■編集部より指令

経済広報センターが今年始めに行った調査(「女性の活躍推進に関する意識調査」)によると、男性の育児休暇取得について、92%が賛成と回答。

一方、実際に育児休暇を取得した男性はたったの1.89%(2012年)で、この5年間ほぼ横ばい。そのうえ取得期間が短く、「1カ月未満」が8割を占めています。

政府は「2020年までに13%」の目標を掲げていますが、なぜ、男性の育休取得は進みにくいのでしょうか。

■大宮冬洋さんの回答

男に育休は必要ない!?
http://president.jp/articles/-/13131

■佐藤留美さんの回答

日本企業で評価される男の3条件

日本で男性の育児休暇取得が進まない理由は、国も会社も実のところ、男の育休取得を奨励していないからだと思います。

つまり、男性も育休を取得できるという「制度」はあっても、それを実際取るという「風土」がない――。

それどころか、男性が育休を取得した場合、多くの会社では「アイツ、終わったな」という風に見られてしまうとは、複数の会社の人事担当者から聞いたことのある話です。

あまつさえ、育休を取得した男性の評価を下げるなど、ペナルティを与える企業があることも、私は知っています。

なぜ、日本は育休取得男性を罰するのか?

それは、日本の会社では、休まず、長い時間会社にいる奴がエライとみなされる――長時間労働至上信仰――が未だに強いからだと思います。

日本の会社では、一に便利な人間、二に役立つ人間、三に和む人間が評価されるという話を、ある大手企業の元役員から聞いたことがあります。

(1)の便利な人間とは、上司がムシャクシャして飲みに行きたい時やタバコ部屋に行きたいときなどに「行くぞ」と一声かければ「ハッ」と付いてくるような人間。

(2)の役立つ人間とは、その人にしかできない複雑な仕事を切り盛りできるなど、いわゆる仕事の出来る人間。

(3)の和む人間とは、いわゆるムードメーカー。宴会の盛り上げ役が得意など、部の雰囲気をよくする人間です。

この基準で言うと、厳密に仕事の質で評価されるのは(2)のみ。あとは、会社に長くいてナンボ、上司にみっちり張り付いてお仕えしてナンボで評価される世界です。

だからこそ、育休を取得する等育児に熱心な男性は、いくら(2)の要素が高くとも、(1)と(3)が低いと評価が減点されてしまうのでしょう。おかしな話です。

取得しないと罰せられる国も

それに、日本の場合、育児休暇中は「無給」というのも男性の育休取得率が上がらない大きな要因だと思います。

多くの家庭は男性が一家の主たる稼ぎ手という場合が多いから、コスト面を考えると、「女の私が休んだ方がトク」と考える人が多いのかもしれません。

しかし、世界を見渡すと、男性が育休を取得すると罰せられるどころか、育休を取得しないとかえって罰せられる国もあるのです。

たとえばノルウェーやスウェーデンでは「パパクオータ制度」という制度が導入されています。

ノルウェーの場合、赤ちゃんがいる夫婦は育休を最長で54週間、取ることができますが、父親も6週間育休を取得しないと、母親が育休を取る権利が消滅してしまいます。

つまり、夫婦ペアで育児をしない家庭は、国からペナルティを与えられてしまうのです。

なおかつ、ノルウェーやスウェーデンは育児休業中も、賃金のほとんどが保障される仕組みがあります。

スウェーデンの場合、育児休業が480日あり、うち390日は賃金の80%の手当が支給されます。ノルウェーでは、育休を52週取得した場合賃金の80%が、42週取得した場合は賃金の100%が保障されます。

ノルウェーの男性取得者は9割

こうした、罰則規定や賃金保障などの施策により、90年代まではわずか4%程度だったノルウェーの男性の育休取得率は、今や9割を超えるそうです。

もっとも、手厚い社会保障と引き換えに高い税金を支払う北欧の制度をそのままそっくり日本に“移植”するのは無理筋な話でしょう。

とはいえ、日本の組織が、男性が育休を取得しやすい風土を醸成することは、充分に可能なのではないでしょうか。

そのためには、まずはモーレツといっていいほど働き、仕事が出来ると周囲が認める人材にこそ、育児休暇を取得するように促す――ことが重要なのではないかと思います。

いわゆる「デキる人」が育休を取れば、かつてのように「育休を取る男性=終わった社員」という間違った認識を拭い去ることができますし、育児という貴重な経験が仕事にも生かせることを証明してくれるはずです。

実際、日本のある生命保険会社や銀行などでは、デキる男性社員に育休を取るよう促す――なんて取り組みが進みつつあるようです。

佐藤留美
1973年東京生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒。出版社、人材関連会社勤務を経て、2005年、企画編集事務所「ブックシェルフ」を設立。20代、30代女性のライフスタイルに詳しく、また、同世代のサラリーマンの生活実感も取材テーマとする。著書に『婚活難民』(小学館101新書)、『なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術』(ソフトバンク新書)、『資格を取ると貧乏になります』(新潮新書)、『人事が拾う履歴書、聞く面接』(扶桑社)、『凄母』(東洋経済新報社)がある。東洋経済オンラインにて「ワーキングマザー・サバイバル」連載中。