多摩エリア唯一の女性店長

日産プリンス西東京販売 府中西原店 店長 丸山雅世さん 
以前、お店でクルマを購入していただいたお客様から「トイレがきれいだったから買った」と言われ、いまも自ら朝と昼、お客様用のトイレをチェックするようにしている。

日産自動車が始めた、女性が快適に過ごせる販売店づくり、レディー・ファースト・プロジェクトの第1号が日産プリンス府中西原店だ。6人の女性を含む21人のスタッフをまとめるのが店長の丸山雅世氏。多摩エリアをカバーする日産プリンス西東京販売で唯一の女性店長だ。出迎えてくれた丸山氏はたおやかな雰囲気。バリバリのワーキングウーマンのイメージはない。茶事を趣味とし、免状も持っていると聞けば納得する柔らかな応対が心地よい。

府中西原店はプロジェクトのモデル店にふさわしく、女性の視点が行き渡る。表にはテラス席を設け、店内の白木張りのフロアには陽光がたっぷり注ぐ。雑貨で彩られた空間はしゃれたカフェの趣がある。一番の主役であるはずのクルマさえオブジェのようだ。取材日はハロウィン関連のグッズで季節感を盛り上げていた。

丸山氏は2013年10月に副店長から店長に昇格した。店長就任から2カ月後、プロジェクトのモデル店にとの話がきたときは「これ以上大変なことはできません」ととっさに答えたというが、「キッズコーナーの使い勝手を変えられるチャンス」とも思い直した。

「でも、お引き受けしたら本当に大変でした。今も120%充実しすぎてパンクしそう」(丸山氏)と笑う。

丸山氏の要望で、以前は奥まったところにあったキッズコーナーを窓際に移し、備え付けの木のおもちゃで遊んだり、絵本を読んでいるわが子の様子を見守りながら商談ができるようにした。利用率が高くないのは予測できたが、あえて授乳室を設けた。「これから子どもを持つかもしれない女性へのアピール」だ。

「きれいなお店なので女性のお客様も入りますし、ご夫婦でみえられるお客様も多くなりました」(丸山氏)

丸山氏は、ハード面は大きな武器だという。キッズコーナーや授乳室、さらには窓際でiPadを見ながら順番待ちできるカウンター席、クルマのボディーカラーをマニキュア瓶に見立てて棚に並べる演出など、どれも女性の居心地の良さを高めている。

「男女でいらしても、女性がこの店でお買い求めになりたいと思う率が高いと思います」と丸山氏は自信を見せる。

社長から「店長にならないか」

日々、多忙な店長生活を送る丸山氏だが、1993年に入社したときはメカニックだった。卒業したのも自動車整備学校。最初の1年は点検や故障診断の業務につく。その後、整備の受付などを担当するサービスフロントで19年。その間、「全国日産サービス技術大会」で優勝し、トレーナー役もこなす優秀なサービスウーマンだ。

転機はそのサービス技術大会の打ち上げのとき。日産プリンス西東京販売の当時の社長、永安省三氏から「今度、ルノー車を扱う販売店を立ち上げるので店長をやらないか」と誘われる。1カ月悩んだという。

「2歳違いの子どもがいて下の子はまだ小1でした。営業は夜中まで仕事をしているイメージがあったんです」(丸山氏)

NISSAN DAYZ ROOX

だが、輸入車の販売はそれほど夜遅くならないと聞き、心を決める。ルノーの車だけを扱う販売店を営業2人、メカニック2人の部下と回した。

「店長経験が初めてなら、損益計算にも不慣れだし、事業計画もゼロから立てなければなりませんでした。大変でしたが楽しかった。1台目を購入いただいたお客様は忘れられません。ベンツで乗り付けて無茶な値段を言われましたが、クルマを手放すときにわざわざ『ありがとう』とお電話をいただきとても感激したことを覚えています」

顧客と絆を強め、顧客満足度で2年連続全国1位の販売店にもなった。

3年半で黒字化し、4年目に他店に異動。大規模店を3店経験し、現在の府中西原店に移る。レディー・ファーストのアイデアは次々と浮かんでくる。毎週1回、化粧品会社の美容部員に来てもらって、ハンドマッサージや肌チェックの無料サービスを行う。平日の集客対策として抹茶やケーキを出すプランもあるようだ。しかし最後はコミュニケーションの力と心得る。

「お客様は自分の知りたいことを聞き出してくれるのを待っています。気が利けば女性でも男性でもいいんです」

大卒女子初めての工場配属

ダイバーシティ デベロップメント オフィス室長 小林千恵さん 
24年間の海外営業の経験を持つ。2005年にはご主人を日本に残し、小2の息子さんと1歳半の娘さんを連れてブラジルに赴任。子連れの海外赴任は日産自動車で初だった。

気配りができれば性別は関係ないとは丸山氏の言うとおりだが、やはり女性店長の目線や思いが、女性に愛される店舗づくりには欠かせない。日産自動車が進める女性活用の理由はまさにそこにある。日産自動車のダイバーシティデベロップメントオフィス・室長の小林千恵氏が言う。

「激変の時代に自分たちが変わるのが生き残る力です。国籍、性別、年齢などが異なる人のさまざまな意見や考え方を取り込んでビジネスに活かすべきです」

トップの強いメッセージの下、ダイバーシティ推進が図られる日産自動車は製造業の中でも女性活用が進む。女性の管理職比率は7%を超え、2017年3月末までに10%を目指す。現在、部長職は小林氏も含めて44人。役員はまだ1人だが、「今は女性のミドルマネジメント層を厚くし組織力を上げるのが大事です。役員はその中から育っていけばいい」と小林氏。