■編集部より指令

警視庁の調査によると、夫からのDVの相談件数がこの3年で4倍に増加。

アルコール依存の女性も急増しているそうです。

周りに迷惑をかけないいいストレス発散法はないでしょうか。

■佐藤留美さんの回答

DV件数が4倍に!夫を殴りそうになったら
http://president.jp/articles/-/13446

■大宮冬洋さんの回答

合格ラインは率直さ

この連載(というか書く仕事全般)でお題をもらうと、たいていの場合は感動と戸惑いを同時に覚えます。「おお~、面白いテーマだなあ。意見を求めてもらえて光栄です。でも、オレには確固たる主張はない。前提となる専門知識もないしなあ。親しい人と居酒屋のカウンターでおしゃべりするつもりで、あれこれ書きながら感想や意見らしきものにたどり着こう。どんな結論になるのかは自分にもわからない」という感じですね。

で、自分で読み返してみます。「軟弱な方向に偏った文章をグダグダと書いているけれど、『自分の言葉じゃないカッコいい意見』ではない。率直さだけは認めよう」と思えれば合格です。誤字脱字などをチェックして、添付メールで提出して仕事終わり。ご褒美に「BIO」(ヨーグルト)でも食べようかな……。

なぜ合格かと言えば、「率直さ」は居酒屋でサシ飲みするときに一番大事な要素だからです。ちょっとバカな意見であっても、その人の体験と実感に根ざした言葉で語ってくれるならば、耳を傾けて聞く価値がありますよね。なぜなら、そのような言葉だけが僕たちの本音を腹の底から引き出す力を持っているからです。自分でも気づかなかった思いや気持ちをポツリポツリと語れるような対話って心地良いものですよね。

文章を読むことは筆者との対話であるならば、書くことは自分という読者との対話ですよね(記事になったら他の読者も読むわけですけれど)。相手に「こいつは素直じゃない。でなければ、自分が思ってもいないことを言っていることにすら気づかないほどバカだ」と思われてしまったら、そこでコミュニケーションが終わってしまいますよね。書く意味も読む価値もなくなります。

別居か離婚か

さて、今回のお題に関しては珍しく最初から結論があります。いきなり結論を述べる書き方に慣れていないので、まったく関係のない文章論をつらつら書いてしまいました。ごめんなさい。

夫を殴りそうになったら、もしくは殴ってしまったら、できるだけ早く別居するか離婚するべきだと僕は思います。親兄弟や子どもは別ですよ。兄弟と取っ組み合いの喧嘩をする、駄々をこねる子どもに手を上げる、殴ってきた親父を殴り返す。これらは仕方ありません。だって、どんなに気に食わないヤツでも親兄弟子どもは選べないからです。たまには殴りたくもなるでしょう。

でも、配偶者はもともと他人ですよ。「愛し合って居心地のいい家庭を作る」ことを目的として選び合ったパートナーです。ちょっとした言い争いのレベルではなく、相手の心身を傷つけかねない行為に及ぶほど憎むということは、パートナー選びに失敗した証です。そのパートナーシップはさっさと解消することが世のため家族のため自分のためだと思います。

殴りたいほどの夫は一方的な被害者ではありません。彼は妻を殴ったことがなくても、妻やその肉親の人格を否定するような言葉を口にしたことがあるかもしれない。もしくは、「何もしない」ことで妻への愛情のなさが露わになったかもしれない。何らかの形で妻の期待を裏切り、失望させ、悲しみと怒りを取り返しのつかない地点まで増幅させたのです。

でも、彼にはどうしようもない。殴り殴られる関係を望んで結婚したわけでもない。今さら「妻を愛する頼もしくて素敵な夫」に変身することは不可能です。

人は変われないけれど……

僕は離婚経験者なので、「恋人としては問題なくても、結婚するとなぜか傷つけ合ってしまう」関係を体験しています。それぞれの性格や経済状況、住環境などが複雑に影響して、あのような悲しい状況に陥ってしまうのだと思いますが、突き詰めれば「お互いに結婚相手を間違えた。どちらが悪いというわけではない」に尽きるでしょう。過ちはどこかで直視して正さねばなりません。

子どもや親が悲しむから簡単には別れられない? 自分が離婚の苦労や恥辱を味わいたくないための言い訳ではないですか。憎み合っている夫婦は不自然かつ非生産的です。そんな家庭環境で育つ子ども、やせ我慢をして表情が虚ろな息子や娘を見なくちゃいけない親のほうが不幸だと思います。

殴り合った末に離婚をしても、「自分は結婚に向いていないのではないか。次の相手とも傷つけ合ってしまう気がする」などと心配する必要はありません。あなたの体が「こういう人とだけは結婚してはいけない」と痛い思いをして学習していますから、次の結婚はきっと心地良いものになるはずです。暴力の「ぼ」の字も思いつかないような仲のいい夫婦になることでしょう。人は変われませんが、パートナーは替えることができるのです。

大宮冬洋
1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。ビジネス誌や料理誌などで幅広く活躍。著書に『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、共著に『30代未婚男』(生活人新書)などがある。
実験くんの食生活ブログ http://syokulife.exblog.jp/