入社を30歳まで延期可能
「できちゃったけど、産むし、働きます」
内定中に妊娠した……。でも企業と交渉し、赤ちゃんを産んで、1年後に入社するという話を、昨年2つの大学で聞きました。
そうだよね。少子化と女性活用の昨今、これで「内定取り消し」にしたら、企業サイドだって評判悪くなるものね……と非常に納得しました。
そして先日こんなニュースが。
「ユニ・チャームは2015年度の新卒採用から、入社前後に出産する予定の女性の内定者が、入社時期を30歳まで先延ばしできる仕組みを始める」(2014年2月28日読売新聞)
つまり「内定中に妊娠した」人の入社を制度化したのです。なぜこのような制度ができたかと言えば「過去の採用活動で、妊娠中の女性が内定を辞退したことがあったため、対応策を検討していた」からだといいます。それだけ、最近は「妊娠をあきらめない」人が増えているのでしょう。妊娠というのが非常に貴重な機会だという意識が若い人に浸透しているなら、それはとても素晴らしいことです。
またユニ・チャームといえば、生理用品、紙おむつ(子ども用、大人用)のメーカなので、出産、子育てする人はお客様。ここで内定取り消しというわけにはいきません。
この記事をFacebookでシェアしたところ、思いもかけず多くの反響がありました。中には「かつて断腸の思いで内定を辞退した」という方も。
以前は「本人が不注意だったとあきらめ」「内定を辞退する」という流れが普通だったのでしょう。友人のキャリアウーマンにも、「大学在学中に妊娠したので、結局まともな就職活動ができなかった」という方が何人かいます。しかし紆余曲折を経て、みんな活躍する女性になっているので、もともと優秀な人たち。内定を辞退しないでも良い制度があったら、会社でも活躍しただろうに……と思うと、その損失は会社のほうが大きいかもしれません。
加齢による不妊治療が世界一多い理由
その彼女たちがみんな口をそろえて言うのは「いつ妊娠しても不利にならない世の中になってほしい」ということ。
「仕事をしたかったら、ちゃんと妊娠しないようにしなさい」「仕事があるのに、子どもをつくってしまうなんて、けしからん」というのは、安藤美姫さんが25歳で出産した時、散々言われたことです。
しかし25歳といえば「妊娠に最も適した時期」ど真ん中です。
そもそも妊娠と仕事は対極にあるもの。妊娠とはいくらコントロールしてもしきれない神様からの贈り物であり、キャリアはコントロールしていくものです。
この連載もそうですが、「産む」×「働く」という、対極のものを一緒くたに考えること自体が、本当は無理なんですね。
「いつ産んでもおかしくない」女性たちが、今までは無理やり出産の時期を仕事に、会社の都合に合わせてきた。そろそろ、そんな無理は限界です。だから、加齢による不妊治療が「世界一多い国」になってしまうのです。
ユニ・チャームの制度は「入社時期は30歳を上限として、個別に相談」となっています。入社した時点からが新人の扱いです。私もかねてから「子育て後新卒」があってもおかしくないと思っていました。別に30歳の新人がいてもいいじゃないですか?
え、おかしい? 何がおかしいのでしょう?
日本のように仕事と年齢が関連している国は珍しい。海外なら、入社時期も経験も年齢も結構バラバラです。新卒採用で、1年ずつ、横並びに経験を重ねて行くのが当たり前になっているから、出産、子育てのブランクが「取り返しがつかない」ことになってしまう。内定時に妊娠してしまうと、断腸の思いでどちらかをあきらめなくてはいけない。
仕事も大事ですが、子どもがほしい人にとっては妊娠も大事です。
どちらも大事にできる世の中になってほしい。
今後はこのあたりをないがしろにする企業には、良い人材は集まらないと思います。
バリキャリ派でも半数が「早く産みたい」
私が大学生を相手にとっているアンケートでは、バリキャリで一生働きたいという学生は、早稲田の女子で43%、さらにその内訳を見てみると、バリキャリ派でも47%の人が「早く結婚して早く産む」派でした(早稲田大2012年 2、3年生 112人のアンケート結果)。他の女子大でもバリキャリ派の中の5割以上が「早く結婚して早く産む」派でした。
実際に女子大生に接していても「仕事もやる気があるし、優秀」という人は「結婚も子育てにも意欲的」なのです。仕事のために「結婚や出産は後回し」という女性のほうが「仕事をやる気があるだろう」というのは昔の話です。
優秀な女性がほしいと思ったら、早く結婚して産んでも不利にならないマネジメントが必要になります。
昨年ある女性の涙を見ました。彼女は女性が活躍することで有名な某企業に入って1年目。つい先日まで女子大生だった彼女に久々に会ったら「結婚しました」と満面の笑みで報告してくれました。
でもその後、話しながら彼女は涙になりました。
「入社1年目で、もう結婚するんだ」「もう御祝金もらうの?」
そんな冷たい声が周囲から投げかけられたそうです。「結婚したら、もう仕事をする気がないなんて、絶対に思っていないのに」と悔しそうに言います。
彼女を学生時代から知っていますが、優秀で意欲的で、できる学生オーラを放っていた人です。でも、そんな彼女が入社1年目でやる気をなくしてしまうような環境がある。人材の無駄遣いです。
ライフネット生命は「30歳まで新卒扱い」で「ふつうに採用したら60歳の人もいた」ということです。年齢と仕事をくっつけることに、そんなに意味があるとは思えない。「子育て後新卒」が可能になる社会になってほしいものです。
少子化ジャーナリスト、作家、昭和女子大女性文化研究所特別研究員、大学講師
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)。