「男の育児」への理解不足

共働きの妻が時短からフルタイムに切り替えるにあたり、さらなる育児参加を求められた夫が「わかった。週3日は定時に帰るように仕事のやり方を見直すよ」と妻に約束し、実行しようとした。しかし、仕事を終え帰ろうとする男性に早速上司からの駄目出しが。

「君はもう昇格する気がないのか? 奥さんの会社にも短時間勤務という制度があるのに、なぜ君が犠牲にならなくちゃいけないんだ」

男性は奥さんに電話するが、奥さんからは「わかった。結局私がなんとかしないといけないのね」という諦め半分の返事が帰ってきた。

どこかで見たような光景ですよね?

これは関西の大手企業35社が参加するダイバーシティ西日本勉強会の「育児勤務者キャリアアップ」チームの勉強会で検討されたケースのひとつです。

先日大阪に出張した際に、ちょうど勉強会があると聞き、参加させてもらいました。

ダイバーシティ西日本勉強会が取り組む2014年度の課題は8つ。8つのチームにわかれて、それぞれを検討します。「育児勤務者キャリアアップ」チームはその1つ。勉強会には男性メンバーもいますが、このチームは関西企業7社のワーキングマザーを中心に構成されています。

「この人、最初から週に3日は無理しすぎじゃない? まずは1日から始めないと」
「この会話を聞いている若い部下にも影響があるね。モチベーションが下がる」

NO残業デーを無くしてほしい

こうした事例は、メンバーがありがちなトピックを編集、脚色して提出し、さらに勉強会で検討を重ねて蓄積していきます。当事者ならではの意見が、小気味いい関西弁混じりでポンポン飛び出します。

「そういえば、うちの育児中の男性から早帰り日をなくしてくれっていう苦情が出たことがあったわ」

某企業では毎週ノー残業デーが実施されています。しかしその日になると「さあ、飲みにいくぞー」という上司のかけ声のもと、ぞろぞろ連れ立って繁華街に繰りだす。「本当は家に帰って子育てをしないと妻に怒られるのに、早帰り日は上司の頭の中では『飲みに行く日』になっている。毎週誘われて苦痛なので、いっそ早帰り日をやめてください」

人事に対して子育て世代の30代の男性からこんな悩みが寄せられたそうです。ちなみに、この男性、「早帰り日」があることは奥さんには内緒。

「知られたら、なんで帰ってこないの!」と激怒されるから……。

もう若い部下が飲みにつきあってくれない東京と違い、まだまだ関西は「昭和」の職場の雰囲気が濃いようです。当然、男性の育児参加に理解がある上司は少ない。

「この上司が奥さんの上司だったら、どんな気持ちだろうね」
「その質問、上司研修に使えそう」

どの会社でもワーキングマザーや子育て世代の悩みは、「女性活用はCSRとしてどこの会社もやりたがっている。でもそれが長時間労働の是正や男性の育児参加促進とイコールではない」ということです。

しかし、女性の活躍はパートナーである男性が、例え週1日でも早く帰宅して保育園のお迎えにいき、寝かしつけまで担当してくれないと難しい。女性が時短のままで活躍できるほど、日本の環境は整っていません。(欧米では時短の管理職も可能ですが。)

東京を一歩出ると専業主婦が当たり前

まさに今、女性活躍推進やダイバーシティ担当の当事者の声を代弁しています。特に「昭和的雇用環境」「性別役割分担」が根強い関西では問題が浮き彫りになります。関西に行くと、というよりも東京を一歩出ると、「妻は専業主婦が当たり前」という風潮がまだ日本の主流なのだと感じます。

「どうしたら、上司に男性の育児参加への理解を促せるのか」という課題に関して、それぞれの会社の事例にとどまらず、「うちは、私が倒れたとき夫の上司が親身になってくれた。伝え方もあるのかもしれない」という本人の経験談も披露されます。

昭和の雇用環境のままの会社では、制度もダイバーシティを阻害しています。ある会社では、就学前の子どもがいる男性の単身赴任手当がでない。これは子どもが小さなうちは一緒に転勤するべきという考え方からきているので廃止したそうです。しかし転勤の多い企業の男性は、奥さんがほとんど専業主婦。関西のワーキングマザーの環境は、まだまだ厳しい風土との闘いの連続という印象でした。

見直してみると、こうした「片働き」「妻は専業主婦」「子育ては妻がやるべき」を前提とした会社の制度は多い。政府の「シングルマザー政策」も実は「戦争未亡人」の域を出ていないものも多いのです。風土も制度も両輪ですから、読者の皆様の会社も、制度の総点検をされてみるといいかもしれません。

ほかにも「周囲の理解不足で本人がキャリアをあきらめそうなケース」「夫が単身赴任」「復帰時に期待してくれていた上司が異動、本人も不本意な部署への復帰になったケース」などが検討されていました。こうしたケースはチームで解決策を検討し、蓄積し、それぞれの会社の研修などに生かされる。

「他社がやってるから」で一気に進む!

ダイバーシティ西日本勉強会は2004年に発足。今は35社がチーム制で課題解決にあたり、毎年活動の課題は見直されます。年間2回の中間報告、成果発表会があります。

最大の特色は大手企業から「ワーキングレベルの担当者」が手弁当で自主的に集い、「ざっくばらん」に「出し惜しみなく」情報交換をすること。東京にももちろんこうした勉強会はありますが、主導するのはコンサルタント業務を主にする会社だったり、どうしても公式な色が強くなります。

ダイバーシティ勉強会では各社から各チームに最大3名の担当者が集い、またメーリングリストにも各社最大3名が登録します。フリーライダーが出ないように、社毎の分担業務も決めます。

この勉強会からの成果は「両立支援ハンドブック」「在宅勤務マニュアル」「育児復帰セミナーワークシート」などに生かされています。

「メーリングリストに質問を投げかけると、誰かが必ず答えてくれます」という声も。

そして関西の大手のダイバーシティへの足並みが揃えられることが最大のメリットではないでしょうか?

「上司に『××社さんはやっておられますよー』というと、すぐに『だったら、うちも』と取り入れられやすくなります」

女性は1人でも会社を改革しようとするスーパーウーマンが出ますが、男性は社会的な生き物なので、右見て左見て、周りが変わろうとするとやっと変わっていく。同じく男性が主導する会社も、1社だけでは変われない。大胆な改革をして業績が落ちて批判されることを気にするあまり、決断ができないのです。だから変化が遅れる。足並みをそろえていく工夫が改革の速度を速めるのだと思います。

今進んでいるダイバーシティ、女性活躍支援にとどまらない、介護まで視野にいれた制約社員の活躍支援、さらには長時間労働をなくし、効率的な働き方を目指す「働き方改革」などは、政府のお膝元である東京と地方では、両方をみている筆者には、歯がゆくなるほど違いがあります。

ダイバーシティ西日本勉強会のような取り組みは、地方の企業にこそ参考になるでしょう。

「女性活躍と言われても、東京の大企業の例などはまったく参考にならない。どうしたらいいか?」

そう悩む担当者によく相談を受けます。そんな方たちこそ、各県、各地域の代表企業が集い、こうした勉強会を立ち上げるのはどうでしょうか? その際には、実際に勉強会に集う担当者には、絶対に当事者である「ワーキングマザー」や「子育て世代の共働き男性」を入れることがポイントです。当事者たちが知恵を絞ってこそ、魂の入った制度が立ち上がるのです。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)