入れて考え抜くんです。脳みそがドロドロになって破裂しそうなぐらいに。すると、何かアイデアがスルスルッと出てくる瞬間がある。頭の中の引き出しからチャリンと音を立てて出てくる感じです」

サントリーHD執行役員 折井雅子さん

こうして開発した「北海道産の夕張メロン酒」はヒット商品となり、「とっておき果実のお酒」は人気ブランドに育った。

マーケターとしてヒット商品を世に送り出してきた折井さんも、すべてが順調だったわけではない。30代になる頃に「ちょっとグレかけた」ことも。

「男性社員は20代後半から社内資格がどんどん上がるのに、女性は置いていかれる。ヒット商品は評価されても昇進昇格は別という時代でした。ガラスの天井ではなくて、目に見える鉄格子の天井がある感じでした。たたいてもビクともしないので、それなら、会社ではなく自分が納得できる仕事をしようと気持ちを切り替えました」

ようやく鉄格子が外れ、女性の昇格が目立つようになるのは90年代後半のことだ。折井さんは00年、マネジャーに昇進。その2年後に新設されたマーケティングサポートセンターでは、部長職に就いた。

「管理職となって意識したのは、自分が女性であることによって、部下たちが不安に感じたり、不利になったりすることだけはないように、ということでした。だから、普通にリーダーシップをとることを心がけました」

現在、折井さんはCSR活動担当の役員とあわせて、お客様リレーション本部長を務める。マーケター時代に失敗を山ほど経験しながら鍛えた“お客様の声を商品づくりに活かす力”が広く経営に活かされていく。


■一問一答

 ■好きなことば 
らしく、ぶらずに、前向きに

 ■趣味 
日本舞踊、はまること

 ■ストレス発散 
仕事の喜怒哀楽とは全く別のところで、心を思い切り動かす
(歌舞伎→宝塚→Jリーグ→クールジャパン)

 ■落ち込んだときは 
プチ挫折を許す


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折井雅子
1983年東京大学文学部卒業後、サントリー入社。酒類製品の開発を多数手がけ、2000年、マーケターとして初めての女性課長に。07年、お客様コミュニケーション部長などを経て、12年よりサントリーホールディングス執行役員。