健やかな食生活を支えるものは何か。『食べたいものを、食べていい 「毎日牛丼」生活も肯定する科学』(光文社)を出した実践女子大学教授の守田和弘さんは「食欲を我慢するのではなく『なぜ、それを食べたいのか?』を観察すると、自分の体調が見えてくる」という――。
ビールジョッキと唐揚げ
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「食欲」は体からのサイン

「今日はなんだか、いつもと違うものが食べたい」――そう感じたことはありませんか?

私たちの体は驚くほど賢く、その時々の状態に応じて「今、必要な栄養素」を的確に欲するようにできています。

たとえば、こんな経験はないでしょうか。

「昨日はパンが食べたかったけど、今日はご飯が食べたい」
「普段はコーヒーなんだけど、今日は紅茶が飲みたい」

これは気まぐれではありません。昨日と今日で、あなたの体のコンディションが変わったからです。

疲労の度合い、睡眠の質、ストレスレベル、ホルモンバランス、体調――。こうした目に見えない変化を、体は「食欲」という形で教えてくれているのです。

そして、この「体からのメッセージ」を読み解けるようになれば、あなたは自分の体のコンディションをより深く理解し、必要な栄養を的確に補えるようになります。

では、具体的にどんなコンディションが、どのような食欲を生み出すのか。代表的な例を一つずつ見ていきましょう。

case 1 疲れているとき、甘いものが食べたくなる

「今日は疲れた……チョコレートが食べたい」

仕事や勉強で疲れた日、無性に甘いものが欲しくなる――これは誰もが経験することです。

研究室の学生たちも、試験前になると「糖分が欲しい」とよく言います。これには、ちゃんと理由があるのです。

本書『食べたいものを、食べていい 「毎日牛丼」生活も肯定する科学』で先に触れましたが、脳は主にブドウ糖(グルコース)をエネルギー源として利用しています。強い集中や疲労が続くと、脳はエネルギーを大量に消費するため、「糖を補給してくれ」とシグナルを送るのです。

さらに、甘いものを食べると、脳内でドーパミンなどの快感をもたらす物質が放出され(*1)、一時的に気分が落ち着くため、体は本能的に糖を求めるのです。

〈体からのメッセージ〉
「脳のエネルギーが切れています。糖を補給してください」

〈対策〉
我慢せず、少量の甘いものを食べましょう。チョコレートなどのお菓子もいいですが、バナナやドライフルーツなど自然な糖分もおすすめです。果物には糖質だけでなく、ビタミンやミネラルも含まれているので、一石二鳥です。そして、「また糖分とりすぎた」と自分を責めないこと。体が求めているのですから。

運動後や睡眠不足時に欠乏するモノ

case 2 運動後、肉が食べたくなる

「ジムに行ったあと、がっつり焼肉が食べたい!」

運動後に肉や卵など、タンパク質が豊富な食べ物を欲するのも、体からのサインです。

「せっかく痩せるために運動したのに、食べたら意味ないじゃない!」――そう思う方もいるかもしれませんね。

でも体からのメッセージには理由があります。

運動をすると、筋肉の繊維が微細に損傷します(*2)。体はこれを修復するために、タンパク質(アミノ酸)を必要とします。さらに、運動でエネルギーを消費すると、糖質の貯蔵庫も空っぽになるため、炭水化物も欲します。

〈体からのメッセージ〉
「筋肉を修復するために、タンパク質が必要です」

〈対策〉
運動後30分〜2時間以内にタンパク質を摂取すると効果的です。肉、魚、卵、豆腐、納豆など、選択肢はたくさんあります。動物性と植物性、どちらでも構いません。炭水化物(ご飯、パン、麺類)も一緒にとると、筋肉の回復がさらに効率的になります。
運動後に一杯のビールと唐揚げ――実はこれ、結構理にかなった組み合わせなのです(もちろん、飲みすぎは禁物ですが)。

case 3 睡眠不足のとき、ジャンクフードが食べたくなる

「昨日寝不足……なんだかポテチや揚げ物が食べたいな」

睡眠不足のとき、なぜか高カロリーなジャンクフードが食べたくなります。

睡眠不足になると、食欲に関わるホルモンのバランスが崩れることが知られています。具体的には、食欲を増進させる「グレリン」が増え、満腹感を与える「レプチン」が減少するのです(*3)

さらに、理性的な判断をする脳の部分の働きが鈍くなり、「我慢する力」が弱まります。その結果、高カロリーで手軽な食品に手が伸びやすくなるのです。

〈体からのメッセージ〉
「エネルギー不足です。手っ取り早くカロリーを補給してください」

〈対策〉
一番の解決策は「睡眠をとる」ことです。でも、どうしても食べたいなら少量だけにして、なるべく睡眠を優先しましょう。
ちなみに、ナッツ類も高カロリーですが、良質な脂質とタンパク質が豊富で、満足感も得られます。ジャンクフードの代わりにアーモンドやカシューナッツを常備しておくのも一つの手です。

スプーンとミックスナツ
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体調が悪いときに体に効くモノ

case 4 風邪をひいたとき、消化の良いものが食べたくなる

「風邪のときは、おかゆやうどんが食べたい」

体調が悪いとき、なぜか「あっさりしたもの」「消化の良いもの」が欲しくなります。風邪をひくと、体は免疫システムをフル稼働させてウイルスと戦います。このとき、消化にエネルギーを使うと回復が遅れるため、体は本能的に「消化に負担の少ないもの」を求めるのです。

消化に時間がかかる脂っこいものや重いものは、胃腸に負担をかけ、体調回復を遅らせることがあります。そのため、体は「消化しやすいもの」を自然と欲するのです。

〈体からのメッセージ〉
「今は回復に集中したい。消化の良いものをください」

〈対策〉
お粥、うどん、雑炊、スープなど、温かくて消化の良い食べ物がおすすめです。
お粥に梅干しを添えると、塩分とクエン酸が補給でき、食欲も出やすくなります。うどんなら、卵を落として軽くタンパク質を加えるのもいいでしょう。
水分補給も忘れずに。スープや味噌汁なら、水分と栄養を同時にとれます。無理に食べなくても大丈夫ですが、少しずつでも口にできると、回復が早まります。

梅干し
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case 5 生理前・生理中、特定のものが食べたくなる

「生理前って、なんでこんなに甘いものが食べたくなるの?」
「生理中は、お肉が食べたくなる」

女性の場合、生理周期によって食欲が大きく変化します。生理前(黄体期)は、プロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が高まり、体がエネルギーを蓄えやすい状態になると考えられています(*4)。そのため、いつもより食事量が増えたり、甘いものを欲したりする人も少なくありません。

一方、生理中は鉄分が失われるため、赤身肉、ほうれん草など鉄分の多い食品を欲することもあります。

〈体からのメッセージ〉
「ホルモンバランスが変化しています。糖と鉄分が必要です」

〈対策〉
我慢しすぎないこと(食べすぎなければOK)。この食欲の変化は、「意志」の問題ではなく「ホルモンの影響」が大きいのです。
鉄分補給には、レバーや赤身肉が効果的ですが、苦手な方は小松菜やほうれん草、納豆、ひじきなどの植物性食品でも補えます。ビタミンCと一緒にとると吸収率が上がるので、食後にみかんやキウイを食べるのもおすすめです。

イライラに負けない食習慣

case 6 ストレスがたまったとき、こってりしたものが食べたくなる

「イライラすると、ラーメンや揚げ物が食べたくなる」

守田和弘『食べたいものを、食べていい 「毎日牛丼」生活も肯定する科学』(光文社)
守田和弘『食べたいものを、食べていい 「毎日牛丼」生活も肯定する科学』(光文社)

ストレスがたまると、高カロリーで脂っこいものが無性に食べたくなります。ストレスがかかると、コルチゾール(ストレスホルモン)が分泌されます。コルチゾール値の上昇は食欲の増加と関連し、高カロリーな食品を選びやすくなることが知られています。

さらに、脂質と糖質の組み合わせ(揚げ物、ラーメン、ケーキなど)は脳の報酬系を刺激し、一時的に気分をやわらげることがあります。

「やけ食い(情動的摂食)」も、実はこうした脳の仕組みと関係している行動と考えられています。

〈体からのメッセージ〉
「ストレスに対抗するため、エネルギーを蓄えたい」

〈対策〉
完全に我慢する必要はありません。ラーメンも唐揚げも、食べたいなら食べていいのです。ただし、ストレスの根本原因にも対処しましょう。散歩、睡眠、深呼吸などの気分転換も有効です。
ちなみに、青魚(サバ、サンマ、イワシなど)に含まれるオメガ3系脂肪酸は、ストレス軽減効果があると言われています。揚げ物の代わりに、焼き魚を選ぶのも一つの選択肢です。もちろん、どうしても揚げ物が食べたいときは、罪悪感なくそれを楽しんでください。

「食べたい」味にはワケがある

ここまで6つのケースで、体の状態によって食べたいものが変わる理由を見てきました。図表1にまとめましたので、ご自身の経験と照らし合わせてみてください。

「食べたい」という気持ちは、体の状態を教えてくれるセンサーです。

我慢するのではなく、「なぜ今これを食べたいのか?」と観察してみる。そうすると、体が何を求めているのかが見えてきます。

【参考文献】
*1 Benton, D., & Donohoe, R. T.(1999). The effects of nutrients on mood. American college of sports medicine joint position statement. Public Health Nutrition, 2(3A), 403-409.
*2 Thomas,D.T.,Erdman,K.A.,& Burke,L.M.(2016).Nutrition and athletic performance. Medicine & Science in Sports & Exercise, 48(3), 543-568.
*3 Spiegel,K.,Tasali, E. Penev,P.,&Van Cauter,E.(2004). Brief communication: Sleep curtailment in healthy young men is associated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite. Annals of Internal Medicine, 141(11), 846-850.
*4 Buffenstein,R.,Poppitt,S.D., McDevitt,R.M.,& Prentice,A.M.(1995). Food intake and the menstrual cycle: A retrospective analysis, with implications for appetite research. Physiology & Behavior, 58(6),1067-1077.