「毎食同じ」で「決断疲れ」と無縁に
本書『食べたいものを、食べていい 「毎日牛丼」生活も肯定する科学』では、毎日同じ食事でも健康を維持できることを見てきました。
でも、「毎日同じでも大丈夫」と聞いても、まだ不安に感じる人もいるかもしれません。
「本当に大丈夫なのかな」
「何か問題があるんじゃないか」
そこで、今回は、少し視点を変えて考えてみましょう。実は、「毎日同じ」には、意外なメリットがたくさんあるのです。
現代人は、毎日たくさんの決断をしています。朝起きてから夜寝るまで、仕事でも、家庭でも、無数の選択を迫られます。そして、「今日の食事は何にしよう」という選択も、その一つです。
朝は何を食べる? 昼は何にする? 夜は何を作る?
この選択は、実は思っている以上にエネルギーを消費しています。心理学では、これを「決断疲れ(decision fatigue)」と呼びます(*1)。一日のうちに何度も決断を繰り返すと、脳が疲労し、判断力が低下します。すると、夕方になると「もう何も考えたくない」「とりあえず簡単なもので」となってしまうのです。
でも、もし毎日の食事が「だいたい決まっている」としたら、どうでしょう?
朝はトーストと目玉焼き。昼は牛丼。夜は焼き魚とご飯。決まっていれば、考える必要がありません。迷う必要もありません。
その分の脳のエネルギーを、もっと大切なことに使えます。
“重要な決定”に集中するための戦略
実は、世界的な成功者の多くが、「毎日同じ」を実践しています。
アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏は、毎日同じ黒のタートルネックとジーンズを着用していました。Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグ氏も、毎日同じようなグレーのTシャツを着ています。彼らは、「重要でない決断を減らすことで、重要な決断に集中する」という戦略を取っているのです。
食事も同じです。「だいたい決まっている」ほうが、楽なのです。
毎日似たようなものを食べていると、買い物リストも自然と固定されます。たとえば、朝はトーストと卵、昼は牛丼、夜は焼き魚という生活なら、食パン、卵、レタス、トマト、牛乳、牛肉、魚(鮭)、野菜(玉ねぎ、にんじん、大根)、果物(バナナ、りんご)、味噌、出汁。毎週、だいたい同じものを買うだけ。スーパーでウロウロ悩む時間がなくなります。買い忘れもなくなります。
そして何より、食費の予算が立てやすくなります。毎週の出費がほぼ一定になるからです。これは、意外と大きなメリットです。
同じパターンの反復によるメリット
同じ料理を繰り返していると、自然と手際がよくなります。目玉焼きを毎朝作っていれば、黄身のかたさも思いのまま。牛丼を週5で食べていれば、どの店のどのメニューが自分に合うかが分かってきます。焼き魚を毎晩焼いていれば、焼き加減も完璧に。
同じことを繰り返すことで、スキルが上がり、時間も短縮され、失敗もなくなります。これは、料理が苦手な人にとっては、特に大きなメリットです。
毎日違うものを食べていると、「今日は栄養が足りているかな」と不安になることもあります。でも、毎日似たようなものを食べていれば、一度バランスを整えてしまえば、あとは繰り返すだけです。
たとえば、
朝:トースト、卵、サラダ、牛乳
昼:牛丼、味噌汁、サラダ(小)
夜:焼き魚、ご飯、野菜、味噌汁
この組み合わせで一度栄養バランスを確認すれば、あとは毎日これを繰り返すだけで、自動的に栄養が確保されます。毎日計算し直す必要がありません。
これは、栄養管理が苦手な人にとって、大きな安心感につながります。
「体の声」が聞きやすくなる食事の安定化
意外かもしれませんが、「毎日同じ」は心の安定にもつながります。食事が安定していると、生活のリズムが整います。
朝は7時に起きてトーストを食べる。
昼は12時に牛丼を食べる。
夜は7時に焼き魚を食べる。
このリズムが体に染み付くと、体内時計が整いやすくなり、睡眠の質にも良い影響が期待できます。そして何より、「今日もおいしいものが食べられる」という安心感が生まれます。
変化や刺激も楽しいですが、安定や安心も、同じくらい大切です。特に、忙しい日々を送っている人にとって、食事くらいは「いつもの安心」があってもいいのではないでしょうか。
不思議なことに、毎日似たようなものを食べていると、たまに体が「今日は違うものが食べたい」と教えてくれます。これは、体が本当に必要としているものを知らせてくれているサインです。毎日同じだからこそ、変化が欲しいときに気づけるのです。
逆に、毎日違うものを食べていると、このサインに気づきにくくなります。「毎日同じ」は、自分の体の声を聞きやすくする、という意外なメリットもあるのです。
ここまで「毎日同じ」のメリットを紹介してきました。でも、「毎日同じでなければいけない」と言っているわけではありません。
「毎食同じでも大丈夫」と知ることの重要性
飽きたら、変えていいのです。
牛丼に飽きたら、カレーに変える。焼き魚に飽きたら、焼肉に変える。そして、また戻る。または、新しい定番を見つける。
大切なのは、「毎日同じでも大丈夫」と知っていることです。そうすれば、「毎日いろいろなものを食べなきゃ」というプレッシャーから解放されます。食べたければ変える。飽きなければ続ける。その自由があるのです。
もし「毎日まったく同じは難しい」と感じるなら、こんな考え方もあります。3つのパターンを用意して、ローテーションするのです。
パターンA:牛丼の日
朝:トースト、卵
昼:牛丼
夜:焼き魚
パターンB:カレーの日
朝:ご飯、納豆
昼:ラーメン
夜:カレー
パターンC:コンビニの日
朝:バナナ、ヨーグルト
昼:コンビニ弁当
夜:肉野菜炒め
このように、3つのパターンをローテーションすれば、完全に「毎日同じ」ではないけれど、でも「だいたい決まっている」という安心感があります。これも一つの方法です。
“健康情報”の落とし穴に要注意
世の中には、「毎日いろいろなものを食べなければいけない」という強迫観念があります。
でも、それは必ずしも正しくありません。本書で見てきたように、私の祖父母も、動物も、長寿地域の人々も、毎日シンプルな食事を繰り返しています。
そして、牛丼でもラーメンでも、工夫次第で健康的に過ごせます。だから、もしあなたが「毎日同じものばかり食べている」と罪悪感を抱えているなら、少し柔軟に考えてほしいのです。
毎日同じでも、大丈夫。むしろ、楽で、安定していて、心地よい。それも、立派な食べ方の一つなのです。
前回述べたように、私の祖父母が90歳を超えるまで元気だったのは、毎日干物を食べていたから――ではありません。毎日干物を食べていても、元気だった――のです。この違いは、とても大きいのです。
私たちは、つい「○○を食べれば健康になる」「○○を食べてはいけない」という情報に惑わされがちです。でも、健康は、そんなに単純なものではありません。
本書で見てきたのは、「毎日同じでも大丈夫」ということでした。動物も、長寿地域の人々も、そして私の祖父母も、毎日シンプルな食事を繰り返していました。
でも、ここで一つ、重要なことに気づいてほしいのです。
食事だけではない健康寿命の要素
彼らは、「毎日同じだから」健康だったのでしょうか?
違います。彼らは、「毎日同じでも」健康だったのです。
長寿地域の人々が長生きしている理由は、食事だけではありません。適度な運動、家族や地域とのつながり、ストレスの少ない生活、生きがい――これらすべてが複雑に絡み合っています。
動物が健康なのも、毎日同じ餌を食べているからではなく、その餌が体に合っているからです。祖父母が元気だったのも、干物を食べていたからではなく、毎日畑に出て体を動かし、家族と笑い、好きなものを安心して食べていたからです。
つまり、「毎日同じ」は、健康の必要条件ではありません。でも、「毎日同じでも大丈夫」という事実は、私たちに大きな自由を与えてくれます。
毎日の食事で何よりも大切なこと
世の中には、「食の多様性」という言葉があります。「毎日いろいろなものを食べましょう」――栄養指導でよく聞く言葉です。
これは、間違ってはいません。さまざまな食材を食べることで、不足しがちな栄養素を補える可能性は高まります。
でも、だからといって、「毎日同じではいけない」というわけではないのです。
必要な栄養素が確保できていれば、毎日同じでも健康に過ごせます。毎日大好きな牛丼でもラーメンでも、工夫次第で栄養バランスは保てます。大切なのは、「多様であること」ではなく、「必要な栄養が揃っていること」です。
そして、もう一つ。本書で何度もお伝えしているメッセージ。「安心して、おいしく食べること」です。
毎日違うものを食べようとして、献立に悩み、買い物で迷い、調理に疲れる。それがストレスになってしまっては、本末転倒です。
食事は、楽しく、安心して、おいしく食べるためのものです。義務でもありません。だから、もしあなたが毎日同じようなものを食べていて、それが心地よいなら――。それでいいのです。
罪悪感をもつ必要は、まったくありません。
【参考文献】
*1 Vohs,K.D.,Baumeister,R.F.,Schmeichel,B.J.,Twenge,J.M.,Nelson,N. M.,& Tice,D.M.(2008). Making choices impairs subsequent self-control: A limited-resource account of decision making,self-regulation,and active initiative. Journal of Personality and Social Psychology,94(5), 883-898.
