■編集部より指令

女性管理職を増やそうとする企業が増えてきましたが、登用の話を持ちかけても断られてしまうなど、昇進・昇格への意欲が低い女性に頭を痛める人事担当者も多いようです。

ズバリ、管理職になりたくない彼女たちのホンネとは? また、どうすれば彼女たちの気持ちを持ち上げることができるのでしょうか。

■大宮冬洋さんの回答

「ドラッカー好きのおじさん」の意識改革を! -管理職登用・男の言い分
http://president.jp/articles/-/12226

■佐藤留美さんの回答

東大を蹴って聖心女子大へ

筆者の世代には(40歳)、「東大にいく偏差値があるのに(もちろん模試はA判定)、あえて、推薦で聖心女子大に行く」同級生が普通にいました。

「東大女は可愛げがないと、男に引かれてしまう」のが理由だったようです。

そして、そういう女子層は(今ではリッパなオバハンですが)、だいたい専業主婦となり、こう言っては何ですが、どう考えても彼女らより賢くなさそうなご主人(でも、資産はある)に仕えています。

今の20代、30代の女性社員に、まさか筆者世代の「あえてキャリアアップを避ける」思想はないと思います。それでも、出世して悪目立ちしたくない、今のままがいいという、よく言えば「控えめ」、悪く言えば「消極的」な女性が多いのは、いたしかたないことだと思います。

ああはなりたくない

なぜなら、日本女性はそうやって躾けられてきたからです。

まさか「女性は男性より三歩下がって歩くべし」と言われた人はそうめったにいないでしょうが、「女は愛嬌が大事」とか「女の子は可愛ければいい」とか「料理の一つもできないとお嫁にいけないよ」くらい言われて育っている人が大半なのではないでしょうか。

会社に入ってからも、「女子には危ないから」とか言われて海外出張に行かせてもらえなかったり、接待の席でお酌やご飯の取り分け係をさせられていた人も多い。上司とカラオケに行けば、当然、キャーキャー言っての盛り上げ役を期待されてきました。

それが急に、仕事を頑張って頭角を現したからと言って「管理職になれ」と言われても戸惑ってしまうのは当然です。

また、管理職になってヨレヨレに疲れている女性上司を見て、「ああはなりたくない」と感じている人が多いのも事実です。

今年2月、リクナビNEXTが発表した「女性管理職に関する実態調査」によると、女性上司は男性上司と比べて、かなり寂しい身の上であることも判明しました。

たとえば、男性管理職は8割が既婚者なのに、女性管理職は半数近くが未婚でした。

また、男性管理職は8割が子持ちなのに、女性管理職は過半数が子供がいません。

懐事情も女性管理職は男性管理職に比べて寂しく、男性管理職の平均年収は890.6万円なのに、女性管理職は618.9万円と実に250万円以上の開きがありました。

家庭を持つことを犠牲にしてまでも仕事して会社に尽くしてきたのに、年収は男性に遠く及ばない……こんな現状では、若い女性が「管理職になりたくない」と感じてしまうのは仕方がない気がします。

では、どうすれば、女性社員に、管理職になってみたいと思わせられるのか?

まずは、「家庭と仕事を両立させながら、管理職として活躍する」女性管理職の事例を増やすことだと思います。

もっとも、現状の日本の企業は、育休の延長や短時間勤務制度の普及など各種両立支援制度は、他の先進国と比べて、かなり充実しています。

とはいえ、短時間制度を取りながらも管理職に登用された、出世したという例はほとんど聞きません。

短時間勤務制度を利用していても、仕事の生産性を上げて、充分に目標を達成している女性ならば、どんどん管理職に登用してもいいのではないでしょうか。

実際、北欧やアメリカでは「マネージャー業務のワークシェアリング」を進めることで、「時短リーダー」「時短マネージャー」さらには「時短役員」までいる会社はザラにあります。

その方法としては、たとえば時短勤務のリーダー同士が一つのリーダー(マネージャー)業務を「昼リーダー」「夜リーダー」という風に完全シェアするのです(もちろん、お給料も2人のリーダーがシェアすることになりますが、お互い、管理職業務を経験するという貴重な機会を手にすることができます)。

あるいは、時短勤務のリーダーが一つのリーダー業務を基本1人で遂行しながらも、その人がいない時間帯に、もう1人、バックアップのリーダーを張り付ける会社もあります。

この取り組みを実現するには、2人のリーダーがITなどを活用して、完璧に情報共通することなど様々な条件はありますが、将来的に女性役員候補などを作っていく上では、必要な投資なのではないでしょうか。

また、若い女性社員に、管理職になったほうが仕事が楽しくなる、両立もしやすくなるなど、人生にプラスなんだと思わせる、社内啓蒙活動も欠かせないと思います。

多くの女性社員が大きな誤解をしていますが、私が取材した限り、実はエラくなったほうが、家庭との両立もしやすいし、やりたい仕事をやりやすいという側面があります。

たとえばヒラは今から帰ろうかと思った矢先に上司に「この資料、明日までにまとめといて」と言われてしまえばそれまでですが、管理職ともなると、自分の裁量、采配でスケジュールを組み立てることが出来ます。

そして、ヒラの時代は、上司から振られた仕事は嫌でもやるしかありませんが、管理職ともなれば自分のやりたい仕事を顧客や社内に提案し、それを通せば、出来る利点があります。

もちろん、今の管理職は自分自身もプレーヤーとしての責任を負ったプレイングマネジャーが多く、仕事が大変なことに間違いはありません。それでも、社内的社会的に影響力の大きい仕事が出来るなど管理職はヒラには味わえないアドバンテージはたくさんあります。

こうした、「いい側面」は、どんどん開示し見せてあげることが重要だと思います。

さらには、管理職になったその後、どんな道が開けるか「キャリアパス」を示す――。ここまですれば、「マーネジャーになってみたい」と思う女性は確実に増えるはず。

その前段階として、まずは、管理職に興味がある女性は、どんどん抜擢し、責任あるポジションにつける。あるいは、女性も社内のリーダーシップ研修などにどんどん出すことが重要だと思います。

一度、マネジメントの面白さ、エラくなることで得られる特権を知ってしまえば、多くの女性がそれを手放さないのではないでしょうか。

いや、もしかして、男性は女性をライバルから排除するため、これまでわざと管理職の利点を知らせなかっただけだったりして……とまで言ったらイジワルですかね。

佐藤留美
1973年東京生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒。出版社、人材関連会社勤務を経て、2005年、企画編集事務所「ブックシェルフ」を設立。20代、30代女性のライフスタイルに詳しく、また、同世代のサラリーマンの生活実感も取材テーマとする。著書に『婚活難民』(小学館101新書)、『なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術』(ソフトバンク新書)、『資格を取ると貧乏になります』(新潮新書)、『人事が拾う履歴書、聞く面接』(扶桑社)、『凄母』(東洋経済新報社)がある。東洋経済オンラインにて「ワーキングマザー・サバイバル」連載中。